ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

大谷ダム見学

2022-12-25 17:27:28 | ダム見学会
2022年11月17日 大谷ダム見学
 
熊本県阿蘇郡高森町の大野川水系大谷川にある大谷ダムは、全国でも希少な表面コンクリート張粗石コンクリート造ダムで、近代土木遺産にも選ばれています。
しかしダムは関係者以外立ち入り禁止となっておりその姿を見ることはできないとされていました。
今回、管理する大分県竹田市の荻柏原土地改良区にダムの見学をお願いしたところ、職員様同行での見学許可がいただけました。
貴重な機会ですのでここではその詳細を記載したいと思います。

大分県竹田市荻町馬場の土地改良区事務所から約15キロ、車で30分弱で大谷ダム入口に到着。
ダムに通じる管理道路には厳重なフェンスが設置され、関係者以外の立ち入りを拒んでいます。


フェンスには『神の領域』という表現。
山向こうは天孫降臨伝説のある高千穂、てっきり神話が由来かと思ったら先代理事長発案の文章とか。
先人たちの苦難と努力に対するこれ以上ない敬意の表れとも取れます。


職員さんが門扉を開けて先導します。


先ずはダム下へ。
副ダムから湾曲したコンクリートが伸びますが、この下に取水塔からの水路が埋設されています。

その水路がこちらで1924年(大正13年)に開通した荻柏原井路の起点です。
大谷川下流にある第二幹線頭首工と併せて約600ヘクタールの水田に灌漑用水を供給しています。


こちらは副ダム。

全面越流式のエプロン。
土砂吐ゲートは今は河川維持放流用。


正面から
左岸(向かって右手)にはスロープがつく左右非対称。


スロープはこんな感じ。
左岸法面を保護するために設けられました。


さらにズームアップ。


今度はコンクリートブロック張をズームアップ
コンクリート張のダムは明治期に長崎市で建設された本河内低部ダム西山ダムがありますが、両者はともに間知石サイズのブロック張り。
対してこちらは幅1メートルを超えるブロックが間断なく積まれています。
事前にイメージしたサイズよりもはるかに大きくびっくり。


副ダムから下流を見ると
溶結凝灰岩の岩盤が露出しており、細い導流堤が作られていましたが…
9月の台風14号では豪雨により副ダムを飲み込むような越流があり、導流堤の一部が破壊されたそうです。


堤体と副ダム。


堤体と減勢工
超広角で撮ったので傾斜は緩やかに見えますが…。


実際はこんな感じ。


一部ブロックの継ぎ目には止水処理が施されていますが、基本竣工当時のまま。


右岸の取水塔。


もう一点驚いたのが堤頂部の幅。
優に3メートルはあるでしょうか?
全面越流式ダムの堤頂部がこれほど厚いダムは初めて見ました。


左岸側の側水路
左岸法面保護のため作られました。
越流した水は上記スロープを流下します。


堤頂部と言うかこれが天端になるんでしょう。
非越流時は問題なく歩けます。


天端から下流を見下ろすと
ここから見ても荒れているのがわかります。


取水口
戦前戦中のダムでは堤体にビルトインされた半円形の取水塔が多いのですが、ここは堤体から完全に分離した円形取水塔。


総貯水容量202万1000立米、有効貯水容量150万立米と戦前の農業用ダムとしては屈指のスケール。
しかもそれが人馬も通わぬ秘境に作られたのですから驚きです。
ダムの完成により河川流量の変動に関わりなく安定した取水が可能となり、取水口が近接して水争いが絶えなかった他水路との紛争も緩和されました。


右岸の取水塔
建屋は戦後刷新されたようですが、石積の土台は竣工当時のまま。





堤頂部も隙間なくコンクリートブロックが敷き詰められています。



今回はダムを管理する荻柏原土地改良区様のご厚意によりダムの見学が叶いました。
同土地改良区はわずか職員4名で運営されており所々多忙の中、偶々翌週に定例となっている地元小学校の社会見学会の実施直前というタイミングの良さもあり、職員様同行での見学が叶いました。
対応していただいた荻柏原土地改良区様には厚く御礼申し上げます。