まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

孤老の身

2019-04-18 | フランス、ベルギー映画
 いつの間にか桜も散ってしまいました。来年こそは、願はくは花の下にて春死なん…皆さまは、お花見を楽しまれたことでしょうか。
 お花見は行けなかったけど、慎ましいながら可愛く咲いてくれた庭の花たちが、春らんまんな気分にさせてくれています。

 サイネリアとマツムシソウが、とりわけ可愛くて好き。毎年なぜかチューリップがうまく咲かなくて。毎春の定番、パンジーとキンセンカはそろそろ終わり。次はキンギョソウとツリガネソウが花盛りの時を待っています。こないだ種を播いたナスタチュームと百日草、マリーゴールドも芽を出してくれました。お花さんに話しかけてる私、心療内科で診てもらったほうがいいでしょうか
 
 「ともしび」
 ベルギーの地方都市で、アンナは夫と共に静かに暮らしていたが、ある容疑で夫が収監されてしまう。家政婦の仕事や演劇教室通いなど日常生活を続けるアンナだったが…
 「まぼろし」「さざなみ」に続くシャーロット・ランプリング主演の、たそがれ夫人三部作の完結編?三作とも監督は別人ですが、それぞれフランス、イギリス、イタリアの気鋭のヨーロッパ人監督作。「愛の嵐」のシャーロット・ランプリングは、後に映画監督となる少年たちに強い衝撃を与えたようです。憧れの大女優をヒロインに映画を撮る、というのは映画監督にとっては究極の夢ではないでしょうか。才能ある若き映像作家たちから崇められ求められるランプリングおばさまですが、みんな彼女に対するイメージ、というか演じさせたい役がほぼ同じ、というのが興味深いです。老境にさしかかった女性が直面する苦悩と絶望、そして人生や愛の見つめ直し、というのが3作の共通点です。テーマがテーマなので、明るく楽しい映画にはなりようがなく、とりわけ今回の作品は前2作よりも苦い、イタい内容でした。

 美しく静かに老いることって、やはり奇跡に近いのね…と、アンナのわびしくみじめな姿を見ていて胸がザワつきました。容赦のない肉体の衰えは仕方がないけど、老いても生活と心に平安が訪れないのはキツいわ。その顔は苦渋に満ちているものの、ショックを受けて狼狽えたり、悲嘆に打ち沈むといった感情的な様子はほとんど見せず、かといって淡々となるようになるわな飄々さなども微塵もなく、生きるという苦行に黙々と耐えているみたいなアンナを、無残なまでに痛ましくしていたのは老いていく悲しみでも絶望でもなく、こんなに独りぼっちな人もなかなかいないと暗澹となるほどの孤独だったように思われます。

 夫も息子もいて、仕事もあり演劇教室や水泳にも通うなど、家族や社会ともつながっているのに、ぼっちなプチ引きこもりの私よりも深刻な孤独。夫は投獄され(何の罪なのかは明瞭にされませんが、幼い男児に性的いたずらをした?と推察できます)、一人息子からは冷たく絶縁され(孫の誕生パーティーに呼んでもらえず、玄関先で追い返されるシーンが痛ましかった)、まさに家族は災いの元みたいな不幸。夫も子どももいらん!気楽で幸せな孤独バンザイ!と、心の底から思いました。それにしても…希望も愛もないけど人生を続けていくだろうアンナと私は、死ぬ勇気がないだけの臆病者?それとも、諦めという最強の精神力を備えた賢者?

 ハリウッド映画や邦画なら、孤独な主人公にとって心のよりどころとなる出会いや出来事があったりするけど、そんなありきたりな展開にはならないところがヨーロッパ映画。厳しく冷たい現実の闇の果てに、一筋の希望の光明が見えて終わる、みたいなダルデンヌ兄弟監督の作品ともまた違って、孤独が深まっていくだけの憂鬱さが最後まで拭われないまま。浜辺に打ち上げられたクジラの死骸が、アンナの現在と未来を暗示しているようで、それもまた観る者を暗澹とさせます。多くを説明せず、ドラマティックなシーンも展開もなく、ドキュメンタリーのようにアンナの生活を追ってるだけなので、老いや孤独を実感してない人には退屈な映画かもしれません。ラストの地下鉄シーンには、ちょっとハラハラさせられましたが。

 シャーロット・ランプリングは、この作品でヴェネツィア映画祭女優賞を受賞。顔も体もたるみ、しわが生々しかった。齢70のヌードが衝撃的。脱がせるほうもすごいけど、脱ぐほうもよくやるな~とその女優魂に感嘆。若く見せたい美しく見えたいという虚栄など、とっくに捨てきっています。アンチエイジングに必死なハリウッドや日本の女優にはない、ヨーロッパ女優の凄みに驚嘆。堂々と老いをさらしながらも、老いさらばえた婆さんって感じは全然なくて、コワレたくてもイカレたくても狂気に逃避できない、悲しいまでに失わない理性、理知が鋭く毅然としていました。闊歩する姿なども、ヨボヨボ感ゼロです。
 舞台となったベルギーの地方都市も、パリやロンドンとは違う精彩のないわびしさで、孤独な女にぴったりでした。イタリア出身でアメリカで活動しているアンドレア・パラオロ監督は、なかなかのイケメンみたいです。どうやら彼もゲイ?フランソワ・オゾン監督もアンドリュー・ヘイ監督もゲイだし、シャーロット・ランプリングみたいに天才的なゲイ監督の創作意欲を刺激する女優は、本当に貴重で稀有です。
コメント (7)
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