急激な経済成長で露わになった中国社会のひずみを、范冰冰ファン・ビンビン、梁家輝レオン・カーフェイ主演で描く。監督は『ブッダ・マウンテン』の李玉リー・ユー。
苹果(范冰冰)は、田舎から北京に出てきてマッサージ店で働いている。結婚していることは店には内緒で、同じように田舎から出てきた小妹を可愛がって客あしらいの相談を受けたりする。林東(梁家輝)はマッサージ店のオーナー、子供がいないこともあり、妻との関係は冷え切っている。
小妹が客に粗相をして店をクビになった夜、慰めながら飲み過ぎて酔っぱらった苹果は、店の空き部屋で寝てしまう。あられもない寝姿を見た林東は、欲情して強引にその場で関係を持つが、ちょうど窓拭きに来ていた苹果の旦那、安坤([イ冬]大為トン・ダーウェイ)がその現場を目撃して怒鳴り込んでくる。林東は相手にせず追い返すが、苹果が妊娠したことを知ると旦那との取引に応じて、自分の子供だったら10万元で引き取る契約を結ぶ。。
中国社会のひずみが、そこかしこで噴出しています。最も大きなものはストーリーの核となる子供の売買。金で子供を買い、金で子供を売る、中国では多くの乳幼児が誘拐されて行方不明になり、そうした子供(男の子)を買う人がいるというニュースを見たばかりなので、なおさらフィクションではなく現実味を帯びて迫ってきます。
家の跡継ぎの男の子が尊ばれる昔ながらの風潮に拝金主義が拍車をかけて、赤ん坊の売買が成立しているのでしょう。しかし、林東はDNA鑑定で生物学的に自分の子供ではないとわかっても数週間でも自分の子として育てた男の子に愛情を感じたのか、一方安坤もわざわざ血液型を偽ってまで10万元と引き換えた赤ちゃんなのに、幸せそうに子育てをする林東と苹果を見て情がわいたのか、いきなり赤ちゃんを林東の家から連れ去ってしまいます。
小妹の運命も悲惨なものでした。マッサージ店をクビになった後、登場するたびに化粧と服装が派手になっていき、たぶん街娼にまで落ちていたのでしょう。最後は通り魔か何かの殺人事件の被害者として、苹果が遺体の本人確認をします。日本でもありそうな、田舎から上京してきた若い女性の転落人生そのものです。
北京の街並みも、高層ビルが林立して東京と遜色ない地区のすぐ脇に舗装されていない道が伸び、苹果たちが住んでいるようなゴミゴミしたアパートが建ち並ぶ開発から取り残されたような地区があり、まるで『嘆きのピエタ』の舞台になったソウル清渓川地区のようです。東京でいうと、バブルの時期に地上げでポツンと取り残された場所を彷彿とさせます。
中国本土では過激な性描写が理由で上映禁止になったらしいけどそのシーンは日本では大人しいくらいのもので、確かに中国なら規制されるレベルかもしれませんが、むしろ社会のひずみをリアルに描いている部分が当局の気に障ったのでは、と邪推してしまいます。
范冰冰が常盤貴子に似ていると思うのは、自分だけかな。
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