火と灯の歳時記

火の季語、灯の季語で詠まれた作品をおよせください。投稿場所は「ににん」ホームページに新設します。(2011年10月1日)

虫送り2

2014年03月14日 | 初夏


乳母車    中島外男
子どもらに先生付き添ひ虫送り
ご神火を移す松明戻り梅雨
虫追ひの松明の列闇の中
こぬか雨虫追ひの松明長々と
松明の重さに耐へかね焔落つ
松明の燃えかすどさつと青田道
かうもりの飛び交ふ空や虫送り
乳母車の子が眠り居り虫送り
麦わらの松明あまた虫送り
虫追ひの列にはぐれて闇に独り
虫追ひのお神酒を飲み干す氏子たち
虫追ひの太鼓と鉦の音闇に消え

夏蛙    服部さやか
夏の雨藁の匂ひの立ち上る
夕立風藁を抱へる村の子ら
先頭の炎遠のく虫送り
虫追ひや大き藁持つがき大将
葬列のごとき人影虫送り
角曲がるまで鳴いてゐる夏蛙
紫の空を泳いで蚊喰鳥
火の粉浴びよろめける子や虫送り
藁の火のぼとりと落つる夏の夜
虫送り目の前の火についてゆく
燃え盛る炎に透けし夏の雨
虫追ひや来し方に火を残しつつ

人影  牧野洋子
時刻表裏返しては汗拭ふ
狛犬に供ふ杉の葉文月かな
御神酒の喉元過ぎる夏の雨
虫送り雨音遠くなりにけり
虫送り生あるものの蠢きて
擦れ違ふ男に藁の香夏の月
松明や凌霄花の朱を際立たせ
大き手に引かれて歩く虫送り
松明の過ぎし青田に風渡る
門に立つ人影動く合歓の花
虫送り泣き虫毛虫闇に捨て
虫送り闇に押されて足早に

火屑   宮本郁江
草むらに足をとられて虫送り
川筋に光の帯や虫送り
水口に松明映る虫送り
木槿咲く村の真中に駐在所
夕闇に人の犇く虫送り
虫追ひの村一色に夕暮るる
松明の火屑をこぼす植田かな
虫追ひの行列続く村境
後手に媼が行くや虫送り
村中の人の集ひし虫送り
虫追ひや神社の扉開け放つ
火の粉降る村のはづれの虫送り 


虫送り

2014年03月14日 | 初夏

夜の秋       浜岡紀子
蝉の杜天の岩戸の大き絵馬
お神酒酌む夏の夕べの明るさに
虫送り雨の匂ひを先立てて
虫追ひの煙まみれとなりにけり
地に落ちし藁の残り火夏の雨
松明を掲げる子らの夏休み
火の粉飛ぶ一隅白き秋桜
蝙蝠やわれら氏子の後につく
星のなき夜の深みへ虫送り
火取虫戻ることなき道をゆく
黒焦げの藁傘につく夜の秋
虫追ひの幣束立てる字境

宵闇  武井伸子
鏡使ふ女のうしろ夏の川
藁束の納屋より出され新走り
色あせぬ社殿の絵馬や秋時雨
白木蓮角を曲がれば小学校
だんだんに人集まり来虫送り
宵闇によそものの顔溶かしたる
虫追ひの火のしたたりて水迅し
夕闇と遊んでをりぬ蚊喰鳥
子の担ぐ虫送ひの火のゆれこぼる
曲がるとき火の粉ばらまく虫送り
行列や虫追ひの火をこぼしゆく
落ちし火のふいに燃えたつ虫送り

 藁束    高橋寛治
虫送り御神酒呷つて出陣す
怨恨を虫追ひの火の浄めけり
虫追ひや草も土にもむせにけり
稲虫のまどろみ破る浄火かな
虫送り送電線ははるか先
稲虫を焼き払ふ火の爆ぜにけり
遠方に虫追ひの火の伸びてゆく
火の爆ぜて地獄の門へ虫送る
煙幕や藁束爆ぜて虫送る
畦に火の子供交へて虫送る
虫追ひの火の揺らめきて畦に延び
松明や一陣の武者虫送り

