面接の日の午後、自分はオフィス街の中の指定されたあるビルへと向かっていた。自分は「データ入力」という職種だけに、なるほど、確かにここらへんにあるかもしれない…と思いながら住所を頼りに歩みを進めていた
そのビルは確かにあった
そのビルはグリーンのビルだった。そのガラス張りのロビーの中には適度な空調が効いていてかすかにバロック音楽が鳴っていた。その職場はそのビルの5階にある。
エレベーターのドアが開くと右手にその事務所のドアがあった。となりにある呼び鈴ベルをおすと中から
「はい」
と女性の声がした。隣に0から9のボタンが並ぶナンバーキーがあった。
「お入りください」
と声がして、ドアが開錠する音がした。中に入ると、毛足の長いカーペットが敷かれたい廊下があり途中で左に折れている。両側には上半分がガラス張りになったオフィスが広がり、十数人の男女が一心にキーを叩いている。
その方向をぼんやりと眺めているといつの間にか
「こちらです」
と声がして、そこには一人の女性が立っていた。パリッとしたスーツに身を包んだその女性はエドはるみに似ていた。(以後、この女性をエドとする)
「あなたは中山さんですね。お待ちしておりました。こちらです」
と言うと、くるっと回って、奥へと入っていく。自分もその後に続いた
ガラスの奥ではカタカタというキーを叩く音が重なり合って、響いていた
「よろしく」
廊下の突き当たりのドアを開けると、また廊下が左右にあり、その左側のドアを開けるとちょっとした会議室になっていた。その会議室は一般企業にある殺風景なものではなく、高級レストランのVIPルームのようであった。間接照明がいくつも仕掛けられたほの暗いなかにテーブルがあり、その中に幹部とみられるワイシャツ姿の中年男性が腰を下ろしていた。エドもその男性の隣に腰を下ろした
「じゃ、履歴書を見せていただけますか?」
自分は立ち上がり履歴書を開いて、両手で手渡す。エドは座りながら受け取った。
何点か履歴書について質問があり、それについて自分も簡潔に回答した。
「じゃぁ。この履歴書は預からせてもらいますね」
といって、エドと男が会議室から出て行った。
そして、エドが今度は一人で会議室に入ってきた。エトは腰掛けるとおもむろに俺に話しかけた。
「私たちの会社のお仕事は、お客様からのメールのお返事をするのが仕事です。お客様のほとんど全部が男性です。そして…
ところであなた、出会い系サイトってご存知かしら?
俺は耳を疑った。?出会い系サイト?俺の混乱をよそにエドが話し始めた。自分たちが募集しているのは出会い系サイトの中の架空のキャラクターになりきって、そこに投稿してくる男性にメールを返信してほしいということが仕事であると説明し始めた。その後、
それで、出来ますか?
と返答を促すエドに自分はなぜか
やってみます
と俺はなぜか言ってしまった。後から考えてもわからないが、このとき「やってみる」といった理由はわからない。
「じゃ、明日から来てくださいね」
と時間を指定され、俺の採用が決まった。このときは「出会い系サイトのサクラ」という仕事がどんなものかはまったく知らなかったのだ。
北の海理事長辞任:
http://matatabi.homeip.net/blog/setomits/