Fish On The Boat

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『十九歳の地図』

2012-07-23 22:47:11 | 読書。
読書。
『十九歳の地図』 中上健次
を読んだ。

半年くらいぶりに読んだ小説は、初めての中上健次さん。
70年代の作品集でしたが、その文体はまだ現代に通じるものを持っていて…、
というか、僕の世代だとまだ平気で読める文体でした。

4作品、収録されていましたが、それぞれに書き方が異なっています。
実験なのか、確信的な変遷なのか、苦しみの末の変化なのかわかりませんが、
形容の仕方、比喩の使い方や頻度に大きな差が見られました。
でも、それぞれに面白く読みやすいのです。
そういうところは他の作家の人たちも参考したり盗んだりしているんじゃないかなぁ。

『十九歳の地図』はシンガーソングライター、故・尾崎豊さんの代表作
『十七歳の地図』のきっかけになっているだろう作品です。

19歳、予備校生の主人公は人生に希望を持てない。
きっとその彼が目指すは、1か0かなんだと思う。
支配者か被支配者か。
それで、支配者にはなれないことを悟っていて、
自分だけの狭い閉じた世界の支配者になろうとする。
新聞配達の仕事仲間との世界をのぞいた外界との接触は、
ときどきかける公衆電話からの脅迫電話だけ。

それでも、その脅迫電話というものから、世界に繋がるだけまだ救いがあるような気がする。
本当に、現代だと、そういう繋がりさえしない子たちがいるでしょう。
また、その主人公の行動にとってかわる現代の行動といえば、
2ちゃんねるでの威力妨害や誹謗中傷の書き込みをする連中に置き換えることができるかもしれません。

鬱屈さが腐ってそういうふうになるんじゃないかなんて考えるところです。
19歳という年齢。放埓に生きろ、自由に生きろというと、
こういう人も出てくるものです。そういう人になってしまうバックグラウンドが
世の中や親や家族、境遇によって作られるものです。
それがいけないとかそういう話はしません。
『十九歳の地図』は一つの、その当時の現代を描いた絵でもあるでしょう。

村上龍さんほど、突き抜けた生活の小説ではありませんし、
村上春樹さんほど、その比喩で独特の世界観を持たせるものでもないと思いました。
それでも、どうも、中上健次という人から枝分かれした図でもって、二人の村上作家を
位置づけられるような気がしたんですよねぇ。
それはそれ、文学に浅い僕ですから、間違いかもしれないです。
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