(写真 カンボジア・プノンペンにて)
●ラオス北東部 サムヌア(フアパン県)産の二種類の蚕繭
●サムヌア産の二種類の蚕繭から手引き・手紡ぎされた絹糸(生糸)
●サムヌア産の絹糸が天然染料で染められ、縫取織の絵糸とされた織物(20c前期)
●サムヌア産の絹糸が天然染料で染められ、絣の緯糸とされた織物(19c後期)
●(上)現在のラオスの織物全般に使用される輸入の絹糸/(下)サムヌア産の絹糸
●糸の太さが均一で光沢感のある輸入絹糸で織られた近年の作品
ラオス北東部サムヌア地方(フアパン県)の土着の絹は、カンボジア原産のカンボウジュ種と同系の黄繭(黄金繭)系で、節感とセリシンのザラつきの強い荒々しい糸の表情が特徴、光沢感は少なく、一種”麻”のような風合いと肌触りが感じられます。
昔は専らこのサムヌア産の荒糸でラオス北部の織物は手掛けられておりましたが、現在売り物や工芸品として目にすることのできる洗練された新しい織物には、総じて滑らかで光沢感のあるベトナムや中国からの輸入糸が用いられております。
サムヌア産の絹糸は太さが一定せず節があるため、経糸に緯糸や紋織りの絵糸が頻繁に引っ掛かり、それにより糸切れがし、織物を迅速に織り進めることは困難、仕上がりにもムラが出易いため、コスト・生産性・品質の安定を重視する販売用の品モノには不向きとなります。
しかしながら、上画像で確認できるように、天然染料で染められたサムヌア産の絹糸は色彩の力強さと深みに秀で、織り上がった作品には独特のふくよかさと温かみが感じられ、輸入糸を用いた織物では表わせない力強い存在感と精神性が立ち現われます。
製作地 カンボジア南部
製作年代(推定) 20世紀初め~前期
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 緯絣・綾地
絹絵絣”ピダン”は、単に仏教に縁の吉祥文様が散りばめられるのみでなく、釈迦の生誕から仏陀に至る場面、また前世物語であるジャータカの場面が、物語として描き込まれる点に特徴と特殊性を見出すことができます。
一つの作品で完結するのではなく、連綿と作り続けられてきた作品群によってその世界が完成へと至っていく、まさに絵巻物としての染織作品となります。