アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

ナガ族の腰機による緻密な木綿経地合織物

2014-02-11 06:08:00 | 技巧・意匠・素材



製作地 ミャンマー北西部 ザガイン管区  
製作年代(推定) 20世紀前期~半ば
民族名・支族 ナガ族 ゼミ or セマ




製作地 インド北東部 ナガランド州  
製作年代(推定) 20世紀半ば~後半
民族名・支族 ナガ族 アンガミ








手紡ぎの細手の木綿糸、腰機を用いた緻密な経地合の織り、10~20cm弱の細幅織物の接ぎ合わせ、一見シンプルながら実際には高度な技巧が加えられた紋織や織り変化... 本物のナガ族の織物・衣装作品には際立った特徴を見出すことができます。

ミャンマーとインドが国境を分かつ、長らく”辺境”と呼ばれ続けてきた丘陵・森林地帯、厳しい自然環境の中で生活を続けてきた民のみが表現・表出させることが可能なもの、他者が真似をすることの出来ない精神性の深みが織り込まれた染織・衣装作品です。




●本記事内容に関する参考(推奨)文献


タイ・ルー族の伝統美薫る縞スカート

2014-02-09 00:11:00 | 民族衣装






製作地 ラオス北部  
製作年代(推定) 20世紀半ば
素材/技法 木綿、絹、天然染料及び化学染料 / 緯縞織








製作地 タイ北部  
製作年代(推定) 20世紀半ば~後半
素材/技法 木綿、天然染料及び化学染料 / 経縞織、経絣

タイ・ルー族は、中国雲南省南部のシーサンパンナ(西双版納)の地に千年を遡る古い時代から生活の拠点を築いていたことが知られており、後世タイ・ラオス・ベトナム・ミャンマーの東南アジア北部に移住、現在タイに生活するいわゆる“タイ人”の起源に大きく関わりを持つ民族であることが知られております。

染織技術に長ける彼らは、生活の場面に従い様々な技巧及び意匠様式の民族衣装を製作し身に着けてきましたが、日常生活の普段着では、画像に見られるような”多色縞”のシン(スカート)を女性たちは好んで身に着けてきました。

遠目ではシンプルな縞とも思えますが、ディテイルを良く見ると縞を構成する糸は手紡ぎの木綿や手引きの絹を素材に、太さ・撚りの異なる様々な風合いの糸が用いられ、部分的に絣糸や繊細な色グラデーションが加えられるなど手の込んだ手仕事ぶりを確認することができます。

他者には真似をすることの出来ない、タイ・ルー族のみが表現することの可能な、固有の伝統美と色香を薫らせる衣装作品です。



●タイ・ルー族の衣装姿

※上画像はChiang Mai University刊「LAN NA TEXTILES」より転載いたしております




●本記事内容に関する参考(推奨)文献
 

中央が緑に彩られた儀礼用の絹絣腰衣

2014-02-05 05:41:00 | 技巧・意匠・素材



製作地 カンボジア南部  
製作年代(推定) 20世紀前期~半ば
素材/技法 絹、天然染料 / 綾地・緯絣

長さ3m近くに達する中央の”緑色”染め分けが印象的なこの絹絣は、宗教儀礼用に纏う長寸の腰衣”チョンクバン”として手掛けられたものとなります。

インドのパトラやインドネシア・スマトラのリマル等の絹絣においても、本品と同じような中央が黄・橙・緑等に染め分けがなされた作例があり、色彩それぞれに使用者の身分や使用の用途等の意味づけを見出すことができます。

20世紀後半の戦乱により伝統染織の記録・記憶の大半が失われてしまったカンボジアにおいて、この”緑色”の意味は不詳(未解明)ですが、高貴な身分の者が特別な儀礼用のものとして使用したものであろうことは、織物の放つ空気と精神性から自ずと伝わってまいります。











●参考画像1 中央が緑色に染め分けられたインドネシアの絹緯絣リマル
スマトラ島パレンバンにおいて中央が緑色の絹絣肩掛けは寡婦が用いたものとされる

※上画像はSerindia Publications刊「Art of Southeast Asian Textiles」より転載いたしております


●参考画像2 中央が山吹色に染め分けられたインドの絹経緯絣パトラ
ジャイナ教徒が用いたデザイン様式の絹絣サリー ※ただし中央の色は身分・信仰と関係無し

※上画像はV & A MUSEUM刊「INDIAN IKAT TEXTILES」より転載いたしております




●本記事内容に関する参考(推奨)文献
  

ラーンナー宮廷の”チャーン・プアック(白象)”

2014-02-03 05:38:00 | 仏神像



製作地 タイ北部 ラーンナー地方  
製作年代(推定) 19世紀初期

19世紀初期のタイ北部ラーンナー地方で、宮廷様式の調度品として手掛けられた「チャーン・プアック(白象)」の装飾箱。

白象は釈尊の生誕に纏わる仏教説話に登場し、仏教に縁の深い聖獣として知られますが、タイにおいては古来より王族のみが所有し乗ることを許される動物と看做されてきました。

民間で”白象”が生まれたり発見された場合、国王に献上する義務が法制化されておりますが、この”象法”は現在も(法律上では)効力を有し続けているそうです。

近年つくられたお土産品に類するものは別ですが、古手のアンティークに類する本格的な象の調度品で、本品のような”白象”が表されたものが少ないのは、工芸・調度品と言えども、これが”王様のもの”という意識がタイの人々の間で根強く存してきたためと思われます。

本チャーン・プアック木像は、ラーンナー宮廷のために手掛けられた特別な作品であり、信仰の調度品、仏神像に類する精神性の深みが感じられる一品です。










●本記事内容に関する参考(推奨)文献