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『夢を与える』

2018-03-28 22:46:35 | 読書。
読書。
『夢を与える』 綿矢りさ
を読んだ。

フランス人のクオーターの女の子、夕子は、
幼い頃からその優れた容姿を活かすモデルの仕事やCMの仕事をこなしていた。
その夕子と彼女をささえる母や父の家族関係が絡みつつ、
中学生、高校生…と芸能界の中で成長していくさまを描いた作品。

書きだしからの最初の章の文体といったら、
才気あふれ、読む者の目を捉える、
鋭く、貪婪ともいえるようなエネルギーに満ちた感じでしたが、
中盤くらいになると、なんだか個人的に冗長に感じてきてしまいました。
それでも、中盤からラストに書けて、
とても引きつけられ、
ぐっとくる面白い作品だったという感想になって読書は終わる。

作品のテーマは難しいものだし、
触れたがる人もいないというか触らぬ神にたたりなし的に
あまり考えずにいるようなものですが、
率直な気持ちで正面から見たまま、
そらさずに、でも、考え事の世界にいってしまわず、
現実を忘れずに取り組んだような作品。

僕には夕子の、恋の熱い気持ちはわからない。
というか、きっと遠い彼方に置き忘れてしまった気持ちなんだろう。
あそこまで愚かになって傷つくことができるかどうか、恐怖感すらある。
夕子のは血の通った、それも人間としての血のリアルな濃さを感じさせる稚拙さだと思った。
否定、とか馬鹿に、とかしたくなるけれど、これは受容すべきものだ。

『夢を与える』の表題になっている
「夢を与える」という言葉自体にもきちんと考えたその意味が、
物語の他方でのひとつの落としとなっている。

この著者の本は読み通した分だけきちんとリターンがもらえる経験があったので、
今回もそうしました。
中盤で飽きてきそうにはなるんだけど、信じて読んだら信じたぶんのリターンがある。

また、
沈黙は爆音よりも怖いものだ、というような比喩。
なぜなら、爆音の後、いつまた爆音に見舞われるか
構えて緊張していないといけなくて、疲弊するから。
これは個人的な家庭環境でこそ言えることだよなあ、と
著者の綿矢さんだって楽な人生じゃないんだなと思わせられた。
若くしてデビューし、芥川賞を獲っても、
祀り上げられることに気づき、拒否し、
楽には生きないんだね。
そこらへん、またひとつ、作家だな、という気がしました。
(勝手な考察ですが)


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