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耳ふたひら

2015-09-02 09:34:57 | 歌う

             ~ 『耳ふたひら』 ~ 

 5年前に東京から石垣島に移住した松村由利子は、この島で詠んだ275首を収めた第4歌集を刊行した。 次の5首は未来9月号 今月の歌 に掲載されている。

 

       時に応じて断ち落とされるパンの耳沖縄という耳の焦げ

       手つかずの自然という嘘 除草剤撒かねば道が塞がれる島

       若者は世界の終わりを見るように海へと沈む夕日見にゆく

       もはや発芽させることなき硬き土おやすみおやすみ私のからだ

       南島は濡れ濡れとして生まれたり破水のごとき朝のスコール

                    歌集『耳ふたひら』 (書肆侃侃房)より

 松村由利子は朝日新聞、毎日新聞で20年余り記者をしていたらしい。1首~3首までは新聞記者の視線が、4首、5首は中年女性の体感が伝わってくる。未来誌の「今月の歌」は歌壇で注目されている歌集を1冊だけ取り上げる欄である。会員の歌集はここには取り上げられない。解説は未来の新鋭、今月は岡崎裕美子が次のように書いている。

 「外の人間がその街の歴史を詠うときには、しばしばあるおそれが伴う。こと沖縄については全国紙の記者として活躍した作者は、2010年に石垣島に移り住んだ。ゆったりしたイメージがある南の島のくらしにも過酷さや矛盾はもちろん潜む。五十代になったら自らの閉じようとする身体を表現した歌も多い」 松村と岡崎の二人の才女が向き合う9月号、「今月の歌」はまだ夏の盛りである。     9月2日   松井多絵子    

 

 


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