【掲載日:平成21年7月6日】
み吉野の 耳我の嶺に
時無くぞ 雪は降りける
間無くぞ 雨は降りける
その雪の 時無きが如
その雨の 間なきが如
隈もおちず
思ひつつぞ来し その山道を
【吉野山から龍門岳を望む―この道大海人皇子も歩いたか】
「虎に翼を付けて放てり」
世人の 噂は かしましい
天智十年(671)十月十七日
近江大津宮
大海人皇子は 天智の病床にいた
「後事を 汝に託したい」
手を取る 天智の声は 弱い
皇子は 見る
虚ろな目に光る 一瞬の怜悧
退出 すぐさまの 仏殿での剃髪
二日後 近江を 発つ
目指すは 吉野
旧都 飛鳥を抜け 山越えの 吉野行
追われる気が 足を 急がせる
僧衣を 引きちぎる 寒風
つづら折りの 険路
しぐれが やがて雪に
み吉野の 耳我の嶺に
時無くぞ 雪は降りける
間無くぞ 雨は降りける
その雪の 時無きが如
その雨の 間なきが如
隈もおちず
思ひつつぞ来し その山道を
《耳我の嶺を 越える時
つぎつぎに降る 雪や雨
行っても行っても 険し道
先の見えへん 逃れ旅
あの嶺越えて 今がある》
―天武天皇―(巻一・二五)
浄御原宮 冬
真神の原の 彼方
吉野の山は 雪雲に覆われている
見やる 天武の眼に 雪降る耳我の嶺
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