アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

紅・茜染め内着の秘めたる華やぎと色香

2015-03-17 05:39:00 | 染織

●南部茜染め絞り(+紅花染め甲斐絹)の内着






製作地 日本・岩手県 南部地方 ※茜染め絞りの製作地
製作年代(推定) 19世紀後期 明治時代(或いは江戸時代末)
素材 絹、茜染め(絞り染め)、紅花染め(裏の甲斐絹)、絹縮緬、切金縫い付け


この鮮やかな赤(紅)の色彩が印象的な袷は、表着と襦袢の間に着用する内着(間着)としての着物で、紅花を染料に板締めにより文様が染められたもの或いは茜を染料に絞り染めで文様が染められたもの(本作例)を中心に、江戸時代中後期の町人文化の発展の中で、とくにもてはやされるようになった意匠のものとなります。

度重なる奢侈禁止令(徳川禁令)により江戸庶民の衣には制限が加えられましたが、地味な色彩の表着の下に、この鮮やかな紅(呉藍)色の内着や襦袢を取り合わせることが町衆の粋(いき)ともされ、その姿は浮世絵等の風俗画にも盛んに描かれるに至りました。

かくも鮮やかな茜染めの緋色と紅花染めの橙... しかしながら表にはすべては出さない(出せない)秘めたる美... 江戸着物に流れる粋と美の世界観に惹き込まれる一品です。 














●(参考画像)紅板締めの内着



島根県立古代出雲歴史博物館蔵(19世紀・明治時代)



●(参考画像)浮世絵に描かれた紅染め(板締め・絞り染め)の内着姿



鈴木春信 坐鋪八景 明和2年(1765年)頃




歌川豊国(三代) 擬五行尽之内 夫をおもふ無間の金 嘉永5年(1852年)