mapio's STREETS OF MOVIE

観た映画の感想とそれから連想したアレコレ(ネタバレ有)。

グラスハウス THE GLASS HOUSE

2008年01月03日 | Weblog
監督:ダニエル・サックハイム
製作:ニール・H・モリッツ
   マイケル・ラクミル
脚本:ウェズリー・ストリック
出演:ルビー:リリー・ソビエスキー『ディープ・インパクト』『ロード・キラー』『愛ここにありて』
エリン・グラス:ダイアン・レイン
テリー・グラス:ステラン・スカルスゲールド
アルビン・ベグレイター:ブルース・ダーン
ナンシー・ライアン:キャシー・ベイカー
レット・ベーカー:トレバー・モーガン
デイブ・ベーカー:マイケル・オキーフ
ジャックおじさん:クリス・ノス
2001/米/106mins. ☆☆☆★

 しっとりとした美しさの大人びた魅力で、第二のジョディ・フォスターとも目される知性派次世代スター、リリー・ソビエスキー主演のサスペンス・スリラーです。思春期の少女特有の不安と恐怖感が絶妙にミックスされ、2001年9月14日付の全米週末興行成績トップ10入り以来、三週連続でランクインを記録しました。共演には、ソビエスキー同様に、当時若くして大人びた雰囲気を漂わせ『リトル・ロマンス』でデビューした美人女優ダイアン・レイン。子役時代から現在まで、その演技カで常に観客を魅了し、本作でも優雅で陰のある(しかもジャンキー!)グラス夫人役でヒロインを震え上がらせます。夫のグラス役にはスウェーデン映画界の演技派、『ベオウルフ 』『奇跡の海』『グッド・ウィル・ハンティング』のステラン・スカルスゲールドが熱演してます。また、弟役には『リメンバー・エイプリル』『ジュラシック・パークIII』のトレバー・モーガン。遺産管財弁護士には『ブラック・サンデー』『すべての美しい馬』のベテラン個性派ブルース・ダーン。実の父役には『パパ』でオスカーの最優秀助演男優賞にノミネートされたマイケル・オキーフ。福祉局調査員は『ライトスタッフ』『シザ一八ンズ』のキャシー・ベイカーが演じ、次世代スターから個性派、実力派のベテランまで豪華スターの共演で、『グラスハウス』は極上のサスペンスを醸し出す事には成功しています。
 監督には、これが劇場長編デビュー作となる、『X-ファイル』や『NYPDブルー』等TVシリーズのベテラン、ダニエル・サックハイム。演出ぶりは平凡で、スリラー演出にも冴えたところがありませんが。脚本はマーチン・スコセッシ監督の『ケープ・フイアー』、フィル・ジョアノー監督の『愛という名の疑惑』等、スリリングなサスペンス・スリラーの第一人者ウェズリー・ストリック。製作のニール・H・モリッツは『ワイルド・スピード』『クルーエル・インテンションズ』『ラスト・サマー』等、若い観客の好みのテイストを知り尽した若き敏腕プロデューサー。製作総指揮には『愛しのロクサーヌ』『コーンヘッズ』等のマイケル・ラックミルがあたっています。撮影は『オーロラの彼方へ』や『シンプル・プラン』で注目を集めたアラー・キヴィロが・光の反射するガラスの家での難しい撮影に挑みました。この大理石とガラスから出来ている超リッチなグラス邸も大きな見どころの一つで『クルーエル・インテンションズ』『アメリカン・ヒストリーX』のプロダクション・デザイナー、ジョン・デイリー・スティールが美しく、エレガントに手掛けています。編集には青春サスペンスの隠れた傑作『リバース・エッジ』のハワード・E・スミスが、衣裳にはジェット・リー主演のSF映画『The One』のクリシ・カルヴォニデス・ダシエンコが、音楽には気鋭のクリストファー・ヤングらが起用され、新世代のサスペンス造りに貢献しています。

