ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

上田池ダム

2017-11-30 14:51:55 | 兵庫県
2017年11月24日 上田池ダム
 
上田池(こうだいけ)ダムは兵庫県南あわじ市神代社家の三原川水系上田川上流部にある灌漑目的の表面石張重力式粗石モルタル工ダムです。粗石モルタル工というのは粗石とセメントを水で練り混ぜたもので、堤体表面には間知石が布積みされています。
三原川中下流域の三原平野は淡路島最大の平坦地ですが、水源としていた三原川の水量は乏しく古来から灌漑用水の確保が困難で『月夜にも焼ける』といわれるほど干ばつ被害に悩まされてきました。
1915年(大正4年)に新貯水池建設計画が持ち上がりますが、第一次世界大戦による物価高騰やダムの型式の検討に時間を要し、1925年(大正14年)にようやく事業内容の合意に至りました。
貯水池建設に際し、36メートルの堤高を賄う土堰堤の材料の入手が困難だったことや、下流住民の決壊への懸念を払しょくするため神戸の水道事業で実績のあった重力式粗石モルタル工型式が採用されました。
そして翌1926年(大正15年)に建設工事が着手されますが、工事途中で貯水量を増やす為に堤高を41.5メートルにかさ上げするなど7年の工期を要し、1932年(昭和7年)に上田池は竣工しました。
上田池は農業用コンクリートダムとしては香川県の豊稔池ダムにつぎ、兵庫県神戸市の山田池と並び日本で2番目に古いダムとなります。
また堤高41.5メートルは粗石モルタル工としては神戸の立ヶ畑ダムや布引五本松堰堤を凌ぎ千苅ダムに迫る高さとなっており、これらの土木技術上の価値を評価して土木学会選奨土木遺産及びAランクの近代土木遺産に選定されています。
池の管理は耕地整理組合を引き継いだ上田池土地改良区が行い旧三原町内538ヘクタールの農地に灌漑用水を供給しています。
 
南淡路広域農道(オニオンロード)に上田池を示す標識があり、これに従って南下し社家集落を抜けると上田池に到着します。
浄水場手前に車を止めて浄水場の裏手を抜けると堰堤の左岸直下に出ます。
堤高は41.5メートルで石積堰堤としては神戸の立ヶ畑ダムや布引五本松堰堤を凌ぎ、千苅ダムに迫る高さです。
 
導流面、扶壁もきれいな石積みで溢流部は連続扁平アーチになっています。
 
堤頂部はほぼ垂直になっており実際の堤高よりも高さを感じ、城壁の如き堤体です。
 
上流面も装飾的なデザインで見た目にも美しいの一言です。
扶壁の上部は波切りのためか円形の台座のようになっており、ここで連続扁平アーチの支えています。
洪水吐上部だけコンクリートが新しく近年改修があったようです。
 
天端は車両通行可能
高欄は市松風の三つの小窓が上下反転しながら続いています。
 
左岸上流側の張り出し
どういう機能かは不明です。
 
古い石積堰堤ではおなじみの円形の取水設備。
 
取水設備の諸元プレートと選奨土木遺産遺産のプレート。
 
天端から見た導流面
右岸側は地山が張り出し天然の導流壁のようになっています。
この日は風が強く越流した水は水紋を描くというよりは水飛沫を跳ねあげていました。
 
天端からは播磨灘が見えます。
 
上流からの眺め。
 
神戸の石積堰堤に勝るとも劣らぬ素晴らしい堰堤です。
難を言えば直下に浄水場があるため、堤体直下から見上げることができない点でしょうか?
実は上田池を水源とした灌漑用水は下流で複数の円筒形分水工が設置されている事を帰宅後知りました。
中には貴重な親子分水工もあるようです。
いずれ再訪の機会があればぜひ見てみたいものです。
 
1470 上田池ダム(1184)
近代土木遺産Aランク
兵庫県南あわじ市神代社家
41.5メートル
131メートル
1700千㎥/1500千㎥
上田池土地改良区
1932年

