アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

20c中 タイ・デーン シャーマン儀式用縫取織布

2017-09-15 00:36:00 | 染織





製作地 ラオス北東部 フアパン県 Houaphan Province
製作年代(推定) 20世紀中期
民族名 タイ・デーン族(Tai Daeng)
素材/技法 絹、木綿、天然染料 / 木綿(経)×絹(緯)交織地、緯紋織、縫取織
サイズ 幅(緯)34cm×全長(経)170cm(フリンジ除く)

ラオス北東部のフアパン県に生活する「タイ・デーン族(Tai Daeng)」の手による、シャーマン儀式用縫取織布”パー・ピー・モン(phaa phii mon)”、20世紀中期の準アンティークの作品です。

”パー・ピー・モン(=シャーマン・クロス)”は、“パー・サバイ(=ヒーリング・クロス)”とともにアニミズム(精霊信仰)色の強い仏教或いはアニミズムそのものを信仰するラオス北東部のタイ族系民族グループの間で製作・使用されてきたもので、“パー・サバイ”がシャーマン以外の者も儀式・治療の際に身に着けることがあるのに対し、この”パー・ピー・モン”はシャーマン(巫師)のみが使用・着用を許される布であることに違いがあります。

本品は経に木綿、緯に絹を配した交織の赤平織り地に、白・黄・山吹・橙・浅葱・青緑・黒の7色の絹を用いた緯紋織及び縫取織により、”聖鳥””馬””蛇龍神ナーガ(ナーク)”等の具象モチーフが幾何学文様を交えて立体的な浮文として長布の上下に織り込まれたもの、サイズ及び意匠から儀式用の肩掛けとして用いられたものと考察されます。

布上二箇所の装飾部分はびっしりと密度濃く緻密な糸遣いで多様な文様が織り描かれておりますが、中でも”尾を高く上げる聖鳥(Nok haang kang)”が大小連なるデザイン構成が印象的で、もう片方に高密度で描かれた”蛇龍神ナーガ”の複雑なモチーフを併せて、作品からはシャーマンが用いる布たる固有の存在感と荘厳美が薫ってまいります。

やや紅色掛かった鮮やかな赤の織り地は、一見すると化学染料による染めとも感じられますが、これは経に木綿の蘇芳染め(赤茶)、緯に絹のラック染め(ピンク掛かった紅赤)を交織することで表出させた色彩で、高度な染色と視覚的計算により生み出されたものとなります。

信仰の祈りとともに生み出された織物が発する”気”と”生命感”に目と心を奪われる一枚です。
















































●参考画像 シャーマン儀式用布”パー・ピー・モン”の他作例



※上画像はStudio Naenma Co Ltd刊「Lao-Tai Textiles」より転載いたしております






●本記事内容に関する参考(推奨)文献