ギャロットに乗って、とりあえず情報粒子から、近くのショットを見つけて入っていった。
そこは、「家」にある食堂とも違ってもう少しゆっくりできるようになっている。
食堂だと配色が「早く出て行け」という寒色系なのだけど、ショットは暖色系になっていて、ここでくつろぎながらちょっとした話をする場所になっている。
ここは街の中で唯一「音楽」が流れている。
他の移設では、情報粒子、音粒子などの粒子を介してのやり取りが普通なのだけど、ショットでは耳かかから聞こえる音楽を楽しむ事ができる。
ショットの中には静かな音楽が流れていて。
広さは食堂の1/10くらい。
椅子も広く置いてあるので、ゆっくりとみんな過ごしている。
僕らは窓際の席についた。
力粒子の力場が椅子に作られているので。それが自分の体型にそって体を支えてくれるから長い時間居ても疲れない。
家の食堂の椅子とは雲泥の差だ。
ショットでは飲み物、食べ物を選べる。
最初、椅子に座って二人で情報粒子を読む。そして、互いに何を決めるか、バンダナを介してやり取りして、
そして、情報粒子を使ってほしい食べ物を注文する。
僕は軽くフルーツとナッツにしていたけど。
ヤーフルはがっちりとタンパク質のものを選んでいた。
そんなにエネルギー使ってんのかね。
この間、互いに一言も口を開かない。
そして、力粒子を使っている運搬箱がやってくるので、そこから注文したものを取り出し、元に戻す。
僕らは情報粒子で情報をやり取りする時はしゃべらないので、ショットでも会話をしている人のほうが少ない。
会話を文字にすると、
「あの、・・・・・・・・・はどう?」
「・・・・・は・・・・・だから・・・・・・に変えてみない?」
「そうか、あれは・・・・・だから。」
と言う風に、名詞とか動詞、形容詞もすべてイメージで情報粒子間でやり取りするので、相手の気を引くこと、自分の考え、そういう感じの事しか口に出していない場合が多い。
この時、その人達が何を話しているのか情報粒子を入れて探る事もできるけど、それは盗み聞きしているのと同じなので、マナー違反だ。
そもそも、自分の会話中に他の人の会話の情報粒子を読むなど高度なことはできないし。
さて、食事が目の前に来たので、さっそく食べる事にした。
窓の外には白く輝く街が広がっていて。
ちょっと上の方にあるこのショットからは眺めがいい。
中央にある塔と、それを取り囲む3つの運河。
そして、その向こうに見える海。
鉱物質の街並み。
街の外に広がる緑も見る事ができる。
僕らの暮らしている世界は、ほとんどこの街ばかりで。外にある海とか緑のところとかにはまだ行けていない。
もっと、経験をつんでからでないとそこには行けないと言われているのだ。
僕らだって、ある程度粒子を使えるようになったんだし。
そろそろ街の外も見てみたいと思う。
「ねえ、聞いている?」
とぼんやり考えていると、ヤーフルが僕に話かけているのに気付いた。
「ほら、いつも情報粒子ばかり使っているから。君の耳は退化したんじゃないか?」
「いきなり話しかけられても分かんないよ。」
「人間は声を持っているんだから、しゃべらないと。」
僕らは、情報粒子を使うので、相手に話かける時は先に情報粒子で相手に「話しかけますよ」的な合図を送ってから、こっちに気を向けさせてから会話を始める場合が多い。
ヤーフルはそういうの関係ない。いつもいきなり話しかけてくる。
なんで、情報粒子をつかわないんだ?といつも聞くけど。答えはいつも同じ。
「言葉には力があるんだから。話さないとだめだよ。」
と言う事。
情報粒子を見ても、言葉に力があるというのは読めないんだけどなぁ。
僕はしょうがなく、言葉でヤーフルに対応した。
「で、何?」
「君は博物館で、何を見てきたの?」
「昨日の夜に見た、羽のある映像を調べに。って、図書館だろう僕
が居たのは」
「どっちでも同じ、退屈なところは。でも、それ調べるのに図書館に
行っても何もなかっただろう?」
「何で?」
「あの情報は宇宙の書庫につながんないと無理だもの。制限のか
