あぁ、湘南の夜は更けて

腱鞘炎やら靭帯断裂やら鎖骨骨折やら…忙しいッス。
自転車通勤往復100kmは、そんなこんなで自粛してました。

『ラスタマン、チェスター』 ジャマイカ旅行記-その6

2005年01月01日 | ジャマイカ旅行記
竹と板切れ、トタンで造られたこの小屋は隙間だらけで、
ジャマイカの強い陽射しが洩れてくる。

編みかけの靴とガンジャを巻くチェスター

部屋の中もラスタカラーで塗られていた。
そして壁の一角には細い縄で編んだ靴がかけられている。

「日本は寒いんだろ? どこから来た?」
「東京さ、無茶苦茶寒い。」
「トーキョーか…遠いんだろ?」
「ダイレクトじゃ来られない。ニューヨーク経由で丸一日かかる。」
彼は笑って、ジャマイカまでやってきた僕のことを試すように言う。

「ニューヨークは狂っていただろう? トーキョーはどうだい?」

「まったくニューヨークさ(Just like New York.)」
「コンクリートジャングル…」
そう言いながら彼がワンフレーズ、ボブ・マーリィーの『コンクリートジャングル』。
"Instead of CONCRETE JUNGLE where the living is harder
CONCRETE JUNGLE man you got to do your best"

「そうだね、人々は怒ったような顔をして街を歩き、金、金、金ばかり探している。」
「分かるよ、行ったことないけどね。」
ここの人々は素敵だね。
僕は知らないけど日本にも素敵な文化があったんだ。
僕らは文化を捨てて金のことだけを考えるようになってしまったらしい。
チェスターが棚から編みかけの靴を取る。

「俺は靴を作っている。俺は自分で靴を作れるんだ。
新しい靴を買うために魂を売ることはない。
俺は余計に作った靴を仲間に分けている。
仲間たちはそれぞれ別のものを作っている。
余計なものは俺にくれる。」
彼は続ける。
「シンプルだろ。」

靴は彼の手によって綺麗に編まれていく。
彼らはネイチャーマンとも呼ばれている。裸足の男も多い。
自然が与える枠の中で自然と強調しながら生きている。
もちろん仲間の何人かは強弱こそあれ経済世界とのコネクションは持っているだろう。
その年の作物を収穫したあとの藁クズはロープに撚られて
チェスターの手で美しい靴に編まれていくのだ。
僕も日本に昔あったという生活を想う。
収穫後の稲藁を冬の農閑期に草鞋や長靴にする、箕のにする、笠にする。
あるいは家畜の餌になり、堆肥になる。
山林の荒廃を防ぐために山の木を間伐し、例えば小さな民芸品や箸を作る。
すべてはサイクルの中にあった。

半径1000mで完結していた生活。

人間が自然の循環に手を貸していた。鳥や虫のように…。
そして、自然はそれに対して次の年の豊かな(あるいは厳しい)生活を保証してくれた。
今はすべてがぶつ切れのシステム。ますます環境は悪くなっていく。
自然に見切りをつけられている。今、僕らはそんな日本しか知らない。
ほんの数十年前まであった生活。
生まれたときには高度経済成長下、農薬や食品添加物、合成界面活性剤が溢れていた。
自然のサイクルからはみ出した都市トーキョー、本質的なものは一切生み出せない。
金があればOKさ。
食べるものは作らない。原発もトーキョーのため。
河川をコンクリートで囲い邪魔な雨水は一日で海に流しておいて、
水不足の年には水がないと騒ぐ。
産業廃棄物は地方の野山に! 僕たちで出したゴミだけどゴミ処理施設は要らない!
牛乳は飲むけど畜産農家は都市に住むな!

…金があればOKさ。

チェスターの言う「シンプルだろ」の意味が、
彼の手によって編まれていく靴を見ているとよく理解できる。
イギリスに支配され、アメリカに土足で上がり込まれたジャマイカで
彼らはたくましかった。

「シンプル」…旅をしているとよく思う。
最初のインド旅、僕は大きな荷物を背負っていった。
次の旅はもう少し小さく。
今では機内持ち込みできるほどの荷物で何ヶ月でも旅を続けられる。
そう、その最初のインド旅のとき、1人の素敵な日本人に出会った。
彼はデイパックを一つ背負っていた。3年かけて世界を一周していた。
3年の間に彼の生活はどんどんシンプルになっていったと言う。
今は日本のどこかで手作りの家具を作っているはずの1987年当時22歳だった青年。

「何日くらいジャマイカに?」
「チケットの関係で10日したらニューヨークに戻るよ。」
「それが日本の休暇?」
「これでも大変だったんだ。日本じゃ長―い休暇なんだよ。」
「これからどうするんだ?」
「キングストンへ行く。」

「殺されるぞ。」

キングストンはジャマイカの首都。
その街のゲットー(スラム街、警察も入れない不法地帯)の一つトレンチタウンで
ボブ・マーリィーは青年時代を過ごした。レゲエが生まれた。
ゲットーは虐げられた人々のコミュニティーだ。
警察は入れないけど一つの秩序があるという。
そこに行ってみたかった。ボブ・マーリィーの街だから。
僕は支配国バビロンから来たアウトサイダー、危険なわけだ。
チェスターの「殺されるぞ」はそう言う意味。
でも、彼に出会ってなお一層行きたくなってしまった。


No Chains Around My Feet
But I'm not Free
I know I am Bound Here in Captivty
鎖には繋がれていないけど自由じゃないんだ
ここでは囚われの身なんだ
◆コンクリートジャングル(1972)
"INSTEAD of CONCRETE JUNGLE"から始まるサビ。
ボブの憂いを含んだシャウトが胸ん中にぐぐぐっと入ってくるんだよ。
(wrote in 1990)


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