mapio's STREETS OF MOVIE

観た映画の感想とそれから連想したアレコレ(ネタバレ有)。

父、帰る VOZVRASHCHENIYE THE RETURN

2006年12月23日 | Weblog
監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
製作:ドミトリイ・レスネフスキー
製作総指揮:エレーナ・コワリョワ
脚本:ウラジーミル・モイセエンコ
アレクサンドル・ノヴォトツキー
撮影:ミハイル・クリチマン
音楽:アンドレイ・デルガチョフ
出演:イワン・ドブロヌラヴォフ(弟イワン)
ウラジーミル・ガーリン(兄アンドレイ)
コンスタンチン・ラヴロネンコ(父)
タリヤ・ヴドヴィナ
2003年 ロシア映画 111分 ☆☆☆☆

 2003年のヴェネチア国際映画祭で北野武監督の「座頭市」、アンレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の「21g」を抑えて、グランプリの金獅子賞と新人監督賞をダブル受賞する快挙を果たしたアンドレイ・ズビャギンツェフ監督による静かで衝撃的な人間ドラマです。12年ぶりに突然帰郷してきた父親を前に、事情も呑み込めず戸惑うばかりの兄弟の姿を、ロードムービー風に鮮やかに描き出します。際立ったBGMが使われたり、著名な役者が演じている訳ではないけど、見ているうちにグイグイ引き込まれていく演出は受賞をうなずかせます。
  ロシアの片田舎。2人の兄弟、アンドレイとイワンは母とつつましくも幸せに暮らしていました。父親は12年前に家を出て行ったきり音信不通で兄弟は写真でしか父の顔を知りませんでした。そんなある夏の日、父が突然家に帰ってきます。寡黙な父はこれまでのことを何も語ろうとはせず、母も事情を説明しようとはしません。兄弟の戸惑いをよそに、翌朝父は車で彼らを小旅行に連れ出します。道中、父は兄弟に対し威圧的に接します。そんな理不尽な振る舞いにも、父を敬う兄に対し、弟イワンは徐々に反抗心を募らせていきます…。
 この映画は2人の兄弟と父親の3人芝居の作品です。まだ兄弟の記憶にない幼少の頃に、家を出た父親。彼らは父親の顔を一枚の写真でしか見ておらず、そんな父親が12年ぶりに家に帰ってきて父親と言われても、物心ついてから会ったのは初めてです。兄弟はその父親と名乗る大人に動揺します。そんな得体の知れない人間と兄弟だけで旅に出ることになる…。
 ラストに関しては、重く胸に響く人もいれば、極めて不快になる人もいるでしょう。なぜ、父親は12年を経て帰ってきたのか?この父親は兄弟たちへ何を伝えんとしていたのか…?父親の理不尽な行動に憤りを爆発させる兄弟。そして、彼らに巻き起こる悲劇的な事件…。彼らは母親に育てられてきたわけだから、本来父親から学ぶ力強さというものを知りません。実際、イワンは度胸がないことで友達にバカにされていました。突然、現れた父親は力強さの塊のような人で、兄弟は父親が強引に押し付ける試練をいやいやながらこなし、次第に成長し、「男」になっていくのかも知れなかった。言葉少なに行動だけで兄弟の心を荒らしたまま消える事になる父親に何を見出すかによって、評価が分かれる作品だと思います。
 残念な事に本作撮影終了後、ロケ地だった湖で兄アンドレイ役のウラジーミル・ガーリンが不慮の事故で溺死する不幸な出来事がありました。