サッカーW杯戦を楽しむ(1)
今回のサッカーのワールドカップは楽しませてくれた。4年前に比べて高まったサッカー熱が私にも影響したのかもしれない。それにしてもファンというかスポーツ評論家の批評は典型的な「勝てば官軍」式にみえる。本戦を控えて4連敗した時は「岡田監督の解任論がメディアに流れたし各選手への個人批判も相当なものだった。監督自身も協会に進退伺いをしている。しかし色々専門的な講釈混じりでいかに監督や各選手に欠陥があるかという論調に徹した同じメディアと一般のファンもが、チームが目出度くベスト16に進出が決まると掌をかえしたように監督や選手を誉めはやす。人の気持ちとはかくも単純なものかなとやや複雑な感情にうたれる。
尤もスポーツだけでなく政治の世界でも同じで政権交代以降の内閣支持率の乱高下にも類似点を感じる。この激しい変化は情報化時代の情報の影響力の大きさを示す証ともいえるが、冷静に考えると情報をキャッチする市民が情報を深く洞察せずに素直に受け入れすぎるということの裏返しではなかろうか。嘗て研究者であった筆者は自分にもそして部下たちにも常に「文献を素直に信じないで先ずは疑って読め」と指導してきた時代を思い起こしてしまった。
さて本論に戻ろう。試合をTVで生で見た感じはサッカーとは岡田監督が言うようにチームプレーが重要ということだった。勿論小野剛協会技術委員長がいうように「シュートの正確さと1対1の強さは必ず満たさなければならない世界基準」という基本思想はその通りだが個々のチームそれぞれに適したシステム構築があってしかるべきで今回の予選3試合を見た限りでは日本チームは守備優先にして少ない機会を捉えた逆襲でゴールを狙う戦法に徹したとようにみえたがそれが功を奏したと思う。
ある解説はそれは1ヶ月前までの岡田流とは逆の戦い方だしオシム元監督が指導していた方式とも2002年W杯日韓大会時代の日本チームの戦法とも違ったという。大会直前に4連敗した岡田監督が一大決心で転換したということだろうか。そして監督は同時にブランド的な中村俊輔の代わりに新鋭本田圭佑を登用した。監督自身が述懐している。「W杯前の低迷中は中心選手の不調が続き何か起用法とかシステムの変革に踏ん切りをつけないといけないと考えて変えた」と。予選直前にはこの監督の変革は「迷走か」とまで疑問視されたが結果的にはその決断が選手への刺激にもなり輝かしい成果に繋がったように思えてならない。選手たちも唐突に示された戦術に戸惑いながらもそれをよく理解して実戦で体現したものと思う。正に驚異的な消化力だった。起用法をめぐってドメネク監督に暴言を吐いた主力FWアネルカが追放されその影響かチームが崩壊した前回優勝したフランスチームとは対照的だった。そこには監督と選手たちの間の信頼関係の格差があったとしか考えられない。先の北京とバンクーバー五輪で日本チームは水泳、陸上、氷上で団体戦でメダルをとっている。個人技術でメダルに届かない場合でもリレーなど団体戦に実力を出してきている。日本人の国民性が関係することかもしれない。最後に岡田監督の言葉を紹介しておこう。「一人一人の力は小さくても1タス1を3にする。その中にリーダーの私も入ってチームをつくる。」
考えれば野球の場合にも1点を争う試合では守りの要の投手がポイントとなるがサッカーも1点を争うスポーツとすれば守備優先の方針もうなずけるのだ。名前は忘れたがブラジルやドイツなど幾つかの国に特に優れた選手がいて絶妙なドリブルでボールをキープしゴールに繋げるシーンがあったが複数のデフェンスで防げる場面が多々あった。
