まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

罪と罰の迷宮

2015-11-12 | ドイツ、オーストリア映画
 「顔のないヒトラーたち」
 1958年の西ドイツ、フランクフルト。ジャーナリストのグルニカは、元ナチス親衛隊員が小学校の教師をしている事実を突き止める。グルニカの告発に心揺さぶられた若き検事ヨハンは、周囲の反対を押し切り調査を進めるが…
 ナチスドイツの非道さ、残虐さを描いた映画は枚挙にいとまがありせんが、この映画も悲痛で重苦しい内容でした。アウシュヴィッツの悲劇、人間がやったこととは信じられない、信じたくない。日本人の私でさえ耐えがたい気持ちに襲われるのに、当事者のドイツ人にとっては…と察するに余りある。恐ろしい恥ずべき過ちは、どこの国も背負っていますが…ナチス時代のドイツ人のユダヤ人虐殺は、人類史上最大級の禍根。この映画では、ドイツ人がドイツ人を断罪しなければならない悲劇を描いていて、時間が経っても決して忘れられない、癒えない傷の深さ、痛みに暗澹となってしまいました。
 アウシュヴィッツの真実が、おぞましすぎて…それを再現するシーンとかはなかったのが、少し救いになりましたが…収容所の生き残りであるシモンが語る、彼の双子の娘に施された悪魔の人体実験とか、やめてー!と耳を塞ぎたくなった。ナチスの残虐行為だけでなく、罪を問われることなく平然と社会生活を送っている元ナチスの人たちと、彼らによって生き地獄を味わった被害者が、戦後の社会で表面的には何事もなかったように共生しているという事実にも、衝撃と恐怖を覚えました。悪魔の所業に及んでいた元ナチスが、金持ちの実業家とか尊敬される教師とか親切なパン屋さんとか、平和で豊かな生活を送っていたり。あんな地獄を体験して、気も狂わずに生きてる被害者もそうですが、厚顔無恥という表現では足りないような元ナチスも、人間って強い生き物なんだな~と戦慄。

 怖かったのは、そんなに遠い昔のことではないのに、戦後のドイツ人の多くがナチス時代に関して無知無関心だったこと。主人公のヨハンや若い人たちが、アウシュヴィッツのことを知らなかったのがショッキングでした。そして、ナチス時代をよく知る人たちの、臭いものには蓋をしろ!的な考え方や生き方にもゾっとしました。あまりにも重い辛い過去ゆえに、蒸し返したくない、ほじくりかえさないで!という気持ちは解からないでもないけど、隠蔽や忘却するにはあまりにも大きく深い罪業。無知無関心、そして沈黙することの罪深さも、あたらめて思い知りました。
 表面的には平和な世の中になってるけど、ナチスは決して根絶されておらず、影のようにそこかしこに存在している…ヨハンや仲間たちが受ける妨害や圧力に、戦後ドイツ社会の暗部を思い知らされました。信じがたかったのは、ナチスの高官や人体実験を指揮した医師が、手厚く保護されていたこと。“死の天使”と恐れられていた悪魔の人体実験ドクター、メンゲレの追跡劇もサスペンスフルに描かれていますが、スルリと堂々と追尾をかわすメンゲレに、いったい世の中どーなってるの、とヨハン同様に観客も絶望感に苛まれてしまいます。

 メンゲレのような大物は逃しながらも、小物はじゃんじゃか捕まえていくヨハンたち。捕えても反省どころか罪悪感のかけらもなく、ナチスの面影をうかがわせる被告人たちは、悪人を成敗してる!という勧善懲悪気分にさせてくれません。ガス室に送ってやる!と罵る元ナチスの老教師とか、三つ子ならぬナチスの魂百まで、みたいで怒りよりも虚しさを覚えました。元ナチスがみんな絵に描いたような極悪人という描写は、ハリウッドのサスペンス映画っぽい分かりやすさですが、ほんとはもっと複雑で悲しい事情が被告人側にもあったんだろうな~。もし私が当時のドイツでフツーのドイツ人として生まれてたら、果たしてナチスを全否定して生きられたでしょうか…ヨハンだけでなく、当時のドイツ人、そして観客も出口が見つからず踏み迷ってしまう歴史の闇は、この映画のオリジナルタイトル通りラビリンス(迷宮)のようです。
 主人公の若き検事ヨハンを演じたのは、アレクサンダー・フェーリング。いま注目の独逸イケメン

