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デュラエース9000系、新型ワイヤーの技術論

2012-11-22 21:34:20 | シマノ製品調査
デュラエース9000系で同時に発売されたワイヤー。
「ポリマーコーティングワイヤー使用により、ディレイラーの操作力低減」とかシマノのHPには書いてますが、イマイチ、ピンとこない。

「何をどうやってフリクションを低減したのか?」、そして、「ワイヤーはこれからどうしたいのか?」を調べてみました。とっても奥が深いですよ。


まず、その新開発のワイヤー。その構造を特許面から調べました。

ありました。実用新案第3179718号。
自転車用のワイヤーは、軸線の束の周りに、スパイラル状に巻線を巻いた構造ですが、この請求(クレーム)の内容は、大きく二つ。

「巻線を、低フリクション材(PTFEとか)にする」ことと、「巻線と軸線を(ポリマーコーティングで)くっつける」こと。




従来のワイヤーのフリクションは、「巻線と軸線」「巻線とアウターケーシング(表面の黒い合成樹脂)」の両方で出る。
そこで、巻線をフリクションの小さなPTFEとかにした上で、接着剤で巻線と軸線を一体化して両者のフリクションを低減するメカニズムです。

巻線をPTFEにしたことで、耐潰し強度は落ちますが、…潰されることなんてないもんね。


面白いのは、PTFEとアウターケーシング(合成樹脂)を滑らせること。

従来のワイヤーは、一生懸命グリスを塗ってフリクションを下げていましたが、ワイヤーの摺動速度は遅い、もしくは0の時もあるので、油膜切れ=高摩擦になることもありました。
このワイヤーでは、PTFEが摺動するので、油膜切れの状況でもある程度のフリクション低減が望めます。
思うに、このワイヤーでは、グリス塗布ではなく、オイル塗布の方がいいような気もしますが…。


個人的には、このワイヤーは、大変素晴らしいと思います。ワイヤーだけでも「買い」の一品です。
んでもって、操作系を軽くしたいなら、7900以前のデュラに付けてもいいと思います。



しかしながら、奥ゆかしいのが、この技術、「特許」ではなく、「実用新案」で登録していること。
シマノは知っているのです。この新しいワイヤーですら、「つなぎ」の技術にしかならないことを。


ご存知の通り、特許は有効期間20年、実用新案は6年ですが、審査がありませんので、登録は簡単です。(しかも登録を発売直前にしている)
シマノが、あえてこの実用新案で登録したということは、次の新しい案を準備中と言ってるようなもんです。

この実用新案が切れる前には、つまり9100系デュラあたりで、シマノのワイヤーは、更に進化するでしょう。(多分ね)


ついでに、どんな進化をするのか、勝手に予想してみましょう。

この実用新案では、アウターケーシングとの摩擦係数を下げたと書いておきながら、アウターケーシング側には、何の工夫もありません。
やるなら、アウターケーシング内壁への表面処理。平たく言えばメッキです。先に書いたDLCなんか、合成樹脂にも処理でき、正に摩擦係数を低減させる処理となります。
となると、この表面処理との相性の良い巻線材を選ぶ必要があります。それは、PTFEかもしれないし、PFAとか、金属系かもしれません。
ここはトライボマテリアルの領域なので、私には少々予想困難ですね。


ともかく、9000系デュラは、次の進化の為の試金石です。流行のエヴァで言えば、0号機みたいなもんです。初号機、弐号機が、シマノのデュラエースの真骨頂となるのでしょう。13号機までは待たなくてもいいですけどね。(←実は、今日エヴァの映画を見た…)


この9000系デュラ、買いかどうかで言えば、…迷うところですね。
シマノ進化歴史の体験者となりたい気もするし、間違いの少ない、次の完成進化版を待つのも手だし。

今は、この大きな出費をできる人が、きっと将来「あの頃のデュラは…」と、酒を飲みながら語ることができるのでしょうね。(←若い衆に向かってね)


さぁ、貴方は9000系デュラ、買いますかな? 買う勇気がありますかな?


今日はここまで