まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

男と男の夢芝居

2023-04-05 | オセアニア、アフリカ、中東、その他のアジア映画
 春のBL映画②
 「ソン・ランの響き」
 80年代のベトナム、サイゴン。借金取りをしているユンは、取り立て先で大衆歌劇団の役者リンと出会い、舞台での彼の演技に魅了される。ユンに反感を抱いていたリンだったが、酒場でのトラブルから救ってくれたユンと過ごすうちに、彼の優しさと孤独を知って…
 このベトナムのBL映画、想定外の佳作でした!BLとはいっても、男同士が愛の言葉を口にするわけでもなく、キスやセックスをするわけでもなく、一夜の静かな語らいで魂が触れ合う関係を築くといった、美しくも切ない精神的なボーイズラブストーリーでした。イケメンたちが狂おしく激しく心も体も燃やすBLも好きですが、こういうソウルフルなBLも素敵ですね。同性愛的なことは何もしないとはいえ、男女間の恋愛とは違う、惹かれ合う男と男の間だからこそ生じる胸騒ぎやときめき、とまどいは友情を超えた、まごうことなきBLでした。そのすべてが優しく繊細、そして悲しくて、しばらく心に残るラストの余韻でした。

 ユンとリンの間に芽生えて育った感情、そして交わす言葉や視線、表情はぎこちなくも微笑ましく、離れがたい、ずっと一緒にいたい、また会いたいという想いが強まり高まっていく様子は、静謐だけど濃密。まさに運命の恋人に出会った二人でした。同じ魂を分け合うこの世でただ一人の人って、男と女とは限らないんですよね。ユンはゲイじゃない(情婦?とセックスしてたし)ので、もしあのようなラストにならなければきっと、リンへの深まるだけの愛に悩むけど迷うことなく愛し続けるんだろうな、とか。リンはゲイなのかな?と思わせるものがありましたが、だからこそユンとどんな関係になっていくのか、二人の未来を想像(妄想)して幸せな気分になりたかったのに、ああ…(涙)

 ハッピーエンドだったら、よくあるライトでスウィートなBLものになってしまったでしょうけど、それでもいいから二人には幸せになってほしかったです。ユンのキャラや境遇でフラグはめちゃくちゃ立ってましたが、やっぱりそうなるか…な悲劇に嘆息。でもやっぱ、BLは不幸や悲しみにくるまれてこそ絵になるんだよな~と、あらためて思いました。

 歌劇と重なる男と男の愛、アジア、といえば名作「さらば、わが愛 覇王別姫」を思い出します。覇王別姫のような激情的でドラマティックで破滅的な大作ではないけど、このベトナム映画も甘美な夢を見た後のような余韻を残すという点においては、覇王別姫に引けを取るものではありません。覇王別姫みたいなクレイジーラブよりも、こっちのクワイエットラヴのほうが心に沁みるかも。とにかくユンが魅力的!腐にとってはキャラも見た目も理想の男!

 イケメンとか美男子ではないけど、いい男なんですよ~。寡黙で無骨、怒らせらたヤバい凶暴さを秘めてるけど、悲しいほどに優しくもある男。強くて優しいヤクザって、腐は大好きですよね。絡んできた酔漢たちを叩きのめしたり、役者として才能があることを信じさせてくれたり、ソン・ラン(ベトナムの民謡楽器)を美しく奏でたり、リンにとっては(腐にとっても)まさに王子さまみたいでもあったユン。その淡々とした孤独も、リンの乙女心?をくすぐる魅力に。リンがちょっとツンデレなところも、腐には胸キュン。二人が仲良くなるきっかけがファミコン(懐かしい)!クールで無表情のユンが、リンと一緒にゲームしてる時は子どもみたいに楽しそうで可愛かった。ファミコンシーンだけでなく、ユンが弾くソン・ランに合わせてリンが歌うシーンや、朝の窓辺シーン(ユンが買ってきた飲み物、あれ何?)とかも、かなりジワるシーンでした。

 ユン役のリエン・ビン・ファットは、ちょっとキム・ミンジュン+松山ケンイチ、を野生的に色っぽくした感じ?東南アジアの男前って、艶っぽいですよね~。色っぽいシーンは皆無だけど、肉体美は何度か披露してます。バキバキすぎないムキムキすぎない、しなやかに引き締まった美しいカラダでした。リン役のアイザックは、ニコラス・ツェー+窪塚洋介、みたいな美男子でした。
 80年代のサイゴン(現ホーチミン)の市井の生活風景も、情緒があって興味深ったです。ゴミゴミしたスラム街みたいなところに住んでるユンですが、部屋はシンプルでこざっぱりしてて、置物とか観葉植物とかアジアンなテイストがなにげにおしゃれ。ユンとリンが食べてた屋台の麺も美味しそうでした。ベトナムの大衆歌劇カイルオンは、中国の京劇を親しみやすいミュージカルにした感じ?ユンが弾くソン・ランの、はかなく哀しい音色も心の琴線に触れる美しさです。
コメント (2)
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