旧成相池堰堤

2017-11-30 13:10:26 | 兵庫県
2017年11月24日 旧成相池堰堤
 
旧成相池堰堤は兵庫県南あわじ市八木馬回の三原川水系成相川の成相ダムの上流500メートルのダム湖に保存されている重力式粗石モルタル工の石積堰堤です。
灌漑を目的として1937年(昭和13年)に着工され、戦時中の中断をはさんで1950年(昭和25年)に竣工しました。
戦後に竣工した石積堰堤は珍しく、確認はできませんが最後に建設された石積ダムと言えるかもしれません。
しかし1999年(平成11年)に下流500メートルに成相ダムが竣工したことで上部5メートルを残してダム湖常時満水位以下に水没し、現在は安定上問題ない形状で保存されています。
2021年(令和3年)に土木学会選奨土木遺産に選ばれました。
 
成相ダムから湖岸を上流に進むと旧成相池堰堤が見えてきます。
 
左岸下流から。
 
右岸下流から
切石が奇麗に布積みされています。
 
写真は神戸市の山田池です。
ゲートの数は異なりますが、ゲート、半円形の取水設備、天端高覧の造りなどは山田池に非常によく似ています。
 
 
 
右岸上流から。
 
上流から新旧競演。
 
 神戸の石積堰堤に比べれば小ぶりな堰堤ですが、緩やかに円弧を描く堤体は柔和で上品な印象を受けました。
 
S511 旧成相池堰堤(参考掲載)(1183)
兵庫県南あわじ市八木馬回
三原川水系成相川
G(粗石モルタル)
33メートル
113.3メートル
1950年竣工
1999年廃止

成相ダム

2017-11-30 01:29:57 | 兵庫県
2017年11月24日 成相ダム 
 
成相ダムは兵庫県南あわじ市八木馬回の三原川水系成相川上流部にある兵庫県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
三原川水系では1974年(昭和49年)に三原川本流上流部の諭鶴羽川に諭鶴羽ダムが建設されましたが、1979年(昭和54年)の台風16号で三原川本支流各河川で甚大な洪水被害が発生し一段の治水対策が求められることになります。
兵庫県は、翌1980年(昭和55年)に三原川総合開発事業を採択し支流各河川に新たに2事業4基の多目的ダム建設を決定します。
三原川右支流の成相川では本流と支流の北富士川に2ダム1事業でダム建設が進められ、1999年(平成11年)に成相ダムと北富士ダムが竣工しました。
成相ダムは建設省(現国交省)の補助を受けて建設された補助多目的ダムで、北富士ダムと連絡水路で結ばれ一体運用され、成相川及び北富士川の洪水調節を行うほか、成相川の安定した河川流量を維持するとともに慣行水利権としての流域農地への灌漑用水の補給、淡路広域水道事業団への上水道用水の供給を目的としています。
 
南あわじ市の国道28号線鳥井交差点を南に折れ、市道を南西に進むと正面に北富士ダムと成相ダムが見えてきます。
二股を右手にとると成相ダムに到着します。
まずはダム下から
北富士ダム同様ダム下は親水公園になっています。
 
非常用洪水吐として自由越流式クレストゲートが2門、常用洪水吐としての自然調節式のオリフィスゲート1門、訪問時はオリフィスから越流していました。
天端高欄や洪水吐上部のアーチ、導流壁のカーブなどR(円)が多用されたデザインは非常に柔和な印象を与えてくれます。
 
右岸ダムサイトに管理棟と竣工記念碑があります。
 
堤頂部はいわゆる『襟』がなく堤頂からバケットカーブが続きます。
 
天端高覧は山をイメージしたデザイン。
 
天端はシンプルな北富士ダムと異なり石製のベンチや展望スペースが設けられています。
 
天端からは播磨灘が見えます。
 
導流面と減勢工
右手は利水放流設備です。
導流壁は断面が三角になった独特のデザイン、これは北富士ダムと共通です。
 
ダム湖は総貯水容量405万立米
上流500メートルあたりに成相池堰堤があります。
 
上流面
ゲート右手に取水設備、左手はエレベーター棟
管理事務所裏手にインクラインと艇庫があります。
 
1525 成相ダム(1182
兵庫県南あわじ市八木馬回
三原川水系成相川
FNW
61メートル
223.5メートル
4050千㎥/3950千㎥
兵庫県土木部 
1999年