まつたけ秘帖

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不幸さえ美しい詩

2021-07-19 | イタリア映画
 「レオパルディ」
 19世紀初頭のイタリア。地方貴族レオパルディ家の長男ジャコモは、病弱で身体に障害を抱えていたが、学識豊かで詩の才能に恵まれていた。退屈で窮屈な田舎の生活に絶望していたジャコモは、ローマの高名な文学者ジョルダーニと手紙を通して親密になり、自由な人生を切望するようになるが…

 恥ずかしながら、ジャコモ・レオパルディについてはまったく存じ上げなかったのですが、世界的な詩人、哲学者なんですね。詩人が主人公というだけで、貧乏とか人間関係のもつれとか病気とか、すごい不幸のにおいがします。日本の有名な詩人って、みんな暗くて悲しい生涯だったような。明るい幸せとは無縁なイメージ。ジャコモ・レオパルディも、障害のある病弱な身体のせいで鬱屈した青春を余儀なくされるのですが、不幸って感じでは全然ありませんでした。貴族という身分、贅沢ではないけど召使にかしずかれた何不自由ない生活、仲良しの弟妹、そして何より輝かしい才能。レオパルディも天才のごたぶんにもれず、人々にすごく愛されるか嫌われるかのどっちかなんですよ。中間があまりないんです。とはいえ、バカにされたり蔑まれたりすることはあまりなく、どちらかといえば大事にしてくれる人、優しい人のほうが多かった。いつも絶望と失望にさいなまれてたレオパルディでしたが、それも詩に昇華して生きる糧になってたし、短くも豊かで幸せな人生だったような。愛情にも才能にも恵まれず、ユルく長く生きるだろう私よりは。
 
 障害があるといっても、日常生活にはあまり差し支えはなく、結構アクティヴに動き回ったり旅をしたり。弟妹やジョルダーニ、親友のアントニオなど、理解者たちから大切に扱われるレオパルディですが、それに感謝したり申し訳なく思ったりすることがほとんどなく、ごく当たり前のように親切や献身を享受しているところも、いかにも天才にありがちな自己中心的さでした。でも、天才だからって何しても許されるなんて思うな!と腹が立つような傲慢さ身勝手さは全然なくて、すごく純粋で無邪気な浮世離れした子どもみたいで可愛かったです。

 レオパルディを厳格に溺愛する父親がちょっと怖かったです。才能ある息子を薫陶しながらも、息子に自由を与えようとせず過干渉な子離れできないパパ。息子が傾倒するジョルダーニへの警戒や敵視はほとんど嫉妬で、あれじゃあレオパルディも重苦しくなって逃げたくもなります。レオパルディの性的な苦悩も切なかったです。下半身は健常だったのが返って辛そうでした。美しい未亡人ファニーへの恋心と失恋、娼館で酷い目に遭う姿など、恋愛についてはかなりみじめで哀れでした。

 レオパルディと親友アントニオとの友情に、ちょっと腐心をくすぐられました。どんな時もレオパルディを支え守るアントニオ、恋人や奥さんにだってあそこまでできんよ。レオパルディがあんな風貌なので、BLに発展しそうな雰囲気は微塵もないのだけど、その友情を超えた無償の精神的な愛が尊かったです。それもこれも、レオパルディが類まれな才能の持ち主だったから。みんなレオパルディ自身というより彼の才能を愛し、それを守ろうとしていたような。健康で頑丈な肉体に恵まれた凡人になれる、と神さまがレオパルディにささやいても、おそらく彼はそれを拒んだのではないでしょうか。
 この映画、ずいぶん前から観ることを熱望していた作品。なぜって、言うまでもなく大好きなエリオ・ジェルマーノ主演作で、彼の熱演が絶賛されていたから!

 エリオ、まさに渾身の、入魂の名演でした。日本の同世代の俳優には絶対無理な難役。あふれんばかりの感受性と情熱を発散できない懊悩のデリケートさ、繊細さときたら!悲痛で苦しそうな身体障害の演技のリアルさといい、心が異次元でさまよっているかのような表情での長い詩の台詞といい、これこそ役者の仕事!な演技に感嘆するばかりでした。その高い演技力、役者魂も素晴らしいのですが、エリオってやっぱすごい可愛いんですよね~。ヒゲなしだと顕著になる童顔。本物のレオパルディは、絶対こんなにイケメンじゃなかったはず。レオパルディ役には、ちょっとイケメンすぎるかもしれなかったエリオです。小柄でトコトコした動きとか、シャイなはにかみとか、ほんと可愛かった。自信満々で高慢なところもあるはずのレオパルディがそんなキャラになってなかったのは、エリオの悲しそうで内気そうな風情のおかげかもしれません。何しても何言っても許して守ってあげたくなる。可愛いシーンたくさんあるのですが、特に好きなのはジェラードを食べてるシーンかも。子どもみたいで可愛すぎ!窓辺で月を眺めながら詩を口ずさむ姿も、いとあはれだった。

 アントニオ役のミケーレ・リオンディーノが美男な色男!女好きだけど女よりレオパルディを大事にするところが、BL好きにはたまらん設定でした。レオパルディのためにファニーとの恋愛をきっぱり終わらせたり、自分が抱いた娼婦にレオパルディの筆おろしを頼んだり、具合が悪いレオパルディをさっとお姫様抱っこして階段を上がったり、レオパルディ大好きっぷりに萌え。ファニー役のフランス女優アナ・ムグラリスが、大人の女、いい女。

 レオパルディの故郷レカナーティや、ローマやフィレンツェ、ナポリの風景が美しい!自然や街並みが実際は21世紀の景色だなんて信じられないほど、19世紀の情趣であふれていました。衣装や屋敷も当時の生活感、息吹を感じさせるものでした。特に印象的だったのは、夜の娼館。洞窟みたいなところにあって、すごく美しくて神秘的でした。ラストの火山噴火も、恐ろしい災害なのに火山灰が粉雪のように降る注ぐような幻想的なシーンになっていて、不幸や凶事がレオパルディの詩のように美しいファンタジーとなっていたのも、この映画の特筆すべき点です。

 ↑ エリオ~「私は隠れてしまいたかった」イタリア映画祭で配信してたのに観逃してしまった~!
 


コメント (2)
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