あとさき    川村 研治
そばへ降る北川崎の青田かな
三伏や鳥居の下の丸き石
日の神の絵馬を拝すや白雨なか
虫追ひのひとりづつなる鉦太鼓
虫送り古き社を出発す
かはほりの現れたるも虫送り
火に叫び火を囃したて虫送る
家々に幼子の立つ虫送り
あとさきになり虫追ひの氏子たち
焦げ臭きにほひ身につく虫送り
夏の夜は広がつてゆく煙かな
遠ざかる鎮守の杜の蝉のこゑ

夏の闇    兄部千達
虫追ひの爆ぜる音小さき藁の束   
足元の水音高き虫送り   
豆畑に虫追ひの火を残しけり     
江戸の世の曽祖父達も虫を追うふ  
火を掲ぐ先頭を追つて虫送り       
虫追ひて昔の人の仲間入り       
夏の闇火を点ける子の屁つ放り腰
蛙等の騒がしき夜の虫流し
虫追ひの火の粉を避けて掲げる子
江戸の野も炎かかげる夏の闇     
虫追ひの火を追うてゆく人の影   
虫追ひの炎をなだめて傾ける 

夏の雨    岡本恵子
虫追ひや土の匂ひの古社
虫送り焔を導べに星を呼ぶ
虫送り田に滾々と水は鳴り
かはほりや松明の火を遠巻きに
火の粉散る疎水に眠る夏の蝶
人買ひの叩く鉦かも虫送り
藁焼べて帰りは暗し虫送り
虫追ひや天地の間の火の銀河
子供らと火の粉をつつむ夏の雨
藁抱いて空押し上げる虫送り
老農婦火伏の如し虫送り
虫送り囃される子の担ぎ下手

あの世この世   及川希子
虫追ひや鎮守の森に人あまた
ご神火を松明に移す夏の夜
松明を抱きかかへ行く虫送り
虫追ひのための藁束つぎつぎと
稲の虫ホーイホーイと囃したて
青田風松明の火をなびかせて
松明の火屑こぼれる植田道
虫追ひの松明遠く帯なせり
虫追ひの火の粉をかぶりつつ進む
蝙蝠が遠巻きにして飛び違ふ
幣束を立てて氏子の虫送り
虫送りあの世この世の境まで

家族    佐々木靖子
祭半纏配る総代町議員
御神酒下げて男の来たり虫送り
虫追ひの準備ととのひコップ酒
昼の酒お相伴する虫送り
振り子時計とき告げてゐる祭酒
警官も出発を待つ虫送り
赤ん坊を囲む人の輪虫送り
身の丈の松明抱へ虫送り
菅笠を被る氏子も虫送り
虫送り見守る家族闇にあり
支へられて祖母も出できし虫送り
途切れては続く松明虫送り

 白鷺          岩淵喜代子
顔上げて居れば風くる草むしり
吹いてみる夢で覚えし草笛を
ひぐらしや三十貫の力石
虫追ひのはじめは藁の香に咽て
虫追ひの闇待つ大杉街道も
虫追ひや杉の青葉を清めとす
虫追ひの夜も天保十二年
白鷺は首先き立てて虫送り     
漆黒の人影ばかり虫送り
字ごとに幣立て進む虫送り
虫追ひの火の先頭は他界らし
雨粒が水面を揺らす晩夏かな

稲の虫        石井圭子
三伏や鳥居見上げる夕間暮
出揃ひて鎮守出てゆく虫送り
松明を抱き抱へる子虫送り
出揃ひて鎮守出てゆく虫送り
松明を兄とふたりで虫送り
松明のぼつぼつと燃へて虫送り
松明の落ちても赤し虫送り
字堺ちよつと一息虫送り
虫送りとぎれとぎれの列となり
虫送り列途切れれば闇となる
虫送り太鼓の音も遠のけり
虫送り終へて飛び込む路線バス

