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戦場のレクイエム◆迫真の映像で描く内戦の悲劇

2009-01-19 16:02:18 | <サ行>
  

  「戦場のレクイエム」 (2007年・中国)
   集結號/Assembly
第二次大戦が終結した中国。国民革命を目指していた中国国民党と中国共産党は、戦後構想の違いから対立を深めて内戦状態に入った。蒋介石率いる国民党軍は当初、アメリカの支援を受けて毛沢東の人民解放軍の優位に立ち、東北部をはじめ大陸の大部分を手中に収めようとしていた。その時代に、人民解放軍として激戦の地に送られたある部隊の悲劇と、部下を失ったひとりの男の鎮魂の旅路をリアルに描き出す。

冒頭の華東地方で繰り広げられる市街戦のすさまじさに、まず圧倒された。画面全体をモノクロかと思うほどの渋い色調に抑え、戦闘シーンの凄惨な描写を緩和しているものの、映像、音響ともに戦場の臨場感は圧巻のひとこと。すでに多くのレビューで「プライベート・ライアン」が引き合いに出されているように、戦闘描写に長けたハリウッド映画にも引けをとらないこのシーンは、「ブラザーフッド」を手がけた韓国の製作チームの協力で実現したらしい。加えて何より目新しく感じたのは、中国国内を二分した国共内戦と、戦いに加わった人々が受けた深い傷跡を、リアリズムに徹して描いていることだ。主人公のグー・ズーディ(チャン・ハンユー)は、内戦の三大戦役の一つ、淮海(わいかい)の最前線へ人民解放軍の連隊長として送られる。任務は47名の部下とともに、川向こうの旧炭鉱を死守すること。しかし、物量で勝る国民党軍の攻撃は苛烈で、連隊の兵士たちは次々に命を落としていく。撤退の合図は後方部隊の鳴らす集合ラッパだったが、いつまで経ってもラッパの音は聞こえない。やがて一人の兵士が「ラッパの音を聞いた」とグー隊長に進言する。砲撃で耳をやられたグーは、ラッパが鳴ったかどうか確信を持てずに、残りの兵士に突撃の命令を下してしまう。

このグーの決断が連隊の壊滅を招き、ただ一人生き延びた彼のその後の人生は深い自責の念で縁取られる。内戦が終結し新中国が建国された後も、失った部下への思いをぶつけるように朝鮮戦争の義勇軍に加わり、地雷を踏んだ上官を救うために身代わりとなって片目を失う。帰国後に、多くの戦死者が「烈士」として称えられるなか、旧炭鉱で戦死した仲間が失踪者扱いになっていることに義憤を感じて、炭鉱跡に彼らの遺体を必死で探し始める。グーのその後の人生を描くこの後半の展開は誰が見ても分かりやすく、無学だが情に厚い一兵士の一途な思いが、スクリーンを鎮魂の哀歌で染めていく。地雷から救った上官との義兄弟の絆もほほえましく、またかつての部下の未亡人を紹介するくだりは、韓国映画でも見ているようなユーモアが印象的だ。そして終盤で明かされるラッパの音をめぐる真実。わずか3ページの短編小説を、迫真の映像と感慨深い人間ドラマで膨らませた演出の冴えはみごと。

ただ、前半のすさまじくリアルな戦闘からは、内戦の、あるいは戦争のもたらす非道さ、無益さが嫌というほど伝わってきて、おそらく解放戦争として位置づけられているはずの国共内戦を、中国人監督が普遍の悲劇として描いてしまってよかったの?と余計な心配までしてしまった。もっとも本国では歴代興行収入第2位のヒットを飛ばし、中国のアカデミー賞といわれる金鶏百花映画祭で主要4部門を受賞したそうなので、そんな心配はもとより無用だったようだ。中国映画も“解放”への転換点を迎えているのかもしれない。


