Fish On The Boat

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『一般意志2.0』

2014-10-30 14:09:02 | 読書。
読書。
『一般意志2.0』 東浩紀
を読んだ。

200年前のフランスの思想家、ルソーがその主著『社会契約論』で語った
「一般意志」という概念に東さんが光を当て、現代流に解釈し、
バージョンアップさせた「一般意志2.0」としての現代への適応と、
そこから変わる国家、民主主義というものを見ていく(論じていく)本です。

フロイトの精神分析の言葉を用いて、
「一般意志」とは無意識であるとしている。
そして、その無意識は、現代において、ツイッターやブログや、
その他、検索したりページをたどったりした足跡なりというデータが蓄積し、
浮かびあがる集合した無意識であり、それこそが「一般意志2.0」とされています。
これはきっと、今でいえば、いわゆるビッグデータのことなんでしょうね。

その「一般意志2.0」を元にして、政策を行うのがこれからの世界になるのでは、
あるいは、そうなるのが良い、と筆者は言っているように読めました。
よりよい理想に向かうと、そうなる、と。

いろいろと、著者の論説を補強する引用や、
熟議民主主義などのような昨今の主流の思想と
筆者のこの「一般意志2.0」をあいまみえさせて調整したり、
ときほぐしたりしています。
特に僕には終盤にでてきたリチャード・ローティの話が面白くて、
なるほどと思うようなのがありました。

それは、アイロニーに関する記述でした。
「アイロニー」というと、「皮肉」と訳されますが、
筆者は、ここでは矛盾を抱えた物言いのように解釈していました。
相反する物事や概念などを、一方だけを真実とせずに、
どちらも包みこんでしまって考える方が好ましいとする態度は、
僕個人の考え方に近いものがあります。

また、「連帯」というものには「憐れみ」がその繋ぐ糸になるというようなことが
書かれていましたが、この間読んだ村上春樹さんの小説
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の旅』でも、
人は痛みや苦しみで繋がるっていうようなことが書かれていて、
ちょっとだけそこはリンクしているように感じました。
僕としては、アニミズム的な、モノに込められたその人の気配を感じ取ること、
もっと言えば、人の霊性を感じ取ることでのあたたかみっていうものが、
「連帯」や「社会的包摂」を作るんじゃないかって考えています。
そこは本書の中にはない概念ではありましたが、
「理性」と「情緒」のうち、近代は「理性」ばかりを重んじてきたが、
「情緒」にこそ、これからの社会をつくる何かがあるんじゃないかっていうような
主張があって、そこは繋がるよなぁと思いながら読みました。

「一般意志」に着目し、
それを現代のビッグデータに重ね合わせて「一般意志2.0」として
論を広げていったこと。
そこにはオリジナリティがありました。
地に足をつけたまま背伸びをして、見えたものを記述するというわけではなく、
宙に浮いて見えた景色を語ってくれるような、飛躍とはいいたくないのですが、
メタからの実存的構築とでもいいたい、手触りと手ごたえを感じられる内容です。

そして、現在をよく見てらっしゃるなぁと思えましたねぇ。

新しい知識を得ることで、視界や意識が変わることってありますが、
本書はまさにそうです。
世界の見え方や展望を変えたいような方にはうってつけでしょう。


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