『九月に降る風』の林書宇トム・リン監督が、自身の妻の死を経て作った作品。
交通事故の現場から物語は始まる。多重事故で妊娠中の妻を亡くしたユーウェイ(石錦航シー・チンハン、五月天:石頭)と、料理人の婚約者を亡くしたシンミン(林嘉欣カリーナ・ラム)。ユーウェイの家に同僚や友人、親族が弔問に訪れるが、ユーウェイの心は悲しみを抱えたまま。クリスチャンの親戚が聖書の言葉や讃美歌を歌っても、空々しく聞こえ全く心に響かない。同僚の女性を自宅に送った時に一夜を共にするが、心ここにあらずといった感じ。ピアノ教師だった妻が生前集めた月謝を返金しに、生徒の家を一軒一軒ユーウェイは訪ね歩く。
彼と一緒に住むはずだった新居の荷物を片付けたシンミンは、婚約者の弟のところへ荷物を持っていきマンガの趣味など思い出を語り合う。彼の実家がある高雄で葬儀を終えて、シンミンは一人新婚旅行を計画していた沖縄へ行き、彼の作ったガイドに従って旅をする。
ユーウェイとシンミンが何か絡むのかと思っていたら、事故の被害者を対象にした合同法要で同席するだけで、基本的には2つの別々のストーリーが進むって感じ。ドラマチックじゃないけれど、2人が法要で顔を合わせて少し会釈する程度がリアルな描写なんだろうなあ。シンミンが辿った沖縄グルメ、お店の名前が知りたい!竹富島のお店の名前はあるけれど、那覇のお店が。。。あのレンヨウお手製のガイドブックが欲しいなあ。
交通事故だから、日常が突然姿を変えてしまう。昨日まで隣にいて普通に言葉を交わしていた人が、今はいない、そうした突然の喪失感、親しい人の死の事実を受け入れることの難しさがひしひしと迫ってきます。林書宇監督の実体験が大きく影響しているのでしょう。
時が癒す、というのはよく言ったもので、劇中でも初七日、五七日、四十九日、百日と節目節目に合同法要が営まれ、そこに参列することで時の流れを改めて認識しているのかなあ、と思いました。初七日と四十九日は自分も何度か経験しているけれど、五七日と百日は初めて聞いたからへーって感じ。仏教の死者を弔う儀式としてはあるのかもしれないけれど、日本の風習の中には根付かなかったってことでしょうか。
悲しみをどうやって受け入れていくのか、先達の知恵に従う部分と故人の想いに寄り添う部分と、なかなか難しいですね。
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2/25 渋谷ユーロスペース
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