満足度:★★★★★★★☆☆☆


<作品情報>
   監督:フォン・シャオガン
   製作:ワン・チョンジュン/ジョン・チョン/レン・チュンルン
   原作:ヤン・ジンジュアン(「Guan Si(訴訟)」)。
   脚本:リュー・ホン
   撮影:リュイ・ユエ
   出演:チャン・ハンユー/ドン・チャオ/ユエン・ウェンカン
       タン・ヤン/リャオ・ファン/ワン・バオキアン

         

<参考URL>
   ■映画公式サイト 「戦場のレクイエム」
   ■関連商品 「集結号(アセンブリー)」(北京語版DVD)2枚組み

   

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6 コメント

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どうもこすもさんこんばんは⌒ー⌒ノ (黒猫館)
2009-01-20 02:27:29
どうもこすもさんこんばんは⌒ー⌒ノ

「戦場のレクイエム」レヴュー非常に興味深く読ませていただきました。

■第二次大戦が終結した中国。国民革命を目指していた中国国民党と中国共産党は、戦後構想の違いから対立を深めて内戦状態に入った。■

ココラ辺の歴史は高校の世界史の授業で必ず時間がなくて「飛ばされる」箇所なのでわたしもほとんど知らないです。この「戦場のレクイエム」がDVDで出たら改めて勉強させていただきますネ

■多くのレビューで「プライベート・ライアン」が引き合いに出されているように、戦闘描写に長けたハリウッド映画にも引けをとらない■

「レッドクリフ」もそうですが、最近の中国映画の特撮技術は凄いらしいですネ。「割目して」観賞させていただきます⌒ー⌒

■おそらく解放戦争として位置づけられているはずの国共内戦を、中国人監督が普遍の悲劇として描いてしまってよかったの?と余計な心配までしてしまった■

最近の中国は色々な点で転換期を迎えているらしいですネ。革命時代は封建主義の産物として弾圧された孔子の「論語」が再評価されたり、とかです。
「中国映画」のほうも転換点を迎えていると思いますのでこれからますます面白くなる中国映画に期待大です!!

それではまた~♪
アメリカを売った男 (タダシ)
2009-01-20 07:47:02
僕のお勧め「アメリカを売った男」実話です。FBI勤続の男がロシアに情報を20年も売っていた話。クリスクーパーが静かに演じてました。なかなか面白かったですよ。お勧めです。
くろねこさん、こんにちは~ (masktopia)
2009-01-21 12:47:03
>ココラ辺の歴史は高校の世界史の授業で必ず時間がなくて「飛ばされる」箇所

言えてますね(^^;
もっとも飛ばされていなくても大昔のことなので
すっかり記憶から消えていましたが

>「レッドクリフ」もそうですが、最近の中国映画の特撮技術は凄いらしいですネ

「レッドクリフ」ではハリウッド、この作品では韓国のチームが技術協力していますね。
リアルに徹したいという思いがそうさせたのでしょうが、
それがいい意味で内容にも影響していると思いました。
国共内戦を美化するでもなく、地に足の着いた人物像を描いている点はよかったです
タダシさん、こんにちは~ (masktopia)
2009-01-21 12:53:17
おすすめ作品をありがとうございます♪
実話のスパイ事件については聞いていましたが、
この作品は未見でした。
ツタヤDISCASの予約リストに入れておきますネ
アンダーカバー (タダシ)
2009-01-22 07:36:04
見てまいりました。原題の「we own the night」のほうがしっくりいきます。ホアンキンの悩める演技がよかった。エバーメンデスの胡散臭い色気も表 裏を感じました。良かったです。
タダシさん、こんにちは~ (masktopia)
2009-01-23 09:16:10
「アンダーカヴァー」をご覧になったのですね?
原題はアメリカ人ならピンと来るものだったでしょうが、
日本向けに考えて現タイトルに落ち着いたのかもしれませんね。
ホアキンもエバ・メンデスも男女それぞれ味は違いますが、
かなり艶のある演技を見せてくれたと私も思います。

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