くまのお気楽日記

好きな漫画や映画の話を主にその日あった事や感じた事等をお気楽に書いていきたいと思います。宜しくお願いします。

「Sink」

2008-09-04 19:20:16 | マンガ好き
みなさん、こんにちは。

夏ももう終わり、ちょっと季節はずれかも知れませんが、今日はちょっとホラーな漫画のご紹介を。
本日のタイトル、
「Sink」 いがらしみきお 全2巻 です。

いがらしみきおさん、と言えば、「ぼのぼの」と「ネ暗トピア」などの4コマギャグ漫画しか読んだことがなかったんですが、
あの「ぼのぼの」の可愛い絵柄とはうってかわってホラー使用なのか、まず絵柄が何ともいえず超不気味です。

物語は、
「両親と高校生の息子のごく普通の家族の前に、まず父親が町で以上に首の長い女や手の長い男を見かけるようになり、
自宅付近のバス停では大量のたばこの吸い殻が落ちていたり崩れた造成地からは大量の小石があふれていたり…と、
ごく普通の日常の中に少しだけ<異常な>光景が現れるようになる…」
ところから始まります。

この見慣れた日常に少しだけ異常な非日常が混ざってくる感じが、とても不気味で怖いんですが、
以下<ネタばれ>込みで感想を続けさせていただくと、






実はその「首の長い女」や「手の長い男」というのは、<げんざ>と呼ばれる、
「この世界は必ず人間を不幸にする この世界を潰せ」
という人間の社会そのものに異を唱え続ける大昔から存在する血族であり、
かつては山の中で暮らしていたが血を広めるために徐々に社会の中に混じってきたもので、その血を受け継ぐものは
「自らが不幸に会うとき覚醒する」
という設定で、
物語の核となる家族の息子<駿>は、ストーカーにあうガールフレンドを助けようとして逆に相手から恨みをかい、
ナイフで刺されて怪我をしたことをきっかけに、徐々に<げんざ>へと変貌していきます。

この家族の父親の友人の<林>という男が唱える学説に<バランス論>というものがあるのですが、曰く、
「余計なもの(欲望?)が増えると<バランス>は崩れ出し、異様なものほど<バランス>を崩す。
<バランス>が崩れる時に人は不幸に巻き込まれる」
というもので、
その<バランス>の崩れた<不幸>の象徴としての<げんざ>の異様な姿として、
息子の<駿>は、どんどん醜く巨大化していくのです。

<げんざ>の不気味な怖さは、姿形だけのことではなくて、寧ろその、
「何を考えているのか分からないような、全く話が通じないような、
別の論理で動く、<自分たちとは似て非なる者>への恐怖」
の方が大きいかも知れません。

物語の後半で、沢山の人を殺し、異様に変わり果てた息子に対して父親が、
「この化け物め! きさまは狂ってるぞ!」
と発する言葉に対し、息子の<駿>が、
「化け物はお前らだ 狂ってるのもお前らだよ
自分たちでさえ信じていないウソでいつもでもだまし合って
それで? おまえら幸せになれたかよ」
というセリフや、

子供の頃、死んだ虫や壊れたおもちゃなどを台所の流し台(シンク)から流していた息子が、
母親に「あなたを殺して私も死ぬ」と包丁で刺された翌日に、
自分で自分の足を切断して流し台に詰め込みながら母親に言う、
「この世に生まれてきたけど この世界で生きて行けない人間はどうすればいいんだろう
こんな世界で生きられない人間はどうすればいいの? そこから出て行くしかないじゃないか」
というセリフ…

これらのセリフを読むと、
大きな話では人間の社会の問題点…
変えようと努力しようにも、限られた個人の人生の中でその大きな問題とどう折り合いを付けていくかという点…
小さな話では身近で問題が起こった時に、それにどう対処していくのかということ…
普段こういったことに目をつぶって、鈍感になってしまっている自分にも、
色んなことを考えさせられます。