サッカーではどうしてもゴールのシーンが印象に残るがそれは野球の得点シーンと同様で点を競う競技だから当然だが、実際にはゴールまでにもってくるお膳立てに選手たちの個人としてあるいはチームとしての駆け引きがありその過程がファンを楽しませる。絶妙なパスワーク、ボールの保持にためのドリブル、ボール奪取のための爆走など。ある程度無理とは思っても遮二無二追っかけて相手の疲労を誘うのも一戦術というがその場合はお互いさまなので体力勝負の要因もある。適切な場面での選手交代、攻撃と防御のバランスの采配、これは監督の力量だろう。これらを2回の45分間、緊張の中で織り交ぜながらやり遂げるにはお互いの研ぎ澄まされたチームワークがものをいうわけで監督のチームプレイという言葉の重さを感じるのだ。
「予選突破の功労者は誰か」という設問には多くのファンや解説者は文句なく本田を第一に挙げる。確かに3試合での4ゴールのすべてに関わった事実はそのポジジョンにあったとしても誉めてよい。ただ他の選手の絶妙のアシストがあって彼のゴールに繋がった場合は両人の共同作業と思う。再び企業の新製品開発のケースに移るが最近のシステム商品は10年単位の長期研究を必要とするのが常識だ。そしてその過程には種をまいた人、育てた人そして最後に果実を刈り取る人がいる。先が見えない時代に厳しい批判を浴びながら執念を持って研究し始め諸々のトラブルを克服しながら完成を狙った人の苦労は多い。しかし多くの場合素人というか部外者、社内で言えば研究関係以外の人は刈り取る人を高く評価する傾向がある。サッカーはワンゴール秒単位の超短期の勝負だから研究開発と違った世界の話になるが、それでもゴールの直前に適切なパスを与えるアシストの価値を感じる場合が多々ある。カメルーン戦の本田のゴールの場合の松井、オランダ戦の3点目の岡崎のゴールの本田の場合がそれに当たる。私はこの場合のゴールに対する2人の貢献度は同レベルと思っている。
オランダ戦の2点目のフリーキックで本田のキックを装って遠藤に蹴らせた戦法は各国でやる一種のトリック戦法だ。ある記事には遠藤が「今度は俺がけるわ」とさらりと言ったとある。しかし、TVで「本田が遠藤に栄誉を譲った」と賞賛した解説者がいたし確かに本田自身のそのようなコメントを見た記憶もあるがが、短時間にお互いにどんなやりとりが合ったにせよこの際は一般的な敵を巻く作戦が二人の気持ちの流れの中で上手く組み立てられたのだろう。そして遠藤は助走を極端に短くしてデンマーク選手の防御姿勢をくらましボールは彼らの作った壁の外側を抜けて小さく曲がりゴール右端に突き刺さった。日本チームの飛び上がったガッツポーズは印象的だった。
もう一つ守備の要ゴールキーパの反射神経と勝負勘も勝敗を左右すると思った。今回の川島は初舞台だったというが立派に職責を果たしたと思う。本田に次ぐ貢献者といえるのではなかろうか。他の試合でも各国のゴールキーパーの活躍が映像で輝いていたことを思い出す。
私には中立な立場で試合を楽しむもう一つの要素もある。一つのボールを求めてグランド一杯に展開される両チーム選手の動きは、あたかも一匹の獲物を狙う豹の群れがシステム的に編隊を組みながらアフリカの草原を駆け回る映像にも見えるし、華麗な織物が強風に流されるような芸術的な映像にも思えるのだ。両チームのユニフォームが大体は反対色になっているので緑の大地を含めた3色の錦絵は鮮やかだ。
一つの疑問は結構審判にも主観があるのかイエローカードなどの出し方やファールの判断にもばらつきがあって運不運もあったと思うがこれは審判のあるスポーツ共通のことかもしれない。恐らく各チームとも各審判の癖を読んで上手く戦っているのだろう。
岡田ジャパンは明日夜日本代表として初めてベストエイト入りに挑戦することになったが対戦する南米のパラグアイもなかなかの強豪。世界ランキングも日本より上だし過去の対戦成績も1勝2敗3引き分けで分が悪い。予選の戦法に徹し全力を出し切って欲しい。