かって見えない情報を読みに行くよりも、どっか山奥にでも行って宇宙の書庫とつながる瞑想でもしていたほうが良いよ。」
「なんで、ヤーフルはそう思うの?」
「情報粒子を使うと、いつも年齢制限が出てくる。いっつも調べたい事に関しては特にそう。
だから、私は宇宙の書庫につながる方が調べたい事わかるかな、と思っているの。」
「でも、その情報は本当なのかな?」
「情報粒子で見える情報は、じゃあ本当なの?」
「そう言われているよね。」
「君が見た、その羽のある人の話だって、その顔じゃ特に何も見えなかったんでしょう?」
「そうだね、創世記のおさらいしてきたような感じかな。」
「その創世記の話も本当なのかな?」
「それ言い出すと全部そうなるだろう。」
「私はハートを信じているから。だから図書館とかには行かないの。」
「じゃあ、そういう疑り深いヤーフルはどこに行っていたのかな?」
「ハートと心の真実を感じるには、やはり美術が一番。」
「真実が美術で得られるの?」
「心にすべてがあるの。」
と言うので、情報粒子で読もうとしたら、ヤーフルがバッと僕のバンダナを取り上げた。
「あ、何する!」
「一度、その情報粒子を介さないで美術館に行ってみたら?」
「でも、今日はこれから施設見学だろう。」
「そんなの、サボればいいよ。」
「それ、やっちゃいけないだろう。」
「君は何が知りたい?知りたい事があるなら、今動かないと。」
そして、僕はさっき図書館で言われたことを思い出した。
そうか、シェウも芸術から入ってみたら、って言っていたなあ。
顔をあ上げると、そこにはいたずらっぽく笑うヤーフルの顔が。
そうだな、たまには直感で動いてみるのもいいか。
午後はサボって美術館へと行く事にした。
ヤーフルと結局何かする事になるんだな。
美術館、今日は後半の見学をサボることになってしまった。
一応、同室のカシェットには「頭痛で今回出ない」という話にしておいた。
そしたら、笑いながら「頭痛の種と一緒に居る訳か。」と言われてしまった。
確かに、そうかもしれない。
そんな事をヤーフルの背中を見ながら思っていると、くるっと振りかえられた。あ、伝わったかな?
と思ったけど今はバンダナを外している。
ちょっと額をさわってホッとしていると、
「美術館では感じるままに自分の心を遊ばせるのよ。分かる?」
と言ってきた。
美術館でも入口で係りの大人にバンダナを見せないといけないのだけど。
「今日サボってこっち来ているけど、いいのかな?」
僕がヤーフルに聞くと
「誰もなにも言わないはず。だって、私たちは勉強に来ているんだから。」
そう言って笑って、平気な顔して茶色のバンダナを巻いた女の人のところに歩いていっていた。
ヤーフルの言うとおり、特になにも言われることなく館内にはいることはできた。
図書館と違って中は自由に移動して作品を楽しむことができる。
そこには図書館で見たようなブースと、その横には1つずつの作品が置いてあり。
その作品の世界を感じるために、カプセルを使ったりする。
意識の世界で深い領域を探索するような美術作品とかあるので。
見たり触ったりするだけでは到底理解できない。
実際にその作品世界を体験する必要のあるものも最近の美術には多いのだ。
最初はそんな、新しい美術のほうから進んんでいくが、
ヤーフル曰く、ここの芸術は心が動かないので面白くないのだそうだ。
いろいろと見方があるのだろう。
そして。奥へ行けば行くほど、古代の芸術作品になってくる。
その説明は情報粒子があるのでバンダナがあれば受け取れるけど。館内に入ってからヤーフルにまた取り上げられて使えなくなっている。
意識でのやりとりが使えないので、どうもさみしい感じがする。
額がさみしいなあ、なんて思いながら、ヤーフルに案内されるまま奥へと進んでいく。
すると、広いホールのようになった中央に、何かの塔のようなものがある部屋に来た。
僕は今まで、こういう部屋がある事を知らなかったのだ。
いつも入口付近のカプセルに入って、芸術を疑似体験することしかしていなかった。
そもそも、情報粒子からこの部屋の事伝わって来ていたっけな?
