とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

劇評『シャンハイムーン』(2018年3月7日世田谷パブリックシアター)

2018-03-09 11:21:47 | 劇評
【作】井上ひさし
【演出】栗山民也
【出演】野村萬斎 広末涼子 鷲尾真知子 土屋佑壱 山崎一 辻萬長

 いまだに日本は近隣の国々との関係がうまくいっていない。その原因はどこにあるのかは一言では言えないが、少なくとも「国」という概念ではうまくいかなくとも、ひとりひとりの人間同士のつながりならばうまくいくはずである。そのことをわれわれは肌で感じている。この演劇は国同士の関係の難しさと、それを超えて人間同士の関係の美しさを描いてる。

 この演劇は魯迅の晩年を描いている。舞台は昭和9年8月から9月にかけての上海。場所は魯迅の友人であった内山夫妻が営む書店である。魯迅は国民党政府より逮捕令が出され、内山夫妻の書店に隠れる。魯迅は病気がかなり進んでおり、治療のために鎌倉に行くことを勧められる。しかし魯迅は最終的にはそれを断る。上海にいることが自分には必要だと考えたのである。それが魯迅の正義だった。魯迅は妻と4人の日本人に看取られ息を引き取る。

 戦争前夜の混乱した状況の中、「空気」が人々の心を支配する。その「空気」がよどんだものであっても、「空気」は我々を支配する。「よどんだ空気」は真実を見えなくしてしまい、人々を混乱に導いていく。「空気」によって魯迅も様々なものを見失い、それがのちの自分を苦しめる。苦しむ自分から逃げてはいけない。自分とかかわるすべての人を大切にしながら、自分の生き方を選ばなければならない。

「一番嫌いなものは嘘つきと煤煙、一番好きなものは正直者と月夜」

 劇中に出てくる魯迅の言葉である。「よどんだ空気」の中で真実を見つけるのはむずかしい。正直に生きるのはこんなに苦しいのか。魯迅の姿に正直に生きることの厳しさと美しさを感じる。澄んだ空気の中で月を見つめるような美しい舞台であった。
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