しかし物語の中の<げんざ>という存在の主張する、
「人間を不幸にする<社会>を潰す」
という<人間社会>そのものを破壊することの果てに何があるのか?というところも疑問ですし、
ましてやその過程で何人もの人々が殺されていく、というところからも、
<げんざ>が人間ではないもの、人間ではなくなったもの、の象徴として描かれているとしても、
人間であるくまからすれば、全く共感できないお話なんですが…






ここまで感想を書いてきて、結局このマンガ、お薦めなのかどうか…疑問に思えてきましたが…(すみません…
手放しで「面白かった~!」と言えるような作品ではありませんが、
少なくともあとがきで作者が、
連載中に次々と病に見舞われ、「<Sink>やめないとオレ死ぬかも、などとビビった…」と書くほど、
強烈な不気味さを感じさせる作品ではあります…

ちなみにタイトルの「Sink」、
流し台という意味の他に、
「沈む」「倒れる」「陥る」「悪化する」「理解される」「破滅させる」「隠す」…などの意味があるようで、
「sinking feeling」で、「嫌な感じ」「悪い予感」といった言葉になるそうです。


それでは。




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8 コメント

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へ~~~ (満天)
2008-09-08 12:07:59
「ぼのぼの」の装丁とか以前に居た会社で
チロっと手伝ったことがあるんだが…
もともと「ぼのぼの」は可愛い絵柄とはいえ
シュールな部分も多々あった漫画で
「ぼのぼの」以前の彼の作品も
キツイブラック的な作品が多かった人ですだ

私自身は
あんましスプラッタは好きではないのだけど…

「ぼのぼの」の可愛いイメージが先行し
彼本来の描きたい漫画から遠ざかっていたのかの~
とも思います(笑)

くまちゃんのレビューを読むと…
読みたい漫画には入りそうもないのだけれど
少々、興味があるような~微妙~ってな雰囲気が
よく解りますだ(ハハハハハ)


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満天さんへ (くま)
2008-09-09 02:12:49
コメント、ありがとうございます!!

>「ぼのぼの」の装丁とか~
えぇぇぇぇ~~~~!!!!
凄いッス…!!
「ぼのぼの」はアッシ大好きな漫画なんですが、そのマンガの制作の一端に携わっておられたんですね~…満天さん…凄いな~…

「ぼのぼの」もホント、満天さんが仰る通り、可愛い動物たちのほのぼのとしたお話…ってだけじゃなくて、シュールだったり…何かを示唆してるようなマンガだな~ってアッシも思うんですが…
「ぼのぼの」以前の作品は、「ネ暗トピア」くらいしか読んだことがなくって、
この4コマも読んでて結構ブラックなマンガだな~っては思いましたが、
他の作品もそんな感じなんですね~…

お陰様で他の作品にも興味が湧いてきました

>少々、興味があるような~微妙~ってな雰囲気が
よく解りますだ(ハハハハハ)
エヘヘ…そうなんっす…
何か読んで強烈に気味が悪かったんで思わずご紹介記事を書いたんですが、書きながら途中で
「だけどこのマンガは好き嫌い分かれそうだな~」
ってことに気付きまして…

ビビリなくせにホラーな話にも興味があって…でもあんまりリアルに怖いのは勘弁…みたいな(笑)
アッシの微妙な内心まで、満天さんには「ばれて~ら」っすね…

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誘蛾灯 (つる)
2008-09-24 11:03:57
こちらの記事にスゴク関心があったのに「佐藤さん」という灯火に昨夜はふらふらと飛んでいってしまったつるでした、おはようございます、早くないけど。

この作品は最近の作品なのかな?
昔「ぼのぼの」がはじまった頃友達に『いがらしみきおってネ暗トピアとか変なの描いててしばらく消えてたと思ったら精神病院に入院してたんだって、退院したらしたでまたこ~ゆ~の描いて』と聞いてたんですが。
私はほぼ「ぼのぼの」しか読んだことないんですがそういう話を聞いてたせいか「ほのぼのしてるけどギリギリの人しか考えないよなこと描いてるよな~」って印象です、ぼのぼのも。

tooruさんのところで話題にした「なぜ、その子供は腕のない絵を描いたのか」という本はくまさんも言ってたように「オソロシ~」話で、やはり言ってたように >本を読む人が少なくなってきた >コミュニケーションを取る事が苦手な人が増えてきた というようなことも随分以前から言われていることですよね、私は人類の変化の時期なのかなーとかSFチックなことを考えてるんですが…

