石川啄木「一握の砂・悲しき玩具」。
専門家からは、あくまで「入門者向きの歌集」と位置づけられ、あまり評価しない人もいる。が、たまに読み返したくなる一冊ではある。暗記している歌も多いが、ここでは個人的に好きな作品だけ簡単に紹介しておく。
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東海の小島の磯の白砂に
われ泣きぬれて
蟹とたはむる
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草にねて
おもふことなし
わが額(ぬか)に糞して鳥は空に飛べり
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腕くみて
このごろ思ふ
大いなる敵目の前に踊り出でよと
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死ね死ねと己を怒り
もだしたる
心の底の暗きむなしさ
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はたらけど
はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり
ぢつと手を見る
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死にたくてならぬ時あり
はばかりに人目を避けて
怖き顔する
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あたらしき心もとめて
名も知らぬ
街など今日もさまよひて来ぬ
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人といふ人のこころに
一人ずつ囚人がいて
うめくかなしさ
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クリストを人なりといへば、
妹の眼がかなしくも
われをあはれむ
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叱られて
わっと泣き出す子供心
その心にもなりてみたきかな
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不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて
空に吸われし
十五の心
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ふるさとの山に向ひて
言うことなし
ふるさとの山はありがたきかな
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白き蓮沼に咲くごとく
かなしみが
酔いのあいだにはっきりと浮く
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どうなりと勝手になれというごとき
わがこのごろを
一人恐れる
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話しかけて返事のなきに
よく見れば、
泣いていたりき、隣の患者
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かかる目に
すでに幾度(いくたび)会えることぞ!
成るがままに成れと今は思うなり
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