 16歳の女子高生ルビー(リリー・ソビエスキー)は、ある晩友人とスプラッタ・ホラー映画を楽しんで遊んで帰宅するとそこには警官が。両親が交通事故で亡くなったと告げられ、11歳の弟レット・べイカー(トレバー・モーガン)と二人途方に暮れる。弟と二人きり、残された姉弟のもとに、母の弟である叔父のジャック(クリス・ノス)らが弔問に訪れる。遺産管財弁護士アルビン・ベグレイター(ブルース・ダーン)も姿を見せ、二人には400万ドルの遺産が残された事、そして昔の隣人であった十年来の知人グラス夫妻(ダイアン・レイン、ステラン・スカルスゲールド)が養父母となってくれるという両親の遺言を伝えた。そして両親の遺言に従い、かつて隣人として親しくしていたグラス夫妻に引き取られる。姉弟には両親から残された莫大な遺産があるが、姉弟が成人するまではグラス夫妻がふたりの後見人となる取り決めだ。しかし、住み慣れた家を後にし、グラス夫妻のマリブ・ビーチにある美しいガラス張りの家へ引越した直後から、ルビーは夫妻の言動に違和感を持ち始める。それは両親の死で神経が高ぶった少女の妄想に過ぎないのか。グラス夫妻の家は大理石とガラスで建てられた素晴らしい豪邸で、ブランド・ファッションもプレステも自由に与えられ、食事もジャンク・フードではない、おいしいイタメシ。二人の哀しみを忘れさせるには充分に思えた。また、両親の遺産もあり、姉弟の将来に不安はない、はずだった――!?ルビーは母の事故死の悪夢で目が覚めた。その時以来、何か嫌な予感に襲われる。広大なグラス邸で、着替えをすれば覗かれているような、電話をすれば盗み聞きされているような……。眠れぬまま深夜、プールで泳いでいたルビーに、養父のじっとりとした視線がからみつく。ルビーは夫妻の激しい口論の現場を見てしまう。二人は私たちの事で言い争っているのだろうか……。ある夜は、レストランの帰途、猛スピードで飛ばす酔った養父が車中でルビーに迫った。あれは本当に、シーベルトを締めるためだけだったのだろうか……。どうやらグラス氏は事業で資金繰りに苦しんでいるらしい。グラス夫人は薬物中毒のようにも見える。グラス氏はそれを「商売ではよくあること」「妻は糖尿病で注射していたのはインシュリンだ」と言うのだが、ルビーの疑惑はどうしても晴れない。やがてルビーは両親の死にもグラス氏が関わっていたのではないかと考えはじめる。ルビーは相談のために弁護士のもとを訪ねる。一応話は聞いてくれるものの、彼女が帰るとすぐに、どこかに電話連絡を入れたようだ。養父の会社“グラス自動車送迎社”にも行ってみた。会議室で、養父は何者かとモメているようだった。さらに不思議 だったのは、そこに両親の車、サーブがあった事だ。福祉局の調査員というナンシー・ライアン(キャシー・ベイカー)がやって来た。養父母としての資格条件をまっとうしているかを調べるためだ。何事もないと帰って行ったが、ルビーはゴミ箱の中から、ルビーの入学取消による3万ドルの小切手返送書類や、シカゴの叔父からのハガキが捨てられているのを発見した。もう、この家にはいられない!ルビーは弟をたたき起こし、雨の中を、習いたてのおぼつかない運転で逃げるのだっ た。しかし検問にひっかかり、追って来た養父母に連れ戻される。“あんたが両親を殺したんだ”“違う、二人の結婚記念日にサーブに替えてMWを貸しただけだ”激しい言い争いのうちに、養母はルビーに鎮静剤を打つのだった。女医である養母、会社社長の養父。風光明媚でリッチなマリブのグラス邸に、いったい何が起きているのか?ルビーの疑惑は当っているのか?ガラスの家の中には、恐るべき結末が潜んでいた。もう、誰も信じられない――。

 本作は、金に困った夫婦が資産家の夫婦を殺し、その子供を引き取ることで自分たちに金が入るように仕向けるという筋立てを、子供の視点から描いています。映画の中ではシェイクスピアの「ハムレット」が盛んに引用されていますが、子供が自分の親の死に疑惑を抱き、今は自分の保護者となっている者に復讐するという話の構成は「ハムレット」と同じです。ただし翻案というわけではありません。これは財産目当ての殺人事件という古くさい物語にシェイクスピア劇という更に古典的な衣装をまとわせることで、 映画全体としてはモダンなものに仕立てようという工夫でしょう。「ハムレット」の引用は、この映画がシェイクスピア劇と同じ構成であることを観客へ親切に教えているのです。それも含めて意図は非常によくわかる映画です。ただ、それが過ぎて、話の展開を先回り出来てしまい、スリラー映画なのにスリルが殆どありません。たぶん脚本が貧弱なのと、それぞれのシーンの作り方に問題があるのでしょう。個々のシーンはそれほど悪くなく、丁寧に作られているのですが、全体として機能しないのです。ざーんねん!