かつてネアンデルタール人が滅んで劣っていた方(脳容量とか体格で)のクロマニョン人が台頭して現在に繋がってきたように、さらに「脳」とか「精神」とかゆう意味で格下の人類に取って代わられるところじゃないか?と。
ネアンデルタール人とクロマニョン人云々については水樹さんの『樹魔・伝説』からの引用なんですけども、「格下と思われる方向へのシフト」については佐藤さんの『星の丘より』のイメージ。。あちらは能力的には格下と言えても精神的な強さに関しては「別方向」というだけで格まで下だったわけじゃなくて、お話として読んでるぶんには『その選択は正しかった』と思わせる安心感みたいなのがあったんだけれども、現実に今現在起きている「変化」では必ずしも「良い方向への進化」とは思えないところがヤな感じ。よく覚えてないんだけども楳図さんの「漂流教室」のラスト頃に出てくる『奇怪な方向へ進化した人類』みたい。

だいぶ若い頃から「人間のカタチをした人間でないモノ」の存在を感じる事があって、それが少数派だと感じていられたこれまでは前述した水樹さんの『伝説』に出てきたツァラ・ラダみたいに「敵」(こちら側が正義・「人間」というもの)と思えたのに今後そう感じる人たちの人口が増えて半数を超したらと思うとオソロシイ。善悪二元論ってどうか、というスタンスでいられたことがもう無邪気でいられた頃の現実離れした夢想だったと思うようになる時代が来るのかも。

ギリギリのところにいるような敏感な人にはそれが感じられるんじゃないかと思う、この『Sink』はそういう作品なんじゃないかと興味深いです。。。
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つるさんへ (くま)
2008-09-25 03:36:38
コメント、ありがとうございます!!

>この作品は最近の作品なのかな?

1巻の初版が2002年とかなんで、そんなには前の作品じゃないようです…
2巻の巻末に作者のあとがきが載ってるんですが、それによると「ぼのぼの」の前(20年程前)に未完になってしまったホラー劇画を書いておられたとか。
そういう理由で「4年程前」(2巻の初版が2005年なので2001年頃でしょうか)仕事の依頼があった時に、
「やるんだったら劇画でホラーだろ」
という話になったそうです。
しかし「Sink]の準備をしているときに、脳梗塞になり、一時は麻痺や言語障害が出たそうで、幸いそう重くはなく10日ほどで退院したそうですが、その後も翌年に甲状腺ガンを患ったり…で、↑の記事にも書いてありますが、
「Sinkやめないとオレ死ぬかも…」
と思われたと…
しかし描いてる作者もそんな風に不気味に感じるような作品、ってことが頷けるような…そんなマンガでした…
ラストも警鐘的?というか…希望の感じ取れない終わり方だったもんで…
読んだあと少しの間、何となく怖かったですもん…周りの空気が…

>「ほのぼのしてるけどギリギリの人しか考えないよなこと描いてるよな~」って印象です、ぼのぼのも。

アッシは全然そこまでは感じ取れてなかったっすね~…
「ぼのぼの」どころか「ネ暗トピア」読んでた時も、
「ブラックだな~」って思ったくらい。
だけど「とても繊細な人なんだろうな~」とは思ってましたので、何と言うか…精神的にキツイ部分もおありになるのかも知れませんね…

>かつてネアンデルタール人が滅んで劣っていた方(脳容量とか体格で)のクロマニョン人が台頭して現在に繋がってきたように

アッシも何かの本で、ネアンデルタール人の方が芸術を愛でる高い精神構造を獲得していて、社会的にもクロマニヨン人より遥かに優れていた…とか読んだ記憶がありますが、ただ言語能力は体の構造上、クロマニヨン人の方が優れていたのではないか…という説もあるようで…
そうして考えると、
「言葉によって区切られる必要のない無限の世界」から
「言葉によって有限になった世界」に、そして今、
「その言葉すら失われて無になってしまった世界」
になってしまうのか…!?とも思われて…とても怖いですね…