 いや~めっちゃカッコいい、ていうか、可愛かったです!ブロンドで長身で優しく端正な顔立ちは、昔話の王子さま風。ちょっとアーミー・ハマー似?アーミーくんをさらに爽やかにスウィートにした感じ?背が高いけど、スラ~っとスレンダーではなく、ドイツ人らしくガッチリ骨太なイカちー体格なのもポイント高し。ちょっとだけ脱いでましたが、いいカラダしてました!すごい優しそうで誠実な雰囲気、困難にも屈せず突き進むタフネスも、まだ世の中の汚さ醜さに染まってない青年の若さ、美しさと強さであふれていて、年寄りには眩しい爽やかなキラキラ感。

 スーツも似合ってましたが、カッコいい車ではなく原チャリ!乗り回してるのが可愛かった。どのシーンも爽やかでカッコいいのですが、家族や恋人までナチスと無関係ではなかった事実に打ちのめされ、ボロボロになってしまう姿が切なくて胸キュン。もうあかん!というところまで落ち込みながらも、正義と希望を信じて立ち上がる勇姿も、清々しくて感動的でした。それにしても。あんなイケメン検事が裁判に出廷したら、法廷はザワつくだろうな~。毎日傍聴に行っちゃいそう

 ↑アレクサンダー・フェーリング、1981年生まれの34歳。「ゲーテの恋」も好評みたいでしたが、何と!彼は現在、アメリカの人気TVシリーズ「ホームランド」に出演中!クレア・デーンズの恋人役なんだとか。くわー!デーンズさんよぉ~!実生活ではヒュー・ダンシー、仕事ではフェーリングくんかい!?何か腹立つわー

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8 コメント

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イケメンはええのぅ。 (すねこすり)
2015-11-12 20:28:15
たけ子さん、こんばんは。お久しぶりです。

これ、ご覧になったのですね! 私も何かの作品の予告編で見て心惹かれたのですが、「ヒトラー暗殺、13分の誤算」を見に行くつもりでいたので、ナチ続きかぁ、、、と逡巡してたところです。

でも、たけ子さんのレビュー読んだら見ないと損な気がしてきました!

やっぱり見るならイケメンですよね。13分の方の主役は実物よりイマイチで(実物写真を見てしまったので…)、そこがちょっと残念でした。あ、でも、映画はなかなか良かったんですけどね。

大分寒くなって来ました。風邪など召されませんようご自愛くださいね~。また来ま~す
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天高く馬肥ゆるイケメン (松たけ子)
2015-11-13 00:07:24
すねこすりさん、こんばんは!お久です♪
そうそう!「ヒトラー暗殺~」も観たかったのですが、さすがにナチ祭りってのも何か、ねえ。どっちにしようかは、でもあんまし迷わなかったです。だって、こっちのほうが主役がイケメンだったから(笑)。アレクサンダー・フェーリング、ほんまイケメンでしたよ~。秋のイケメン狩り、大収穫でした♪映画も、そんなミーハー気分を反省させられるほどの佳作でしたし、ぜひご覧になってほしい!
でもやっぱ、寒い季節はイケメンですよ~。好きなイケメン出てれば、どんな駄作でも観ます!来週は「コードネームUNCLE」観に行きます!すねこすりさんの秋冬映画予定スケジュールは?
ほんと、寒くなりましたね~。すねこすりさんも、御身おいといくださいませ!
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がーん、、、。 (すねこすり)
2015-11-14 00:01:01
こっちでは、上映終了になっていました、、、。
うぅ、これは、名画座での再上映を待つしかないかしらん。
あ~、先週見ておくべきでした。
イケメンは、でっかいスクリーンで味わいたいですよね。

「コードネームUNCLE」面白そうですよねぇ。
感想聞かせてくださいまし。
いまのところ、来月、「サンローラン」見る予定ですよ~!