今回のサッカーのワールドカップは楽しませてくれた。4年前に比べて高まったサッカー熱が私にも影響したのかもしれない。それにしてもファンというかスポーツ評論家の批評は典型的な「勝てば官軍」式にみえる。本戦を控えて4連敗した時は「岡田監督の解任論がメディアに流れたし各選手への個人批判も相当なものだった。監督自身も協会に進退伺いをしている。しかし色々専門的な講釈混じりでいかに監督や各選手に欠陥があるかという論調に徹した同じメディアと一般のファンもが、チームが目出度くベスト16に進出が決まると掌をかえしたように監督や選手を誉めはやす。人の気持ちとはかくも単純なものかなとやや複雑な感情にうたれる。
尤もスポーツだけでなく政治の世界でも同じで政権交代以降の内閣支持率の乱高下にも類似点を感じる。この激しい変化は情報化時代の情報の影響力の大きさを示す証ともいえるが、冷静に考えると情報をキャッチする市民が情報を深く洞察せずに素直に受け入れすぎるということの裏返しではなかろうか。嘗て研究者であった筆者は自分にもそして部下たちにも常に「文献を素直に信じないで先ずは疑って読め」と指導してきた時代を思い起こしてしまった。
さて本論に戻ろう。試合をTVで生で見た感じはサッカーとは岡田監督が言うようにチームプレーが重要ということだった。勿論小野剛協会技術委員長がいうように「シュートの正確さと1対1の強さは必ず満たさなければならない世界基準」という基本思想はその通りだが個々のチームそれぞれに適したシステム構築があってしかるべきで今回の予選3試合を見た限りでは日本チームは守備優先にして少ない機会を捉えた逆襲でゴールを狙う戦法に徹したとようにみえたがそれが功を奏したと思う。
ある解説はそれは1ヶ月前までの岡田流とは逆の戦い方だしオシム元監督が指導していた方式とも2002年W杯日韓大会時代の日本チームの戦法とも違ったという。大会直前に4連敗した岡田監督が一大決心で転換したということだろうか。そして監督は同時にブランド的な中村俊輔の代わりに新鋭本田圭佑を登用した。監督自身が述懐している。「W杯前の低迷中は中心選手の不調が続き何か起用法とかシステムの変革に踏ん切りをつけないといけないと考えて変えた」と。予選直前にはこの監督の変革は「迷走か」とまで疑問視されたが結果的にはその決断が選手への刺激にもなり輝かしい成果に繋がったように思えてならない。選手たちも唐突に示された戦術に戸惑いながらもそれをよく理解して実戦で体現したものと思う。正に驚異的な消化力だった。起用法をめぐってドメネク監督に暴言を吐いた主力FWアネルカが追放されその影響かチームが崩壊した前回優勝したフランスチームとは対照的だった。そこには監督と選手たちの間の信頼関係の格差があったとしか考えられない。先の北京とバンクーバー五輪で日本チームは水泳、陸上、氷上で団体戦でメダルをとっている。個人技術でメダルに届かない場合でもリレーなど団体戦に実力を出してきている。日本人の国民性が関係することかもしれない。最後に岡田監督の言葉を紹介しておこう。「一人一人の力は小さくても1タス1を3にする。その中にリーダーの私も入ってチームをつくる。」
考えれば野球の場合にも1点を争う試合では守りの要の投手がポイントとなるがサッカーも1点を争うスポーツとすれば守備優先の方針もうなずけるのだ。名前は忘れたがブラジルやドイツなど幾つかの国に特に優れた選手がいて絶妙なドリブルでボールをキープしゴールに繋げるシーンがあったが複数のデフェンスで防げる場面が多々あった。
