作品名 : 眺
作者名 : 新美 正樹
山崎豊子原作のテレビドラマ「不毛地帯」は私を遠い昔に連れ戻してくれました。
私の知らない商社という世界で大活躍する「壱岐」という主人公の織りなす厳しい競争と葛藤に
迫力と感動を覚えたことは事実ですが、それ以上にドラマの筋書きには本筋としては扱っては
いなかった戦争の残した過酷な体験が主人公の全身にしみ込んで消えることのない意識の一端
が垣間見える演出に印象が残りました。
それは、私が昭和30年代の初めに社会人一年生として初めて勤務した舞鶴での感動を思い起
こさせてくれるものであったからです。
ドラマにもありましたが当時シベリヤに抑留されていた人が故国に帰還する玄関口は舞鶴港で
した。
厳寒の地で生死をさまよい、やっとの思いで興安丸、白山丸という引上げ船で舞鶴港にたどり
着き肉親との再会を誰はばかることなく心から喜び合うシーンをその現場で何度も直に目の当
たりにして全身に震えが走るほどの感動を覚えたことを凡そ50年過ぎた今でも鮮明に記憶にあ
り、それを思い出させてくれたドラマでした。