ただの食いしん坊だったあいつ、小学生の頃の思い出。

犯罪者にだって、可愛かったころはある。
天才にだって、解けなかった問題はある。
北極だって、緑が生い茂っていた時期がある。

ぼくにだって、髪の毛がサラサラなころがあった………。
（ほんとだよ！）




お正月に、全国ラグビー大学選手権が行われた。
決勝は、早稲田ｖｓ関東学院大学。
早稲田の圧勝、そして連覇であった。

この「最強軍団」と言わしめた早稲田ラグビー軍団のスタメンに、ぼくの友達が名を連ねていたのである。
本名は言わないでおくが、ポジションはフォワードであった。

ラグビーのフォワードとは、スクラムの前線で、ゴリゴリ力押ししていくポジションである。
実は彼（以下ゴリラ）、高校まではバスケットをやっていた。
中学校の途中まではラグビーもやっていたのだが、いかんせんぼくらの中学は先生が鬼で、練習はすごく厳しく、両立なんかは出来る環境でなかったため、ゴリラはラグビーをやめた。

中学バスケット時代は、その恵まれた体でセンターとして活躍し、全国ベスト８という快挙を成し遂げた。
ぼくは、ベンチを暖める係で、ぼくのベンチはそれはもうよく暖まっていた。
全国大会での面白い話があるのだが、それはまたいつか。



ゴリラは、スポーツ推薦で早稲田実業に入った。
しかし、高校バスケではイマイチ芽が出なかったようで、最後の方はラグビー部に入っていたようだ。
頭はあまりよろしくなかったので、高校では卒業や進学のピンチがあったが、職員室で土下座しながら、
「部活一生懸命やるから、上げてください！」と言ったとか言わないとか。
俺なんか浪人までしたのに。

晴れて早稲田大学に入学し、ラグビー部に入った。
しかし、周りは高校時代からガンガンラグビーをやってきた猛者どもばかり。
やはり、なかなかレギュラーにはなれなかった。
だが、最終学年の今年度、彼は見事レギュラーを勝ち取り、それは、イコール大学最強フォワード陣の一人ということだった。




たぁだ、どんな一流スポーツ選手にも、小便垂らしていた頃はあるのだ！




ぼくは、小学校時代、ゴリラと同じクラスだった。
誕生日も近かったりした。
ゴリラが小便を漏らしたのを見たことはないが、笑い話ならたくさん持っているのだ。



その中の一つを。

ゴリラはその体の通り、大食漢であった。
そして、頻繁に使われるフレーズでいうなら、「気は優しくて、力持ち」だろう。

余談になるが、中学時代、彼は朝練の前に必ず体育館のトイレでウンコをしていた。
しかも長くて臭い。
「お前は家でしてこい！」といくらいっても、
「学校じゃないと出ない！」という、学校のトイレのパブロフの犬であった。

小学校の給食というのは、不公平なもので、体の小さな女の子と大きな男子で給食の量が同じなのだ。
運動している男どもには足りるわけがないし、あの頃は「多く食うのが男の美学！」という風潮があったため、みんなダッシュで給食を食べて、おかわりに走っていた。

余談になるが、ぼくらの小学校中学校は給食の牛乳がビン製であり、たいそう美味しかった。
そのため、牛乳嫌いな奴や欠席者の牛乳も取り合いになるくらいだった。
中学校のころ、ゴリラは昼休みになると必ず給食室に行き、学校中のあまった牛乳を飲んでいた。
ミルメークが出た日は、あまりの牛乳が残ってなくて寂しそうだったのを覚えている。




そんなある日のことである。
小学校５年か６年か、詳しいことは忘れてしまったが。


ぼくらのクラスは３，４時間目に家庭科の授業があった。
その時の内容は調理実習。
しかも、結構がっつり系（デザートとかではなく、主食系）であった。

４時間目にがっつりご飯を食べた後に、すぐ給食である。
少食である女の子たち（もちろん、ほんとはそうでない女の子もいたはずだが、見栄もあったのだろう）は、いずれも給食をまるまる残そうとする。
普段はガンガン食う男どもも、２食食ったら、たいがい充分である。

しかし、ゴリラは違った。
こんなに給食があまろうかというシチュエーションは滅多にないのだ、彼の気持ちは盛り上がる！
固定食（ハンバーグとか、一人ひとつのもの。普段は休みの人が出ないとあまらない。）をこんなに
食える給食なんてもうないかもしれない！

彼の前に集まる盆、盆。（一応全員に配膳された）
もう彼だけの机の上には収まりきれない給食。
周りの机を合体させて、盆を広げ始めた。
あんな光景、これ以降見たことない。


まだ食べ始める前の彼の顔に浮かんだのは、歓喜そのものであった。



しかし、いかに彼といえど、おいそれとそれらを完食することはできなかった。
徐々に食べるペースが遅くなってきたのだ。

そしてぼくらのクラスには絶対的な一つのルールがあった。



「給食を残したものは一ヶ月おかわり禁止！」



このルール、給食を食べに学校に来てるような男子には、とてつもなく重いペナルティである。
特に、彼、ゴリラにとっては生死に関わる罰である。
まだ鞭打ち１００回の方が耐えられるであろう。

小学生とは恐ろしいもので、こういったとき、集団で声を荒げるのである。

「お前、それぜってぇ食えよ！残したら一ヶ月おかわり禁止だからな！」
「うるせーな！わかってるよ！食うよ！」

強がれるのも最初のうちだけであった。
いまだ眼下には、数人前の給食。
パンパンの腹。
噛めないおかず。


そのうち、溢れそうな涙。
この涙は、悔し涙なんて、そんな軽いもんじゃない。
明日から給食がおかわり出来ないかもしれないという、絶望の涙。
ベジータがフリーザとの圧倒的な力の差の前に流したあの涙と同等の価値の涙なのだ！


ぼくらの糾弾はとまらない。

「残したら、明日から禁止だかんな、おかわり！もういらないって人がいても食っちゃダメなんだかんな！」





しかし、彼とベジータとでは、ここからが違った。
彼は、ゆっくりながらもその手を動かし続ける。
一時は限界かとも思われた大量の給食が、徐々にではあるが減っていくのだ。

ぼくらも、だんだん、応援したい気持ちになってくる。
まさか、本当に食べられるとは思ってもいなかったからだ。
「頑張れ！ゴリラ頑張れ！」
それはまさしく、今年の箱根駅伝の難波選手に沿道からかけられるものと同種の声援だった。

端からみたら、とても滑稽である。
涙を流しながら、何人前もの給食を食べるゴリラを、励ますぼくら。
お腹一杯なのに、何故食べるのか。
きっと、ませた女子たちは、コソコソ話をしながら馬鹿にしていただろう。



そして遂に！彼は完食したのである。
プロジェクトＸや、深夜のドキュメンタリーで放送されたら、号泣ものであったろう。
ぼくらも賞賛の声を上げた。

しかし、それだけ食ったゴリラは、当然、お腹が痛くなったようだ。
彼は昼休みに、こっそり便所に行ったのである。


小学生とは恐ろしいもので、こういったとき、集団で声を荒げるのである。
誰かが見つけ、クラスに報告しにくる。

「ゴリラがウンコしにいったぞ！」

そうして、隣の個室からうまいこと登って、ゴリラがうんこするのを覗くのである。

「きったねー！くせー！ゴリラがうんこしてる！」
「見んなよー！やめろよー、お前ら！」

このとき流した涙も、絶望の涙であったという。




大学選手権優勝おめでとう！
つぎは日本一を目指して頑張れ！