Fish On The Boat

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『結婚への道』

2023-10-04 23:48:09 | 読書。
読書。
『結婚への道』 岡村靖幸
を読んだ。

独身のミュージシャン・岡村靖幸さんが雑誌の企画で。自らが結婚するための情報集めのようなものとして、結婚をテーマとした対談を繰り広げた、その集積となる本です。

対談相手はミュージシャン、小説家、漫画家、文化人、女優などさまざま。個人名を出すと、坂本龍一さん、糸井重里さん、吉本ばななさん、内田春菊さん、松田美由紀さん、YOUさん、ミッツ・マングローブさん他で、合計32名にもなります。坂本龍一さんのページですと、彼が30代末くらいまでのやんちゃ話も聴けます(読めます)。

岡村靖幸さんは、ジョン・レノン&オノ・ヨーコ夫妻のような結婚に憧れているといいます。強い愛があって、クリエイティブのためのインスピレーションが得られて、とにかく最高の夫婦だということでした。ただ岡村さんは、そういいつつも、結婚相手に望むものは「やさしさ」しか挙げません。「やさしさ」さえある人ならば、結婚を前提に付き合える、と。付き合ってみて、結婚に至るかどうかはまた難しいのでしょうけれども、そうやって入口を広くとってあるところには現実性があります。

さて、本書を読んでいていろいろな人が言っているのは、フランスに多い事実婚についてのこと。PACS婚という言葉もでてきます。僕はこの方面にうといので、よく知りませんでしたが、事実婚は別に役所に届け出を出さなくていいじゃないか、というものですし、そもそも戸籍なんていらないという考えもあるんです。戸籍についていえば、戸籍というシステムはおかしい、と本書の中で何人もの人が別々に言っていたりもしました。ちょっと、別の機会に戸籍についても調べてみたいなあと興味が湧きました。

ここからは、おもしろかったところを抜粋。最初はYOUさんとの対談での岡村さん。
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YOU:あれは? ”負”の部分は必要? たとえば私が詞を書いていた頃は、”負”の部分がおいしいっていうか、それをネタにするっていうか。いまの私は、自分で制作とかクリエイティブなことをしていないので、それはもうないんだけど、そういう部分ってやっぱりあります?

岡村:年齢的なことが大きいんですけど、最近はもうやさしい気持ちになりたいです。

YOU:あはははは(笑)

岡村:昔はこう、「勝ち負け」みたいな部分があって。「負けてたまるか!」みたいな。いまはもうやさしくなりたいです。(p76)
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岡村さんは当時40代後半ですが、見た目はまだまだ若々しいです。なのに、こんな枯れたような言葉がするっと出てくるのでおもしろかった。


次はケラリーノ・サンドロビッチさん。ここは文筆でクリエイティブをやる人にとって、深く肯く内容です。
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KERA:一方、いわゆる「ドラマ」をやるときは、彼女(奥様である緒川たまきさん)の意見がとても参考になる。小説家もそうだと思うんだけど、ドラマって観客の意表をつくような、一見すると矛盾しているような、当たり前ではない、意外な展開をしつつも、「でも、そうかもしれないな」と思わせるテクニックが必要なんです。そういうとき、緒川さんは、ふっと提示してくれるんですよ。

岡村:なるほど。いいヒントを与えてくれるんですね。「その視点があったのか」とあらためて気づかせてくれる。(p135)
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緒川たまきさんはまるでミューズですよねえ。

クリエイティブについて、岡村さんは、
「孤独であること、報われないこと、そういった不敵なパワーがクリエイティビティにつながることが。僕は、どっちかというとそういった部分が強いんです。」(p128)とはっきり何度もおっしゃっています。だから、恋愛にしても結婚にしても、幸せや安定感を得ることに迷いが出る、とある。葛藤があるのです。僕みたいなのでもこういうのってわかるんですよねー。僕はクリエイティブのために結婚を考えなかったのではないのですけど、たしかにこういう側面ははっきりわかります。結婚するならば、それまでの創作姿勢の方向性を変える必要は出てくるんだと思えます。それも苦労したりしながら。でも新たな道が見つかるとおもしろいのでしょうけど。


最後に、堀江貴文さんの、彼のイメージからはちょっとギャップを感じた発言を。
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堀江:たとえば、20代の女性編集者に「老後に年金をもらえるかどうか不安です」って相談をされたんですが、僕はそれを聞いてあきれたんです。あなたが年金をもらえるとしてもあと40年も先のこと。なぜそんな先のことを心配するんだと。そんなことより、いまはまだ20代で若いんだから、まずは一生懸命働くことが重要で、働くなかで自分に自信をつけ、人との関係をどんどん築き、信用を高めていくべきじゃないのと。要は、年金の心配をするというのは、お金の心配をしているということなんですよ。「老後誰にも助けてもらえないだろうからお金だけを頼りに生きていくのよ」と思ってるってことなんです。あなたは金しか信用しないの? と僕は思う。だから結局、結婚もお金なんです。一人で強く生きられない、不安だ、だから結婚したい。それは人を信用しているのではなく、金を信用しているからなんです。金こそが自分を助けてくれると思ってる人が多すぎます。それってどうなの? って僕は思うんです。

岡村:なるほど。

堀江:第一、お金ってそんなに信用できるものではないですよ。お金の信用の源泉って人と人との信用から成り立っているわけで、先にありきは、人と人との信頼関係。お互いが信頼し合い、初めてお金が成立する。米ドル紙幣に書いてあるじゃないですか In God We Trust って。だから、「自分が弱ったときは、絶対に誰かが助けてくれる」という自信をもって生きなくちゃいけないと思うんです。

岡村:もちろんそうなんです。そうなんですけど、みんな不安なんです。確実な何かがほしいんだと思うんです。それは人によってはお金かもしれない。精神的な安定かもしれない。(p230-231)

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人を信用することが大事で、お金は信用に値しないなんていう見方って、この言葉を正面から受け止めると、「よく言ってくれた!」と拍手したくなります。でも、ちょっとそこからずれた角度で見直してみると、強烈な理想論のように読めてしまいます。本質をついているのだけど、現実の行動に反映させるとなると、難しいなあと思っちゃいます。

というところですが、岡村さんの切実な結婚願望が根本にはあるのですけれども、和気あいあいとした楽しい対話としていろいろな形にその都度昇華されているというか、エンターテイメントとして成り立っていたり、ときに知的興奮を得られる読み物になっていたり、人と人との反応のおもしろさが感じられました。対談集のおもしろさの要素として、その大きなひとつってそういうところですよね。結婚話というものを日常で僕はあんまりしたことがないので、なんだかとっても刺激的でおもしろかったです。

著者 : 岡村靖幸
マガジンハウス
発売日 : 2015-10-20

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