まりっぺのお気楽読書

読書感想文と家系図のブログ。
ゆる~い気持ちでお読み下さい。

『人間の絆』現実的な夢見る青年

2009-10-13 00:27:53 | イギリス・アイルランドの作家
OF HUMAN BONDAGE 
1915年 サマセット・モーム

この本を読んでいたら何かを思い出した…

スタンダールの『赤と黒』 のジュリヤン・ソレルも
ハーディの『日陰者ジュード』のジュード・フォーレイも
それぞれ聖職者を夢見て、そして挫折してましたね?
そんなに憧れの職業だったのでしょうか? 司教とか牧師って。

『人間の絆』の教訓的な部分や哲学については、解説にびっちり書かれているから
触れないでおくとして、主人公フィリップのポジティブ さに乾杯! って言いたいわ。

フィリップはおおよそ不幸と呼べる境遇を背負っているわりには
どん底を見ることはないんですよね。
それはもちろんフィリップをとりまく環境もあるのだけれど
彼自身の中にある理想と現実の絶妙なバランスが生み出したものではないかと…

現実的な人物としての象徴が牧師の伯父や寄宿学校の教師たちで
夢見る人の象徴がフランスの友人たちや有閑青年ヘイウォード。
彼らの間で冷静な立ち位置を見いだしていったような気がします。

幼いフィリップは両親を亡くして牧師の伯父夫婦に引き取られます。
伯父は厳格だけど、フィリップを聖職者にするための教育には出し惜しみしないし
伯母は優しい愛情を惜しみなく注いでくれます。

脚に問題を抱えているフィリップは学校でいじめにあい友達もあまりできないのですが
そのおかげで(って言ったらなんですけど)存分に勉強ができて将来を嘱望されます。

ドイツ、パリへと飛び出した結果、何も得られず帰って来たように見えて
一生の友達と今後を生き抜く現実的な思考を手に入れています。

恋愛も上手くいっていないように見せかけて、捨てた女性もいることだし
金が底をついた時にも最終的には友人の世話になり、不況の中職も得て
最後は伯父さんの遺産が入り、密かに万々歳という…

ね? あんまり同情できないでしょう?
たしかに波乱含みの平坦ではない人生ですけどね。

唯一の不幸で最大の見せ場、ミルドレッドとの “ 自分ではどうにもできない愛 ”
これはお気の毒としか言いようがありません。
「どうしてそんな女(男)がいいかね?」 というのは他人だから言えること。
理性では分かっていてもコントロールできない愛…
本物の愛かもしれないけど本当に大変そう 真似できないね。

若者の苦悩と挫折を題材にした他の小説と比べてうんざりせずに読み通せたのは
主人公以外の登場人物(これが多い!)の人生やパーソナリティーも描かれていて
いろいろな物語がちりばめられていたからではないかしら?
特に人生に敗北感を感じている人たちのエピソードが多い気もしますけど…
短篇の名手モームの片鱗が表れていると思います。

牧師の伯父に引き取られたり、ドイツに行ったり、医者を目指したりと
主人公フィリップはモームの人生に重なり合う部分が多いそうですが
自叙伝だとは考えない方がいいみたいです。
なんたってモームは皮肉屋さんですから… どこまで本当のことを書いているのやら…

人間の絆 上巻 新潮社


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新潮文庫はこんな感じ…可愛いですね。
上下刊みたいです。

余談です
今読み返してみると『日陰者ジュード』と『赤と黒』に対する私の感想は
相当投げやりですね そんなにつまらなかったかな?
いつか読み返してみましょう。

コメント
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