トランプなどのゲームは家族や仲間と気軽にできる楽しい遊びだ。決められたルールを互いに守ることが大前提で、ズルをする者がいたり力の強い者が勝手に自分に都合のよいルールに変えると言い出したら一気に興醒めだ。しかしゲームなら「いち抜けた」で済むものの、会社など社会性のある組織でこれをやられたら「おいらいち抜けた」と簡単にやめるわけにはいかないだろう。
パワーバランスは少し崩れたとはいうものの、まだまだ世界のリーダー的な存在の米国大統領に間もなく就任するトランプさんが、就任前の年末から早くも"怪"気炎を上げている。世界産業のトップを走る車両業界のトップスリーに、名指しで「パワハラズル」をやりだした。
アメリカ・カナダ・メキシコには「北米自由貿易協定=NAFTA」が締結されていて、三国間にはこの自由貿易を前提とした産業分担が出来上がってきているように見受けられる。グローバルには、EUや挫折しそうなTPPが最も大規模な例だろう。
車両業界では最も大きなアメリカ市場を意識して、労働賃金の安いメキシコに工場を作って完成品を輸出する方策が拡大してきている。アメリカのビッグスリーもトヨタ・日産・ホンダの日本ビッグスリーも同様で、新しい工場投資はメキシコが主流のようだ。
それにもはや候補ではないトランプさんがそれもSNSで、「新工場設立はアメリカでやれ」「メキシコでやったら高関税をかけてやる」と大パワハラをやったからたまらない。超大企業のトップがメキシコへの新規投資計画の中止を宣言し始めた。
仕事が無くて困った大勢のメキシコ人が国境を越えて密入国するのを、長大なフェンスを作って防止し建設費はメキシコに請求すると共和党の大統領候補の一人だった時に息巻いて人気を得たが、間もなく世界一の国の大統領になろうという人がほとんど同じ論調で気炎を上げている。「困った」を通り越して「どうしようもねえなあ」という印象だ。
関連産業も含めてメキシコで自動車工場がたくさん出来て雇用が生まれ、国民が裕福になれば法を犯し家族を置いて身体を張ってまで国境を越えてくる人々は減るはずだ。そもそもNAFTAを前提にして、グローバルな製造拠点設立に莫大な投資を行ってきた企業の損失や、国を挙げて支援してきた歴史の積み上げのことまでしっかり考えているのか。
目先の利益に血眼になるのは自分が不動産会社グループの総帥だった時までにしてほしいな、「世界のアメリカ大統領」の自覚を早く身に着けて。良くも悪くも近々大統領の発言として定着するのだから、世界中の多くの国や人々は「おいらいち抜けた」とトランプゲームをやめるわけにいかないんだからね。
(写真は本日の朝日新聞東京版朝刊一面に掲載された記事)