そこで、ヤーフルが振り向く。
「この部屋が、創世記を表している作品だよ。」
と言う事で。一体何がそうなのか良く分からないけど。
僕が怪訝な顔をしていると、ヤーフルはひょっと、僕を引き寄せて。
「ほら、ちゃんと見てよ。君の記憶にあるものがそこに無い?」
と塔のようなものの壁面を見せる
近づいてみると、そこにはたくさんの彫刻が彫ってあり、
それはさまざまな生き物の姿をしていた。
翼のある人間。馬のような人間。魚のような人間。
すべてのモチーフは、半獣半人のような、そんな姿ばかり。
「これって、創世記の生き物っぽいね。」
と僕が言うと、
「そうよ、この塔にはそんな創世記に現れた存在のすべてが彫りこまれているの。」
「なんで君にはわかるの?」
「この作品からあふれるエネルギーが君には分からないかな?」
エネルギー?粒子とは違うのか?
僕が考えると、ヤーフルが、
「君は粒子ばかりに気を取られ過ぎだよ。もっと、世界にあるエネルギーを感じてみないと。」
「って君は言うけど、どうやって?」
「花を見て、君はどう思う?」
「綺麗だなあって。」
「その感情は粒子が作っているの?」
「感情粒子なんて聞いたことはないね。」
「その、粒子ではないけれど、確かにそこにあるものは、意識のエネルギーがあるという事だよね。」
そう言われても、難しい話だな。
意識はエネルギーなのか?
「ほら、力粒子でもバンダナで意識の指向性を持たせて、そこで発するエネルギーを使って、それを増加させて粒子を操っているでしょう? 意識にはエネルギーがあるの。」
「それで?意識のエネルギーと美術に関係あるの?」
「表現したい、という意識がエネルギーとしてこめられれ居るんじゃない。それを感じて、こちらで受け取れればその芸術に存在している「宇宙の書庫」とのつながりを感じる事もできるし。」
ちょっと驚いた。
正直、ヤーフルに対してはただの直感少女だと思っていたので。
こういう風に何かに確信を持って話すところは初めて見た。
「何、その目は?」
「いや、ヤーフルカッコイイ、と思って。」
「バカにしてる?」
「いやいや、ヤーフルがこうも論理的に話そうとするのを聞くのが初めてだから。」
「だから、言葉には力があるって言ったでしょう?いつも情報粒子だけでやり取りしているから私がちゃんと喋ると驚くんだよ。」
そいえば、情報粒子を使わないでちゃんとコミュニケーションしたのはだいぶ前の事だなあ、なんて思ったりして。
人間の意識を表現するには、言葉が良い、というのはどういう感じなのかまだよく分からないけど。
なんとなく、そんな事もあるかな、と思えてしまうのが不思議な感じだ。
そして、僕らはその塔のような作品に近づき、表面をじっと見て行く。
そこにある、羽のある存在を探すためだ。
横にあるカプセルに入ってバンダナ使って探せばすぐだろうに。
と思ったけど、一緒に探していく。
真剣な表情のヤーフル。
そして、僕もいつしか真剣に探し始めていた。
すると、一瞬意識が別の空間を見ているかのような感覚になった。
あれ、この感覚は、屋上で感じたものか?
作品の表面を見ていて、ふと上に視点を動かすと。
そこに一体の男性の彫刻があった。
あ、これは僕の過去と会ったコーディネーターだ。
と直感的に感じた。
そして、その下を見ると、透明な翅を持つ、人間のような存在の彫刻があった。
あ、これだ!
そう思ってその部分に手を触れると、僕の意識がまたふっとどこかに移行した。
そして、僕の目の前には透明なカプセルが存在していた。
屋上でみた風景が、また見えてきたのだった。
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