あ、あと、アイルランドの旅行記の続きも楽しみにしてま~す♪
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冷たい時雨 (松たけ子)
2015-11-14 15:36:24
すねこすりさん、こんにちは!
ガーン!知らん間に終了!ってパターン、私も今年はそれでどんだけトトホを味わったか(涙)。思い立ったら即!を来年の目標にしたいです。
そうそう、やっぱイケメンは大きなスクリーンで。年末にかけては、ヘンリー・カヴィル、ダニエル・クレイグ、ダニエル・ブリュール、ベン・ウィショーに会いにいくゾっと!そして!まさに今年のイケメン映画の集大成といえる「サンローラン」!私も年内に観られますように!
アイルランド旅行記、お目汚しありがとうございます♪年内には完結させたいです☆
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Unknown (Schatz)
2015-11-16 09:10:52
こんにちは♪

確かに!どことなくアーミー・ハマー入っていますね~。
だから私は2人とも好きなのか~!と納得(笑)。
アレクサンダーはグリム童話の王子さま役とかピッタリかも知れません。
ドイツ語で原作のまま童話を製作してくれないかな~。

「ヒトラー暗殺、13分の誤算」は自分のブログでは記事を書いていないのですが観ています。
内容的には全く異なるけど、同じナチスの残虐行為について描いているということで比較すれば
個人的には「顔のないヒトラーたち」のほうが作品としては秀でていると思います。
「13分~」のほうは結構、残虐なシーンが多いです。
しかし、ナチスを描いた映画は、邦題になると、何でもとにかく“ヒトラー”とタイトルに加えますね~。
ちなみに、英題はシンプルに「13 Minutes」です。
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世界は今も不穏で悲惨 (松たけ子)
2015-11-16 20:12:32
Schatzさん、こんばんは!
Schatzさんのブログのおかげで、この映画を知ることができました!あらためてダンケ!
アーミーくんのコードネームUNCLEもうすぐ観に行きます♪アレクサンダーには、ぜひグリム童話の王子さまを演じてほしいですよね~。絵になると思うわ~。
ナチスがらみの映画の邦題には、何でもかんでもヒトラーってつけるのは、安易というか知恵が足りないというか。そのうち、恋するヒトラーとか、愛と哀しみのヒトラーとか、ヒトラーに虐殺されないための100の方法、とか、いくらなんでもな邦題つけられた映画、出てこないか心配です。
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Unknown (ZELDA)
2015-11-19 23:34:53
こんばんは(・∀・)
「顔のないヒトラー」、惹かれつつも「ヒトラー暗殺 13分の誤算」のほうに行ってしまいました。
史実度はあちらのほうが高いかなという気がして・・・でも、イケメン度はこっちのほうが断然上ですね(涎)

実はドイツ人ってがっちり系なせいか好きなタイプの俳優さんが少ないんですけど、アレクサンダー君はその私が見てもイケメンだ~

ナチスものってなかなか一度に何本も観る気がしないので、しばらく時間を置いてから観てみたい映画です。

ところで、最近ふと思ったんですけど、ドイツ人であの人以外にヒトラーさんっているんでしょうか
その名前だけは世界に悪名高すぎて、みんな改名しちゃったのかな・・・?? 
同名の人がいるとしたら、お気の毒ですね・・・


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ナチスブーム?! (松たけ子)
2015-11-21 01:25:20
ZELDAさん、こんばんは!
13分も観たかったんですよ~。ナチス祭りはちょっとしんどいですよね~。私も時間を置いてから、13分を観たいと思います。
スラっと系が多いイギリス俳優に比べると、ドイツ人俳優はガッチリしてますよね。アレクサンダーくんも御多分にもれずガッチリしてましたけど、雰囲気が優しくて上品なので、英国男優ファンにも受けるタイプなのではないかと。
そうそう!私も思ったことあります!今のドイツにヒトラーって名前の人いるのかしらん、と。私の友だちのおじいさんは、ミヤザキツトムという名前(汗)。
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