松本健史の「生活リハビリの達人」になろう!

超高齢社会の切り札「生活リハビリの達人」になる!講師・原稿依頼は matumomo@helen.ocn.ne.jp まで

連載「生活リハビリの達人」への道 第一回 全文掲載

2013年01月16日 | Weblog

介護雑誌「ブリコラージュ」に連載開始しました。 「生活リハビリの達人」への道 と題しまして、できるだけわかりやすく、実践しやすい生活リハビリについて書いてみようと思います。以下に全文掲載いたします。

「生活リハビリの達人」への道 

Mission1「未来日記ヲ書キ換エヨ」

みなさん、こんにちは!丹後福祉応援団の松本健史です。僕は生活期のリハビリを仕事にしている理学療法士です。本連載では在宅や施設で、これは役に立った!この視点は大事やで!というポイントをどんどん書いてみたいと思います。題して「生活リハビリの達人」への道です。介護者が行える簡単で効果的なリハビリ、力を引き出す関わりやアッと驚くアイデアなどを紹介します。みなさんの中には「毎日の介護(業務)が精一杯でリハビリどころではありません!」という方もいるでしょう。しかし介護には『生活行為に勝る訓練なし』という格言があります。この連載を読んだ人のなかから、暮らしのなかで自然と力を引き出せる、そんな「生活リハビリの達人」がたくさん生まれることを願っています。もちろん僕も修行中、一緒に励もうと思っています。 

 

 

 

 

 

(図1)2025年の人口ピラミッド(国立社会保障・人口問題研究所ホームページより)

 

2025年の未来日記

皆さんは「2025年問題」を知っていますか?今の自分に12歳たしてみてください。その時、トンデモナイ未来が僕らを待っています。日本に深刻な介護問題が起きるのです。図1は2025年の日本の人口ピラミッドの予測です。ピラミッドは普通三角形ですが、日本の場合、一輪ざしの花瓶みたいです。若い世代が少ないので、底が細くてグラグラ、いつ倒れるかわかりません。年配の70歳台にひときわ目立つ人口の塊があるでしょう。昭和22年から24年生まれの「団塊の世代」です。この団塊の世代だけで800万人いるそうです。2025年にはこの800万人がすべて75歳以上の後期高齢者となり、介護の問題が噴出するといわれています。たしかに800万人が介護現場に一挙に押し寄せるなんて想像しただけで、空恐ろしいですね。いまなぜ僕が「生活リハビリの達人になろう!」と皆さんに呼びかけているのかお分かりになりましたか?このままでは日本の高齢者介護がニッチモサッチモいかなくなることがわかっているからなのです。怖いものみたさで、ちょっと12年後をのぞいてみましょう・・・。

 

未来日記 

2025年○月×日 

今日、僕が勤務する介護施設に老人とその息子が殴りこんできた。現金800万円持ってきて、「入所させろ」とすごむのだ。おいおい、入所は300人待ちだぞ。なんぼ金をつんだからってルールをわきまえてくれよ、と思っていたら、なんと入所が許可された。地獄の沙汰も金次第、介護もやはり「カネ」だ。今春から開始の「最先端自動ロボット介護」に申し込みが殺到している。格差社会は介護の世界も同じだ。それにしてもロボット介護は味気ない。昔はお年寄りとの触れ合いがあった。無表情のお年寄りが笑顔になって職員同士で喜んだこともあったっけ?あの時代が懐かしい。もう今、あんなことは皆無だ。ロボットが適切にお年寄りの栄養と清潔を管理する。ただしベッドに寝かせきりで・・・。

団塊の世代が生んだ息子・娘は「モンスターチルドレン」、通称「モンチ」と呼ばれている。金の亡者だ。ロボットはたまにとんでもないミスをする。このミスですぐに訴訟が起こされる。この前はモンチに怒鳴られた「うちのじいさんに笑顔が戻った?笑顔がなんだ、金になるのか」返す言葉がなかった。800万人の介護度が急上昇し、ロボットの生産が追い付かない。ロボット頼みの介護現場は、どんどん疲弊している。このままではパンクだ!あーぁ、こうなる前になんとかならなかったのだろうか・・・?

 

「誰か助けて~」「ハイ、生活リハビリの達人です!」

団塊の世代の介護にロボットなどのテクノロジーで寝かせきりの劣悪な介護がなされ、一気に重度化し、モンスターチルドレンは怒り、介護現場は職員の離職も止まらず悲鳴をあげる。今のままでは、きっとこんな暗い未来がやってくると僕は考えています。でもまだ間に合うはずです。かの大田仁史先生は、この団塊の世代の大きな波に日本全体が飲み込まれたら大変なので「この波を切り崩していこう」と言っています。団塊世代800万人が一気に要介護から寝たきりへと移行するのを指をくわえて見ているのではなく、本人さんの持つ力を守るケアを確立すべきです。さて、どんなケアが有効なのでしょう。やはりカギとなるのは、この連載タイトルでもある「生活リハビリの達人」のケアでしょう。この達人たちはお年寄りの残った力を大切にし、動きを引き出します。また動きだけでなく、「生きる力」も引き出します。そうすれば団塊世代の大波を分散し、「さざ波」にすることができるかもしれません。

 

生活リハビリの達人の三条件

そんな日本の救世主、生活リハビリの達人になるための三条件です。

1.お年寄りの残った力を見極める「目」を持っている

2.残った力を引き出す環境設定と介助の「腕」がある

3.お年寄りの「やってみよう」という気持ちを引出し、支える「心」がある

1~3をみて、「なんか難しそう・・・」なんて方もいるでしょう。でも、そんなことありません。生活の中で元気を引き出すカギは介護職や家族さんが握っているのです。なにも個人ですべての生活リハビリを担う必要はないのです。医療職から介護職、家族、ご近所まで含めたチームの総合力が「生活リハビリの達人」であればいいのです。こういったチームが増えれば、その地域(あるいは施設)のケアの質がグッと上がって、お年寄りのいたずらな重度化は防げると思います。もちろん重度になった方を見放すわけではありません。不幸にも重度になった方には手厚いケアがおこなわれるべきです。ただ、前述したように800万人の団塊世代が一気に重度化するような事態を招いてしまったら、一人ひとりに行き届いたケアは不可能となるでしょう。これから皆さんで暗い未来日記を書き換えていこうではありませんか!2025年までに生活リハビリの達人をたくさん増やすのです。えっ、「そのころは定年していて現役じゃない」ですって?いいじゃないですか、素敵な後輩を育てて介護してもらえば!さぁ、達人になるための旅の始まりです。乞うご期待!

 

 

 

 

未来のの日本が、団塊の世代の介護崩壊で、ピラミッドが崩れてしまわないように、ピラミッドを支える生活リハビリの達人を目指していきましょう!

 

参考文献 「介護期リハビリテーションのすすめ」 大田仁史(青海社)2010