1945~1948年 太宰 治
太宰ブームの今日この頃、作品や映画の紹介で、飲酒癖や借金、女グセなど
なにかとダメ男ぶりがクローズアップされていますよね。
しかしこの一冊では、ところどころで男らしい一面も見せています。
まず、戦時中家族をともなって疎開する物語『薄明』や『たずねびと』では
やはり太宰も一家の大黒柱、という(少しは)頼りがいがあるところをのぞかせています。
もちろん、ものすごく良い夫で良い父親とは言わないけど…
それから、『苦悩の年鑑』や『十五年間』では
かなり鼻息荒く、主義を振りかざす虚無感や文壇(サロン)への決別を語っています。
女性にさりげなく男気を見せる『メリイクリスマス』もいいお話です。
もし自分がモデルなら、もてたでしょうね? やっぱり…
そんな中から、特にユーモアのきいた三篇をあげてみます。
『男女同権』
老詩人が講演で、男女同権が定められたことへの喜びを語ります。
小さな頃は実の母、奉公時代は店のおかみさんと女中
成人してからは三人の妻にめちゃくちゃにされた過去を振り返り
「もう女が弱いなんて言わせない」という決意を表明します。
男女同権をおもしろくないと考えていた男性も多かったと思いますけど
この老詩人みたいに考えれば、少しは気が楽になったかもしれませんね。
一種のポジティブシンキングと言えましょう。
『朝』
ある晩酔っぱらって、昼間仕事部屋に借りている若い娘さんの部屋に泊めてもらいます。
しかし、停電で部屋は真っ暗…このままでは何かしでかしてしまうと思い
蝋燭をつけてもらいましたが、短くて消えそうになってしまいました。
“ 蝋燭がつきないうちに眠るか酔いがさめないと、キクちゃんがあぶない ” って
自分で思うのが笑える…笑えるけど
誘惑に弱い人が誘惑に負けまいとする努力は、相当大変なものでしょうね。
『グッド・バイ』
そろそろ妻と娘を東京に呼び寄せて幸せな家庭をつくろうと思い立ち
つきあっている10人の女性と手を切ることにしました。
上手く別れられるように、ものすごい美人を連れて女性たちに会いに行くことにします。
でもその美人、普段はとてもだらしなく、大食いで、金に意地汚い女性でした。
10人て…マメな人もあったもんですね。
大胆不敵で金も自信もそこそこある、今までに無い男性主人公象が新鮮でした。
この物語は長篇になる予定だったそうです。
書きかけの作品を残して自ら命を絶つというのは、無念じゃなかったのかしら?
16篇の物語が収められた短篇集です。
随所に「おれはだめなやつ」「酒飲みでしようがない」「生きていたくない」という
ネガティブな一文が登場しますけど、自虐ネタだと思えなくもありませんでした。
“ ナイーブな俺 ” のポーズなんじゃないかと…
文章からは、一緒にいたら愉快な時が過ごせそうな印象を受けるのですけれど…
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