雲のベールを
☀ 折々のことば 11月2日
「雲があると、月の表情が優しく見えるよね。みんなお互いを生かしあっているんだね。
亀田誠治
亀田誠一は音楽プロデューサーでベーシスト、この言葉は10月16日のツイッターの呟き
らしい。語録に書かれた「ことば」ではなく亀田が誰かに、或いは彼自身に話しかけている「ひとこと」みたいな感じだ。鷲田清一は次のように述べている。
「遮るもののない満月よりも、雲に囲まれ、雲の間から光を放つ月のほうが、きれいに見える。まるでたがいを持ち上げる友だちみたい。人の陰で共に笑みたたえる顔のほうが、人を押しのけて笑いかける顔よりはるかに美しい。品位と謙譲が消えてなくなりそうな時代を愁え、こうつぶやいたのかも」。
投稿から短歌を始めた私は、まず100首のなかの1首に選ばれなければダメだという厳しさを知った。鮮度のよい素材、斬新な比喩など趣向を凝らしたりあの手この手、でもそんな作品はボツになる。私のため息、呟きのほうが入選する。他者を押しのけて自分が選ばれようとする品の悪さは選者に嫌われるのだろう。「文は人なり」 1首といえども作者自身の態度が反映するのだ。
「アナタはよく雲を詠むのね」と仲間から言われ歌集を調べてみたら雲、雲、雲。まいにち私は空が気になる。朝は窓から空を、歩きながら、車窓から空をながめる。空には雲のさまざまな模様が描かれる。鰯雲、浮雲、黒雲、巻雲、白雲、積雲、層雲、乱雲 などなど。
雲を詠う五首 松井多絵子
二丁目をすぎ三丁目に来しときに子羊雲は眠りていたり
鯖雲が鯖雲に寄りてゆく九月最後の日曜、ひとりの昼餉
掴みたい、あのふわふわのとっくりのセーターみたいな一枚の雲
わた雲をかぶる恵那山まだ眠りつづけているのか、九時半ですよ
巻雲は痩せてしまった閉店のセールの店の前に来たとき
11月3日 晴天の文化の日 松井多絵子