それにしても、いつもつるさんの視点には敬服致します。
アッシなど今迄何の根拠もなく、変化が訪れるとすれば、
「やどり木」の<惑星の心>のように精神が一部共有されることによって、無駄な争いなどがなくなった世界…だとか、
テッド・チャンの「理解」のように、言葉で考える必要もなく感じることで理解できる能力が生まれる…だとか、
そういうまさに「無邪気な」(笑)ことばかり考えてましたもの…
人類だけが進化のサバイバルに生き残っていけるとは限りませんもの…ね…

>だいぶ若い頃から「人間のカタチをした人間でないモノ」の存在を感じる事があって

つるさんはやっぱり色んな意味で<鋭い>方だったんですね…!!
アッシはそういう「人外の気配」などは感じたことがありませんが、物理学だってこの世界は四次元に限らないって言ってるくらいですから、通常感じ取れない<力場>があったとしても不思議ではないですよね。

あ、でもそしたら、知らない間に人間も…例えば何かを考えたりしただけでも、そちらの世界に影響を及ぼしてることだってあるかも?ですね?

今はもしかしてターニングポイントなんでしょうか…
何か色々考えちゃいます…


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おもしろそうです~♪ (あこ)
2008-10-01 14:30:44
えっと、
「いがらしみきおさん」は「ぼのぼの」しか知りませんでした。
で、その「ぼのぼの」もちゃんと読んだことが無くて…。
私にとっては全く未知のお方なのです~!

で・す・がっ!!
今回のくまちゃんご紹介の本はとっても面白そうです。
そろそろお気づきかとは思いますが、私かなりのホラー好きです(笑)
満天さんのコメにも書かせて貰ったのですが、
スプラッター以外のホラー物は大体好きなんですよ~(*´艸`*)ウフ

この本は是非探して読んでみたいです。
くまちゃんのブログを読んでなかったら気付かなかった本ですね~。
ブログの出会いで本にも出合える、ありがたいです~。

>いったい他には何を借りられたんでしょうか…(興味津々)
(満天さんのコメ、勝手に拝借しちゃいました)
良かったら次くまちゃんに回しますよ~。
全体的に暗~いラインナップだったことしか覚えてないのですが、
それでも良ければ~(笑
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あこちゃんへ (くま)
2008-10-01 22:23:00
コメント、ありがとうございます!!

>そろそろお気づきかとは思いますが、私かなりのホラー好きです(笑)
あこちゃんももうお察しのことかと思いますが、アッシもヘタレなくせに、実はホラー好きですの…(笑)
突然「ワッ」とかって驚かされる系には滅法弱いんですが、人だとかこの世界だとかの<闇の部分>に焦点を当てたようなじんわりと怖さが募る様なお話とか大好物ですし、スプラッターも割と平気です

この「Sink」は今満天さんにお貸ししてまして、他にも何冊かお送りしてますし、つい先日お送りしたばっかりで「ゆっくりお読みください」ってお伝えしてますので、ちょっと当分時間はかかりそうですが…
それでよければアッシもあこちゃんにも回させていただきやすが。
それから…あこちゃん箱、アッシにも回していただけたら嬉しいです♪

あ、そうだ!
宜しければパソコンのメルアド交換しませんか?
アッシのは↓に載せておきますので。
あと…勝手に自分で提案しておいてなんですが…
お手数ですが見終わりましたら一言コメいただけるとありがたいです。


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くまちゃんへ (あこ)
2008-10-01 23:04:14
早速メール送りました!
届いてますか?

くまちゃんのアドレスに変なメールが来ないうちに削除してね!
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あこちゃんへ (くま)
2008-10-02 23:01:40
早速のメールありがとうです!!
返信メールしましたので、また宜しくです♪
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