まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

お坊ちゃまは見た!ブルジョア一家の秘蜜

2012-09-16 | フランス、ベルギー映画
 はぁ…(ため息)
 今日は何だかツイてない、疲労困憊な一日でした。最近は平穏無事な毎日が多かったせいか、しょーもない些細な失敗や感情の行き違い、不運にウジウジクヨクヨと意気消沈してしまいます。 
 後輩がやらかした失敗のせいで、私が上司に怒られる。理不尽すぎるけど、黙って耐えるしかない悲しき宮仕え。人身事故で電車がストップ、1時間以上も満員電車の中に閉じ込められた。フラフラ状態で家に帰れば、ご飯が炊けてなくてガクッ。
 世界に蔓延する悲劇に比べれば、何でもないこと。とは分かっちゃいるけど、気分は世界一悲しいヒロインです。暑いのに、凍えそうなカモメ見つめ泣いてしまいそうになります。

 お松のクロード・シャブロル映画祭①
 「悪の華」
 多くの映画ファンに惜しまれつつ80歳で他界した、フランスの名匠クロード・シャブロル監督。若かりしヌーベルヴァーグ時代から、さまざまな作品を世に放った監督ですが、私は円熟期から晩年にかけてのサスペンス映画が大好きです。シャブロル監督のサスペンス映画って、ちょっとハマってしまうものがあるんですよねえ。ダークで歪んでて、そこはかとなく変で笑える。甲乙捨てがたい作品ばかりですが、特に面白かった傑作をピックアップして、シャブロル監督作品の魅力を検証してみたいと思います。
 名家の子息フランソワは、3年ぶりにアメリカから父ジェラール、その後妻アンヌ、アンヌの連れ子ミシェル、ジェラールの叔母リーヌの住むボルドーの実家に戻る。そんな中、市議選に立候補しているアンヌのもとに、不気味な怪文書が送られてくる。フランソワとミシェルは、一族には何か恐ろしい秘密が隠されていることに気づくが…
 シャブロル監督のサスペンス映画は、常に淡々と静かな展開で、これといってトリッキーな伏線やアッと驚くドンデン返しもありません。にもかかわらず、なぜか退屈せずに見入ってしまう魅力があります。

 ブルジョア一家の優雅で平和な生活の裏に潜む、秘密や謎、屈折、愛憎と悪意…それらが、これみよがしなシーンやシチュエーションではなく、さりげなくもミステリアス&エレガントに炙り出されています。上品でウィットに富んだ会話を交わしながら、実はそれぞれ腹に含むモノを蔵している登場人物たち。愛や信頼は破綻し、尊敬も失われているのに、それを表に出さず、調和を保とうとする偽善の何気なさが、皮肉な面白さ。優美に咲く花は、目には見えない醜悪な根っこを隠している…

 この作品でヒロインに迎えられたのは、シャブロル監督のミューズであるイザベル・ユペールではなく、トリュフォー監督やゴダール監督のお気に女優だったナタリー・バイ。政治家への野心満々でバイタリティにあふれ、何もかもに恵まれた理想的な女傑に見えつつ、実は夫や子供はほったらかし、選挙に勝つことしか頭になく、にこやかな笑顔を浮かべながらも、下層階級の人々を見下している利己的で傲慢な女を、ナタリーおばさまは軽妙かつ大女優の貫禄たっぷりに好演しています。ヤな女の役でも、優しそうなところが素敵なナタリーおばさまです。

 フランソワ役は、ブノワ・マジメル「ピアニスト」のワルター青年が洗練された感じ。カジュアルかつ上品なファッションなど、ブノワの爽やかで可愛いお坊ちゃまぶりも見どころです。それにしても。この頃のブノワは、ほんとイケメン!この作品でシャブロル監督の寵童となったブノワは、「石の微笑」「引き裂かれた女」にも起用されました。現在の彼は恰幅がよくなりすぎてしまい、すっかりオヤヂ化しちゃってるのが残念。
 この映画の真の主役といえるのは、一家の長老であるリーヌ叔母さん役シュザンヌ・フロンでしょう。彼女、シャブロル監督の「石の微笑」にもチョコっと出てましたね。ジャック・ベッケル監督の「殺意の夏」「クリクリのいた夏」「ピエロの赤い鼻」での好演も忘れがたい。気品があってオチャメで、誰からも愛され慕われているオバチャマの顔と、暗い心の闇と苦悩を抱えた罪人の顔を併せ持つ老女を、可愛らしく哀切に演じた名女優フロンが、おいしいところを独り占めしています。映画は、まるで彼女が時限爆弾を仕掛けたかのような終わり方をします。果たして、事件発覚という爆発後に、いったい何が待ち受けているのか?観客の想像に委ねる手法も、意味深な余韻を残し、心にくいばかりです。

 最近、ブノワもご無沙汰状態ですね…
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする