犬養万葉今昔―犬養孝先生著「万葉の旅」を訪ねて

犬養孝先生名著「万葉の旅」記載の万葉故地309箇所を訪ね、先生が撮られれたのと同じ場所に立った写真撮影を目指す紀行。

★万葉歌・みじかものがたり

2008年01月06日 | 紀行アラカルト
あらたしき 年の始の 初春の 今日降る雪の いや吉事よごと

【因幡の雪】


あけて  天平宝字三年(759)正月
昨夜ゆうべからの雪が 見事に積もった
新春の朝日に えている
家持は 憂鬱ゆううつであった
(もう我々の時代は終わったのか 
大伴はこの国では 
 用のない氏族に成り下がったのか 
金村・狭手彦さでひこ以来の
   もののふの大伴氏は 
     どこへ行ったのか 
 ひな国守こくしゅごときに 留まってなるものか)
あらたしき春を迎えたというのに
 出てくるのは  ぐちばかり
憂憤ゆうふんを押し殺して 新年の朝賀に臨む
賀を済ませてのうたげ
一族並びに郡司ぐんじの面々が居並ぶ
みの国守 家持の計らい
宴は  歌会で始まる
それぞれが 
  旧年の内に精進した 
     われこそはを披露する 
いずれの歌も 
 新年の迎えを寿ことほぐものだ
朗々たる歌声の響くなか 
 家持は推敲を重ねていた 
順はめぐ
   最後に  国守家持が歌う
列する人々は 
  緊張のうちに耳をそば立てる 

あらたしき 年の始の 初春の 今日降る雪の いや吉事よごと
《新年と 立春はつはる重なり 雪までも こんなえこと ますます積もれ》
―大伴家持―(巻二十・四五一六) 

年始に立春の重なるめでたさ  
新雪の清らかさ 
降る雪を思わせる「の」の繰り返し 
ますます積み重なれと吉事よごとの寿ぎ
歌心のみごとさ 
「吉事」と言い止めた余韻 
座に 
 感嘆のどよめきが  静かに広がった

ひとり家持は 鬱然うつぜんたる思いでいた
(あらまほし吉事 か・・・) 
歌わぬ人  家持の始まりであった
世は  藤原仲麻呂専横へと向かう



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