万葉集ブログ・2 まんえふしふ 巻九~巻十

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2093 作者未詳

2011-09-25 | 巻十 秋雑歌
反歌

妹尓相 時片待跡 久方乃 天之漢原尓 月叙經来

妹に逢ふ 時片待つと ひさかたの 天の川原に 月ぞ経にける


反歌

「妻に会う。(その)時をひたすら待っていると、“ひさかたの” 天の川原を、月が渡ってゆくよ」

2092 作者未詳

2011-09-24 | 巻十 秋雑歌
天地跡 別之時従 久方乃 天驗常 定大王 天之河原尓 璞 月累而 妹尓相 時候跡 立待尓 吾衣手尓 秋風之 吹反者 立座 多土伎乎不知 村肝 心不欲 解衣 思乱而 何時跡 吾待今夜 此川 行長 有得鴨

天地(あめつち)と 別れし時ゆ 久方の 天つしるしと 定めてし 天の川原に あらたまの 月重なりて 妹に逢ふ 時さもらふと 立ち待つに 我が衣手に 秋風の 吹きかへらへば 立ちて居て たどきを知らに むらきもの 心いさよひ 解き衣(きぬ)の 思ひ乱れて いつしかと 我が待つ今夜(こよひ) この川の 流れの長く ありこせぬかも


「天と地が、分かれた時から、“久方の” 越えられない境界線として、定められた、天の川の河原に、“あらたまの” 月(日)をかさねて、妻に会う、チャンスを伺い、時がくるのを待つ。私の衣服の袖に、“秋風の” 吹き返すので、立ったり座ったり、それを知る手がかりもなく。“むらきもの” 心は揺れて、“解き衣の” 思いは乱れ、いつのまにか、私が(あなたを)待つ今夜、この川の、流れが長いように、(二人の逢瀬もそう)あってほしい」

●天つしるし:天上界にある越えてはならない境界線 天の川

2091 作者未詳

2011-09-23 | 巻十 秋雑歌
彦星之 河瀬渡 左小舟乃 得行而将泊 河津石所念

彦星の 川瀬を渡る さ小舟(をぶね)の い行きて泊(は)てむ 川津し思ほゆ


「彦星が、(天の川の)川瀬を渡る、小さい舟が、漕いでは停泊する、川の船着き場がしのばれるよ」

2090 作者未詳

2011-09-22 | 巻十 秋雑歌
反歌

狛錦 紐解易之 天人乃 妻問夕叙 吾裳将偲

高麗錦(こまにしき) 紐解きかはし 天人(あめひと)の 妻問ふ宵ぞ 我れも偲はむ


反歌

「“高麗錦” 紐を解きあって、天空の男が、妻問いをする夜です。私もしのびましょう」。

2089 作者未詳

2011-09-21 | 巻十 秋雑歌
乾坤之 初時従 天漢 射向居而 一年丹 兩遍不遭 妻戀尓 物念人 天漢 安乃川原乃 有通 出々乃渡丹 具穂船乃 艫丹裳舳丹裳 船装 真梶繁抜 旗芒 本葉裳具世丹 秋風乃 吹来夕丹 天河 白浪凌 落沸 速湍渉 稚草乃 妻手枕迹 大舟乃 思憑而 滂来等六 其夫乃子我 荒珠乃 年緒長 思来之 戀将盡 七月 七日之夕者 吾毛悲焉

天地(あめつち)の 初めの時ゆ 天の川 い向ひ居(を)りて 一年(ひととせ)に ふたたび逢はぬ 妻恋ひに 物思(ものも)ふ人 天の川 安の川原の あり通ふ 出(いで)の渡りに そほ舟の 艫(とも)にも舳(へ)にも 舟装(ふなよそ)ひ ま楫(かぢ)しじ貫き 旗すすき 本葉(もとは)もそよに 秋風の 吹きくる宵に 天の川 白波しのぎ 落ちたぎつ 早瀬渡りて 若草の 妻を巻かむと 大船の 思ひ頼みて 漕ぎ来(く)らむ その夫(つま)の子が あらたまの 年の緒長く 思ひ来し 恋尽(こひつく)すらむ 七月(ふみつき)の 七日(なぬか)の宵は 我れも悲しも


「天と地が、初めて(分かれた)時から、天の川に、向かい合って暮らした(二人よ)。一年に、再度は会えない、妻に恋し、物思いをする人。天の川の、安の川原に、通いつづける、船出の渡し場に、朱塗りの舟の、船尾と船首にも、出船の準備をして、立派な楫をすきまなく突き通して並べた。

“旗すすき” 茎の根に近い葉も(風に)そよぐ。“秋風の” 吹いてくる宵に、天の川の、白波を越えて、激しく流れ落ちる、早瀬を渡り、“若草の” 妻を抱きたい。“大船の” 頼みに思い、(銀河の河を)漕いで来た、その夫が、“あらたまの” 年月も長く、(妻のみを)思ってきた、(せつない)恋を尽くす。

7月の、7日の夜は、私も物悲しくなるよ」