松本健史の「生活リハビリの達人」になろう!

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カイゴノゴカイ 『意見が割れたらオシマイか?』

2012年07月16日 | 原稿

 介護雑誌ブリコラージュに「カイゴノゴカイ~意見が割れたらオシマイか?~」という原稿を書きました。もう編集部には送っているのですが、まだ校正中です。今回、雑誌発表前ですが全文掲載しようと思います。というのも療法士.comというセラピストのサイトで「理想の職場に近づけるための秘訣は何?」というテーマが出されました。ちょうど居心地のいい職場づくりについて思うことを書いてましたので、ぜひ皆さんに読んでいただきたく思います。キーワードは豚のPちゃんです。それではどうぞ。

カイゴノゴカイ 『意見が割れたらオシマイか?』

 介護現場はなかなか人間関係が難しいです。ちょっと考え方が違うと「あの人とは合わない」「しゃべりたくない」とすぐに溝ができてしまいます。職員同士、意見は割れるのは当たり前なんです。今回は「職員同士で意見が割れたらおしまい」というカイゴノゴカイについて考えてみましょう。

 

日本はKYを排除する文化

 「和を持って尊しとなす」という聖徳太子の言葉に象徴されるように、日本は極端な意見や行動を慎む文化です。また場の雰囲気を読んだ立ち振る舞いが美徳とされています。こういった奥ゆかしさは大切にしたいものの、今は雰囲気を読めない人を攻撃する風潮が前面に出ていて気になります。「KY(空気が読めない)」という言葉、僕は嫌いです。だってKYにならないように、みんな同じ意見、同じ行動をとるので、おもしろくもクソもない社会になっちゃってますもん。

 意見の違う人を排除し、今度は自分が排除されないかと疑心暗鬼になる。今も誰かが「生き地獄の職場(あるいは学校)」の閉塞感にあえいでいます。14年間連続で自殺者が3万人を超える異常な社会。いつまで僕らはこんなことを続けていくのでしょう?

 三好春樹さんは「この閉塞社会は特別なものだよ、日本でダメだったからって自殺することなんかない。きっとインドならうまくいく(笑)」と教えるために息子さんをインドに連れていってるそうです。たしかに私も23歳のころ、インド一人旅を経験してから、頭のネジが緩んだ気がします。

 

介護は答えのない仕事

 職場で意見が割れやすいのは、介護現場が基本的に答えのない仕事を扱っているからです。例えば、ヘビースモーカーのAさん(85歳)の喫煙についての話し合い。

「Aさんはもういい年で、老い先も短いんだし。タバコぐらい好きに吸わせてあげようよ」

「いや、タバコは確実に死期を早めます。私はAさんに長生きしてほしいから、やめてもらいたいわ」

この二人のどちらが正しくて、どちらが間違っているとはだれも言えないですよね。基本的に介護現場で何かを決めようとしても、いろんな立場から意見が出てくるので、完璧な解決策など存在しないのです。だから意見が割れたらおしまいなのではなく、そこから、違いを明らかにして、「落としどころ」を探していくのが我々の仕事なのです。

 世の中には正解が必ずある仕事があります。マックジョブと呼ばれる仕事です。マックジョブはだれが作っても同じ味のフライドポテトができるようにマニュアル化された仕事のことをいいます。この仕事は意見が割れません。だから「働きやすくていいじゃん」ということになったのですが、その結果、気が付けば現代社会はマックジョブばかりになってしまいました。これだけ意見が割れる介護現場で働けることは、ラッキー!と喜んでいいんです。だって世の中にわずかに残されている創造的な仕事をしているんですから!

子供たちに学ぶ議論の仕方

 我々は議論が下手です。先日リハビリ道場で「KY恐怖症」対策に職員みんなで映画鑑賞をしてみました。上映した映画は「豚がいた教室」です。この映画では小学6年生が自分たちで育てた豚を食べるか、食べないかで意見が分かれ激論となります。子供たちの白熱の議論のシーン(ほとんど台本なしだそうです)をみることで、我々の心までちょっとオープンにしてもらえます。そして意見交換すると、うちの職場では、豚のPちゃんを「食べる人」5人、「食べない人」6人、「保留」2人という結果になりました。(実際に育てたわけではないので、あくまでこの物語の子供になったつもりの想像上の答えですが…)

 ここで注目すべきことは「同じものを見ても、これだけ意見は割れる」ということです。僕たちは命の問題に直面し、しばしば、この映画のような答えのない問いを抱え込みます。ですから職場で巻き起こる複雑な問題に「意見が割れたらもうオシマイ」としり込みするのはもうやめましょう。そうではなく、「意見が割れたら、さぁはじまり」ぐらいの気持ちで明日からの仕事にのぞんでみませんか?

 

 

「豚がいた教室」(2008年)
 6年2組の新任教師の星はこどもたちに「先生はこのブタを育てて、最後にはみんなで食べようと思います。」と提案。教室は騒然となる。ブタにPちゃんと名づけ、小屋をつくり、えさやりから掃除、糞尿の始末まで生まれて初めての作業に戸惑う子どもたちであったが、やがてPちゃんに家畜としてではなくペットとしての愛着を抱くようになっていた。卒業の時は迫り、星はPちゃんをどうするかみんなで話し合って決めてほしいと提案。クラスの意見は「食べる」「食べない」に二分されてしまう。

ブタがいた教室 (通常版) [DVD]
クリエーター情報なし
NIKKATSU CORPORATION(NK)(D)

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2 コメント

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Unknown (小林です)
2012-11-20 21:26:19
特に肩書きがつくとね~、その落とし所を見つけるのが大変なんです(^_^;)
でもね、間違いがないのは、誰もが現場の事を思い、利用者の事を思っての発言なんですね。
ただ、それがなかなか資格や経験のバックグラウンドで一致しない(^^ゞ
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Unknown (松本)
2012-11-23 07:40:46
資格や経験(生い立ちとか性別とか)のバックグランドの違いはほんといかんともしがたいですね。難しく、創造的な仕事と思って僕も挑戦している毎日です。
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