イラストレーター笹尾俊一氏による「ＪＡＺＺ ＳＴＯＲＹ」は、ジャズ創成期において多大な影響を与えたルイ・アームストロングとジャズ・ヴォーカリストとしてその名を輝かせるビリー・ホリデー、カウント・ベイシー楽団のスター、テナー・サックスのレスター・ヤング、ジャズの礎を築いたこのジャズ史に残る３人の物語をセンスのいい、大人の童話のようなあるいは夢のような感覚で描いた本（絵本）です。独特なタッチの笹尾氏のイラストは、まるでそこから音楽が聴こえてくるようであり、この時代のジャズがどろどろとした差別と偏見に彩られた人の生き様が裏側にありながらも、ローリングトゥエンティーという言葉に象徴されるように、時間の経過を経て、ジャズ誕生の熱気が一方でいかにロマンチシズムに溢れていたかを物語っているようです。
いずれにせよルイ・アームストロングやビリー・ホリデーが絶品の歌を奏でるその根底には黒人差別による理不尽でやるせなく悲しいものが流れているのがわかります。笹尾氏のハートウォーミングな絵がそれをソフトに包み込んでいるものの彼等の事実はやはり胸に突き強烈です。たとえば貧しくて小学校も行けなかったルイ・アームストロングは１３歳の時、すさんだ気分で彼に街角でピストルを乱射するということをさせてしまっています（怪我人は出ていない）。それにより少年院に入るはめになったのですが、それが逆に楽器との出会いのきっかけとなり音楽の世界へ羽ばたくことが出来たのですが。あるいは、１５歳の父、１３歳の母という幼過ぎる両親の年齢に生まれたビリー・ホリデーは１０歳の時、強姦されたのに黒いというだけで不良のレッテルをはられ施設に入れられ、１５歳には白人相手の売春、通報により刑務所送りと凄まじい経験をしています。ちなみに、彼女の代表曲「奇妙な果実」は、南部のそよ風に揺れる黒い死体のことであり、白人による黒人に対するリンチについて歌った作品であるのです。
ただ、そんな暗いことばかり書いてもなんですから笹尾氏の《ジャズといったらルイ・アームストロング。彼のコルネットと歌で決まりです。ジャズが生まれた頃に持ち合わせていた情緒性やエキゾチズムがルイの音にはあります。ルイのたくみなる間と即興は聴く側の想像力を刺激してくれます。明るくホットなジャズ。ルイのジャズはちょっと古風でも永遠のジャズの基本です。ルイのスタイルを初めて越えられたのは、ビリー・ホリデーにレスター・ヤングだと思っています。この２人、ルイのように歌い演奏しようとすれど、のっぴきならない個性がそうさせてくれません。２人が表現したのはクールでしっとりしたジャズでした。》という冒頭の言葉を引用しておきます。何故、「ＪＡＺＺ ＳＴＯＲＹ」というタイトルでこの３人を選んだかがわかるからです。※《》部分、「ＪＡＺＺ ＳＴＯＲＹ」笹尾俊一（ＢＮＮ刊）より引用
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