豊作     伊丹竹野子
豊かなる瑞穂の国の虫送り
虫追ひの子供太鼓に呼び込まる
虫送る神事の神酒に酔ひにけり
虫送る七尺の藁松明にして
生き生きと虫追ひの火を掲げる子
虫送る火をはらはらと溢しゆく
大闇を小闇ならしむ虫送り
虫送るほむら盛なる字境
虫送る目は豊作を疑はず
虫送る畑の空なる軍星
虫送り終へて戻りし闇の道
実盛の呪ひの虫を送りけり

青竹    あべあつこ
竹の幣うつくしや虫送り
杉の葉にお神酒をたらす虫送り
虫送りお神酒に濡るるひとところ
都市の燈は遠くにありぬ虫送り
虫追の火の粉をかぶりつつ行けり
火に浮かれ鉦に浮かれて虫送り
担ぎ手に少女も居りぬ虫送り
かどかどに人の見守る虫送り
松明のぼとりと落つる虫送り
虫送り終に大きな焔となりぬ
火を追ふは死を追ふごとし虫送り

余韻なほ松明の火に蚊喰鳥 「虫追い」という行事をどのように捉えるか、大雑把に「エントロピーの解消」を目的とした祭りの一つとして考えてみたいのですが。エントロピーとは日々の生活のなかで溜まってしまうゴミとか澱のようなもので、そのために淀んでしまう暮らしを定期的にクリアする、リセットするための装置としての農耕儀礼、新しい時間を導入し生活を活性化させる農民の知恵。「実盛送り」に観られるようにスケープゴードを仕立てそこに害虫、疫病、さらには村に溜まっている怨念などを背負わせ一気に村の外へ送り出す。さて、お盆の行事などもそうですが、「お迎え」とか「送り」とか言う言葉が象徴するように内と外、その境界である村境、村境への曖昧で特殊な意識のあり方、いわゆる周縁、周縁性の持つ意味が私の頭の中に疑問符付きで浮上してきました。(高橋寛治)

 


炎天

2013年08月02日 | 三夏
炎日の熊谷をまた熊谷に         栗原良子
つかまるものあればつかむや炎天下 松岡悠喜夫
炎天を無帽の父の猫背かな   松岡悠喜夫

夏炉

2013年08月02日 | 三夏
夕暮れの山の匂ひや夏炉焚く    兄部千達

キャンプファイヤー

2013年08月02日 | 三夏
厚紙の王冠被りキャンプファイヤー     服部さやか

薪能

2013年08月02日 | 
声色の闇に漂ふ薪能     服部さやか

秋夕焼け

2013年08月02日 | 三秋
秋夕焼ぽつねんと母思ひ出し    中村善枝

ナイター

2013年08月02日 | 三夏
ナイタ―の声援ポップコーンこぼす     浜岡紀子

夜光虫

2013年08月02日 | 三夏
我二十歳瀬戸内航路に夜光虫    同前悠久子
また一つ夜汽車の灯り夜光虫    橋本幹夫

花火

2013年08月02日 | 三夏
ベランダで爪先立ちて遠花火       小塩正子
手花火に穏やかな顔映りをり       辻村麻乃
揚がるたび湖にさざなみ花火舟       浜岡紀子
昼花火はやく暮れよと児のせがむ    橋本幹夫

初午

2013年08月02日 | 初春
初午の火伏の匂ひつきゐたり      河邉幸行子

陽炎

2013年08月02日 | 三春
小学校中学校の陽炎へる        川村研治
陽炎や揺れ見らるるはこちら側     中村善枝
陽炎立つハイウェイ抜けて信州路    中島外男
陽炎へる土手に佇むお地蔵様      中島外男
陽炎燃ゆグランド走る球児達      中島外男    
陽炎える立ちポーズにも擬音あり    木佐梨乃

2013年08月02日 | 初春
春炬燵師のおほかたは泉下にて   川村研治
 

走馬灯

2013年08月02日 | 三夏
訪れてまた還る影走馬灯      岡本恵子
走馬灯一周させる時間かな      松岡悠喜夫

雷・稲妻

2013年08月02日 | 三夏
遠雷や溶岩台地の陰深く     高橋寛治
稲妻や神に捧げる近江米     伊丹竹野子