■熊曽を討ちて 名を貰う
垂仁天皇 そのお子の
淤斯呂別命 即位して
景行天皇 お成りなる
一丈二寸 お身丈に
四尺一寸 膝下の
偉丈夫生すは 八十のお子
景行天皇 耳届く
大根王の 二た娘
兄比売弟比売 眉目好しと
大碓命 召し遣るに
己が妻にと 横に取り
別人を名借りて 差し出す
目敏景行天皇 覚り為し
荒立てじやと 胸納めおく
朝食席で 小碓命にと
「兄の食席 出で来ぬを
諭せ」の仰せ 申し付く
五日経つにも 大碓命が
席に出でぬを 怪訝しみて
「如何為しや」と 問い訊くに
小碓命平然 答えるは
「厠入るを 待ち捕え
手足捥ぎ取り 薦で投棄つ」
聞いた景行天皇 恐れなし
小碓命気性の 激しさに
傍置く厭い 命下す
「西の国にと 我れ聞くに
熊曽に建 二人あり
背く無礼に 断下せ」
応と命受け 小碓命
出発ち前に 叔母君の
倭比売命 訪ねしに
賜る衣装 ご懐剣
西に至りて 窺うに
熊曽建屋敷は 賑わいて
室落成宴 膳支度
宴紛れて 任務をぞと
叔母拝領の 衣装着け
乙女扮して 侍る席
熊曽建目に止め 酌望む
目伏せ顔伏せ 注ぐ手の
瓢に変わり 懐剣が
兄の建の 胸を刺す
逃げる仰天 弟建
なるかと追いて 尻突刺けば
観念弟建 「そも誰ぞ」
「大和天皇の子 小碓命なり」
「さてこそ強き 皇子なるや
我が名名告りを 召されませ」
言うや言切れ これ以ちて
倭建命と 名が変わる
賊の噂を 耳にして
帰路寄りたるは 出雲国
同じ建の 故以ちて
出雲建の 懇意得る
イチイ樫の偽刀
帯びて誘うは 斐伊の川
倭建命は 水浴びて
上がり着替えに 大刀替える
後れ水浴び 知らじかや
着替え帯びるは 樫の大刀
「勇者いずれぞ いざ勝負」
迫る真大刀の 倭建命
抜けぬ刀に 散る出雲建
誇る倭建命の 謡う歌
出雲建が 佩く大刀は
蔓幾重もに 飾れるが
刀身無し刀ぞ 憐れにも
八つ芽さす 出雲建が
佩ける大刀 黒葛多纏き
さ身無しにあわれ
―古事記歌謡(二十四)―
垂仁天皇 そのお子の
淤斯呂別命 即位して
景行天皇 お成りなる
一丈二寸 お身丈に
四尺一寸 膝下の
偉丈夫生すは 八十のお子
景行天皇 耳届く
大根王の 二た娘
兄比売弟比売 眉目好しと
大碓命 召し遣るに
己が妻にと 横に取り
別人を名借りて 差し出す
目敏景行天皇 覚り為し
荒立てじやと 胸納めおく
朝食席で 小碓命にと
「兄の食席 出で来ぬを
諭せ」の仰せ 申し付く
五日経つにも 大碓命が
席に出でぬを 怪訝しみて
「如何為しや」と 問い訊くに
小碓命平然 答えるは
「厠入るを 待ち捕え
手足捥ぎ取り 薦で投棄つ」
聞いた景行天皇 恐れなし
小碓命気性の 激しさに
傍置く厭い 命下す
「西の国にと 我れ聞くに
熊曽に建 二人あり
背く無礼に 断下せ」
応と命受け 小碓命
出発ち前に 叔母君の
倭比売命 訪ねしに
賜る衣装 ご懐剣
西に至りて 窺うに
熊曽建屋敷は 賑わいて
室落成宴 膳支度
宴紛れて 任務をぞと
叔母拝領の 衣装着け
乙女扮して 侍る席
熊曽建目に止め 酌望む
目伏せ顔伏せ 注ぐ手の
瓢に変わり 懐剣が
兄の建の 胸を刺す
逃げる仰天 弟建
なるかと追いて 尻突刺けば
観念弟建 「そも誰ぞ」
「大和天皇の子 小碓命なり」
「さてこそ強き 皇子なるや
我が名名告りを 召されませ」
言うや言切れ これ以ちて
倭建命と 名が変わる
賊の噂を 耳にして
帰路寄りたるは 出雲国
同じ建の 故以ちて
出雲建の 懇意得る
イチイ樫の偽刀
帯びて誘うは 斐伊の川
倭建命は 水浴びて
上がり着替えに 大刀替える
後れ水浴び 知らじかや
着替え帯びるは 樫の大刀
「勇者いずれぞ いざ勝負」
迫る真大刀の 倭建命
抜けぬ刀に 散る出雲建
誇る倭建命の 謡う歌
出雲建が 佩く大刀は
蔓幾重もに 飾れるが
刀身無し刀ぞ 憐れにも
八つ芽さす 出雲建が
佩ける大刀 黒葛多纏き
さ身無しにあわれ
―古事記歌謡(二十四)―