イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「三体Ⅱ 黒暗森林(下)」読了

2020年10月17日 | 2020読書
劉 慈欣/著 大森 望、立原 透耶、上原 かおり、泊 功/翻 「三体Ⅱ 黒暗森林(下)」読了

三体の続編の下巻だ。

物語は上巻の200年後から始まる。主人公たちが人口冬眠から目覚めた世界はテクノロジーが進化し、200年前とはまったく違う世界になっている。その内容が詳細に記されている。
この200年間の途中、地球は大渓谷時代という、飢餓と環境破壊の時代を経験する。これは、世界が三体危機に際して技術開発と軍備増強を優先したためおこったものだ。しかし、核融合技術などのエネルギー革命やスーパーコンピューターの演算能力の向上により世界経済は復活した。自動車は空中を飛び、すべてのものがネットワークにつながり、どの場所をタップしてもディスプレイが立ち上がるような世界だ。人々は豊かな生活をしている。
しかし、環境破壊は修復が不可能なほどであり人類は地下都市に暮らしている。
200年前に誕生した宇宙軍も進化し、今では核融合推進装置を備えた宇宙艦は2000隻を超え、アジア、ヨーロッパ、アメリカが出身母体の艦隊がそれそれ独立国家として太陽系に展開している。その性能は速度で光速の15%を出せることから三体文明のテクノロジーを超えたと考えられる。そして地球人は250年後に迫りくる三体危機に対して楽観論しか持たなくなっていた。

そんな世界に上巻の主人公であった面壁人のひとりである社会学者、彼と行動を共にした警察官、宇宙軍の創設に加わった軍人が人口冬眠から目覚める。それは三体艦隊が放った探査機が先行して太陽系に近づきつつある時でもあった。

人類はそのトラックサイズの探査機は三体文明との友好を結ぶきっかけになると期待していたけれども、(智子を通して地球のテクノロジーの進化を知っている三体文明は勝てないと感じて友好関係を結ぼうと考えていると考えている。)その探査機は地球のテクノロジーをはるかに超えたものだった。外殻は原子核が強い相互作用で結びつき地球上では考えられないほどの硬度をもっており、推進力は未知のものだ。その探査機が2000隻の艦隊を一瞬に破壊してしまう。しょせん地球のテクノロジーは智子にそのブレイクスルーを阻まれ過去のテクノロジーの延長でしかなかったのだ。
三体文明には勝てないと考えていた人口冬眠についていた軍人は反乱を冒しその惨事から逃れる。結局生き残ったのはその戦艦とそれを追跡するために艦隊を離れた4隻、艦隊の中で探査機の突然の自爆に備えていた2隻のみであった。
軍人の戦艦は燃料を使い果たし地球には帰還できない。ましてや敗北が決定的となった地球に戻る価値はないと考えた5隻はそこで新政府を樹立し新たな世界を求めて太陽系を離れようとする。2000隻の生き残りも同じ行動をとるのだが、そこにも問題があった。目指す星系は白鳥座方面にある18光年先。今の燃料ではとうてい到達できない。どうするか、1隻だけを残し、他の戦艦のエネルギーと部品として使えるものをそこに集約する。もちろん乗組員は不要だ。それぞれの艦が同じことを考え、低周波水爆を発車する。行動が一足遅かった軍人の乗る船は攻撃を受け乗組員は全員死亡し、残った1隻が深宇宙に旅立ってゆく。艦隊の生き残りも同じ行動を起こし1隻だけが反対側の深宇宙を目指し旅立ってゆく。

地球では面壁人への期待が再び高まる。それは社会学者が200年前に発した呪文が本当に効果を表したからだ。呪文を放った50光年先の恒星が突如爆発して消滅したことが観測されたからだ。
それにはこんな理由があった。
『宇宙は暗黒の森だ。あらゆる文明は、猟銃を携えた狩人で、幽霊のようにひっそりと森の中に隠れている。そして、行く手をふさぐ木の枝をそっとかき分け、呼吸にさえ気を遣いながら、いっさい音をたてないように歩んでいる。もしほかの生命を発見したら、それが別の狩人であろうと、天使であろうとか弱い赤ん坊であろうとできることはひとつしかない。すなわち銃の引き金を引いて相手を消滅させるしかない。自らの存在を曝す生命はたちまち一掃されるという永遠につづく脅威。これが宇宙文明の全体像である。』猜疑連鎖というものだ。
宇宙文明のふたつの公理、『その一、生存は文明の第一欲求である。その二、文明はたえず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量は常に一定である。』だから自分たちが生き残ろうとすれば他を滅ぼさねばならないのだ。
社会学者が放った呪文というのは、その消滅した恒星の座標で、それを察知した未知の高度文明がそこに文明があると理解し、恒星を破壊したというのだ。

なんだかわからないが、面壁人の呪文が宇宙のどこかで何かを動かしたことで再び救世主と崇めたてられたのだ。しかし、きっと何かをしてくれるという期待に反して、主人公は何も成果を出せない。しかしそれは面壁人としてのカモフラージュだった。

新たにやってくるトラックサイズの敵を察知するための施策と見せかけて、いざという時、三体文明の座標をどこかの文明に知らせることで三体文明自体を殲滅させようという脅しに使うという作戦だった。その方法とは、最初のメッセージを三体文明に送った手法と似ているが、太陽の反射層を使った増幅法を探査機に封じられてしまったので水素爆弾を使って宇宙にメッセージを送るという方法であった。

三体文明は、この主人公がふたつの公理から宇宙の文明はその位置を知られると即座に殲滅されてしまうということを見つけてしまうと200年前から察知していて句度となく暗殺を試み、太陽を使った電波の増幅法も封じたが、水素爆弾を使ってそれを考えてたと言うところまでは想像できなかった。
自分たちの文明を人質に取られ、地球は侵略から逃れることができた。

というのが相当ネタバレになってしまったが、大まかなあらすじだ。
このクライマックスは合計で1000ページにもなる物語の最後30べーじほどで一気に語られる。まったく想像ができない結末には驚かされた。

解説にも書いていたが、言いかえればこれは宇宙規模の密告劇という感じもする。それはこの物語の冒頭のシーンにあった文化大革命の無残さを印象付ける結果になっているようにも考えられる。文革は密告によって相互監視と政権に不都合な思想を粛正してきたが、著者は思想的なものは一切ないと言いながらどうしても連想されてしまうのだ。
それが余計に空想を超えたリアリティを生み出しているように思う。

上巻の感想にも書いたけれども、これだけ重厚なSFが中国で書かれたというのは中国がこれからの世界をリードしていくのではないかということを否応なく想像させられてしまう。コピー、パクリというのが中国のお家芸と言われ、確かにこの物語のプロットも過去にあったSF作品と似ているところがある。

複数の太陽を持った文明が滅んではよみがえるというのは、アイザック・アシモフの「ナイトフォール」という作品にすでに取り上げられているし、人工物の中に政府を樹立させるというのは、この物語の中にも引用されている、田中芳樹の「銀河英雄伝説」で使われたプロットだ。そして戦艦の中で人が生活をするというのは、日本のアニメの「超時空要塞マクロス」そのものだ。
しかし、それはきっと著者の過去の作品に対するオマージュであってパクリではないと思う。
それはその30ページに十分出ているように思うのだ。


この物語はこれでひと区切りがついているけれども、3部作になっているそうで、邦訳版は来年出版されるそうだ。
すごい仕掛けが施されているそうだが来年が待ち遠しい。



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