サッカーではどうしてもゴールのシーンが印象に残るがそれは野球の得点シーンと同様で点を競う競技だから当然だが、実際にはゴールまでにもってくるお膳立てに選手たちの個人としてあるいはチームとしての駆け引きがありその過程がファンを楽しませる。絶妙なパスワーク、ボールの保持にためのドリブル、ボール奪取のための爆走など。ある程度無理とは思っても遮二無二追っかけて相手の疲労を誘うのも一戦術というがその場合はお互いさまなので体力勝負の要因もある。適切な場面での選手交代、攻撃と防御のバランスの采配、これは監督の力量だろう。これらを2回の45分間、緊張の中で織り交ぜながらやり遂げるにはお互いの研ぎ澄まされたチームワークがものをいうわけで監督のチームプレイという言葉の重さを感じるのだ。
「予選突破の功労者は誰か」という設問には多くのファンや解説者は文句なく本田を第一に挙げる。確かに3試合での4ゴールのすべてに関わった事実はそのポジジョンにあったとしても誉めてよい。ただ他の選手の絶妙のアシストがあって彼のゴールに繋がった場合は両人の共同作業と思う。再び企業の新製品開発のケースに移るが最近のシステム商品は10年単位の長期研究を必要とするのが常識だ。そしてその過程には種をまいた人、育てた人そして最後に果実を刈り取る人がいる。先が見えない時代に厳しい批判を浴びながら執念を持って研究し始め諸々のトラブルを克服しながら完成を狙った人の苦労は多い。しかし多くの場合素人というか部外者、社内で言えば研究関係以外の人は刈り取る人を高く評価する傾向がある。サッカーはワンゴール秒単位の超短期の勝負だから研究開発と違った世界の話になるが、それでもゴールの直前に適切なパスを与えるアシストの価値を感じる場合が多々ある。カメルーン戦の本田のゴールの場合の松井、オランダ戦の3点目の岡崎のゴールの本田の場合がそれに当たる。私はこの場合のゴールに対する2人の貢献度は同レベルと思っている。
オランダ戦の2点目のフリーキックで本田のキックを装って遠藤に蹴らせた戦法は各国でやる一種のトリック戦法だ。ある記事には遠藤が「今度は俺がけるわ」とさらりと言ったとある。しかし、TVで「本田が遠藤に栄誉を譲った」と賞賛した解説者がいたし確かに本田自身のそのようなコメントを見た記憶もあるがが、短時間にお互いにどんなやりとりが合ったにせよこの際は一般的な敵を巻く作戦が二人の気持ちの流れの中で上手く組み立てられたのだろう。そして遠藤は助走を極端に短くしてデンマーク選手の防御姿勢をくらましボールは彼らの作った壁の外側を抜けて小さく曲がりゴール右端に突き刺さった。日本チームの飛び上がったガッツポーズは印象的だった。
もう一つ守備の要ゴールキーパの反射神経と勝負勘も勝敗を左右すると思った。今回の川島は初舞台だったというが立派に職責を果たしたと思う。本田に次ぐ貢献者といえるのではなかろうか。他の試合でも各国のゴールキーパーの活躍が映像で輝いていたことを思い出す。
私には中立な立場で試合を楽しむもう一つの要素もある。一つのボールを求めてグランド一杯に展開される両チーム選手の動きは、あたかも一匹の獲物を狙う豹の群れがシステム的に編隊を組みながらアフリカの草原を駆け回る映像にも見えるし、華麗な織物が強風に流されるような芸術的な映像にも思えるのだ。両チームのユニフォームが大体は反対色になっているので緑の大地を含めた3色の錦絵は鮮やかだ。
一つの疑問は結構審判にも主観があるのかイエローカードなどの出し方やファールの判断にもばらつきがあって運不運もあったと思うがこれは審判のあるスポーツ共通のことかもしれない。恐らく各チームとも各審判の癖を読んで上手く戦っているのだろう。
岡田ジャパンは明日夜日本代表として初めてベストエイト入りに挑戦することになったが対戦する南米のパラグアイもなかなかの強豪。世界ランキングも日本より上だし過去の対戦成績も1勝2敗3引き分けで分が悪い。予選の戦法に徹し全力を出し切って欲しい。