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ぺイン様番外編 ーjokerー 最終話

2016-10-23 18:24:06 | 日記
ペイン様 番外編 ーjokerー9




「あ、あ、あいつ・・・」
「してやられたってことか」
タケは皿を拭きながら軽く笑った。

「許せないよな!静ちゃん!」
振り向くと静は無言で立ち尽くしていた。
うつむいている。前髪がすだれになっていて表情が見えない。
だが、肩がわずかに震えているようだ。
「静ちゃん・・・」
「・・・やる」
「え?」
「やってやる・・・」
「な・・・なにを・・・?もしかして法的手段か!?」
「ちげーよ!わかってねーな久納。あいつには頭脳で敵いっこないって昨日の一件でわかったろ?
仮に訴訟起こしてみろよ。あいつのバックにはジャバがついてるんだぜ?
こういう案件に強い最強弁護士を大金叩いて雇ってくるかもしれない。
わざわざテレビで社長の名前出して繋がりアピールしてんだぞ、方々へ。
あの記者会見は、そういうことも意味してんだよ」
「なっ!!!」
「・・・俺は今、モーレツに燃えている」
顔を上げた静の瞳の奥に炎がぎらついている。
「やってくれるじゃねーか、あの小僧。
『僕に射す光』なんざ、屁でもなかったと思わせる曲、作ってやるぜ!」
「おお!静ちゃん!」


「来い!久納!」
静は久納の腕を掴んで出口へ。
「ど、どこへ?」
「俺のスタジオだ!今日から合宿するから覚悟しろよ!」
「ちょっと!俺、順ちゃんとこに・・・!」
「順ちゃん、順ちゃん うっせんだよてめーはよ!」
「静ちゃん、完全に人格変わってるよ!!ちょっと!」
最初は腕を掴んでいた静だが、出口付近では久納の襟首を掴んでいた。
酒井女史の雑な扱いと大差ない。

コーヒー代を支払っていないまま乱暴に扉を閉めて二人は行ってしまった。
カウンター越しに声を掛けるタイミングを失ったマスタータケ。
「おおおい!」
カランカランと扉のベルが鳴り止むとつぶやいた。
「お前らだって結構 呆れられることしてるよぉ・・・?」








サングラスをかけると、燃費の悪そうなアメ車をふかす静。
謙虚なのは良いが、少し覇気が足りないと感じていた久納にとっては、静の変化は内心 嬉しくもあった。
こんな形で静を奮い立たせることなんて、自分には逆立ちしても出来ない。コウはとんでもないトリックスターである。
久納はシートベルトを差し込もうとしたその時、急発進したためにシートに体を打ち付けてしまった。
「ぐおっ!!!」
静に落ち着くように言おうとした次の瞬間。
人らしき影がフロントガラスに!!!

急ブレーキを踏む静。
またもや車の急な動作で車内に打ちつけられる久納。
「ぐはぁ!!!!」

すぐさまドアを開けて駆け寄る静。
「大丈夫ですか!?」
「ほら、いわんこっちゃない~!!」
久納もビビりながらもすぐに車外に出た。

品の良さそうなスーツの男性が、仰向けに呻き声を上げている。年齢は初老、体格は細身。
手元には持ち手が金に光る杖、頭上にはシルクハットが転がっている。
「意識は・・・あるようですね。
今、救急車を!!」
静が携帯電話を取り出そうと、ポケットに手を入れた。
初老の男性は「待って!」と叫んだ。
「はい!?」
「大丈夫、あなたの車で・・・病院まで連れて行ってもらえませんか?」
「なんですって!!?しかし・・・」
男性の股関節の向きがおかしいようだ。
「ダメです!こんな状態で俺たちが動かしたら、もっと大変なことに!」
静の背後から見ていた久納。
パニックになっている静に声を掛けた。
「いや・・・大丈夫・・・じゃないかな」
「久納!お前まで何言ってるんだ!?どう考えたって大丈夫じゃないだろ!」
焦る静は、自分の髪をぐしゃっと掻きむしった。
久納は男性の元にしゃがみ込み、腕を自分の肩に回した。
「静ちゃん、もう片方から支えて」
やけに冷静な久納に戸惑いながら、静は
「お・・・おう」
と反対側に回った。
せーので立ち上がる三人。

慎重に後部座席に男性を運び入れる。
「静ちゃん、運転大丈夫?俺が代わろうか?」
「いや、だいぶ落ち着いてきた。大丈夫だ」
といいながらも、一度深く深呼吸し、震えていた手を抑える静。





今度はゆっくりと安全運転で走り出した。
車内は無言。久納は男性とともに後部座席に座っている。
堪らず静が口を開いた。
「・・・すみません、ホントに俺の不注意で・・・」
男性は呻き声を上げるどころか、車外の風景を楽しんでいるような穏やかな表情。
「いやいや・・・」
さっきまでの苦しそうな表情はどこへ行ったのだろうか。


突然
「おじさんさ・・・」
何故だか親しげに男性に話しかける久納。
不審に思い、ルームミラーでちらりと後部座席を見る静。
「なにかな?」
「もしかして その足・・・自分で治せたりする?」
「おい、久納。なに失礼なこと言ってんだ?」
ルームミラー越しに注意する静。
男性は口をへの字にしてため息をついた。
「なぜそう思うんだい?」
男性は冷静に答えた。
「僕、おじさんと何処かで会ったような気がするんですよね」
久納は上半身を男性側へ向けて、片肘を後部シートに掛け、その手で頬杖をついてリラックスしたポーズだ。
初対面の年長者に向かってこのような態度をとる男ではないと、静も長い付き合いのため知っている。


訳がわからない静は、二人の会話に聞き入る。
「おじさん、普段なにやってる人ですか?」
「わたしは、あれだよ。雑誌の後ろの方によく載ってる、“付けるだけでモッテモテになるブレスレッド” を売ってる会社の社長だよ」
「ああ!あれ?!
嘘!?俺もあれ買ったことある!!」
「ハッハッ。そうかい」
男性はダンディーに笑った。
職業の内容は意外ではあったが、品がある。



「おじさん、お名前聞いてもいいです?」
男性はチラリと横目で久納を見て、
「わかったよ」
と言い、両腕を股関節に回したかと思うと
「フンッ」と勢いをつけて自分で足を治してみせた。

「うおお!すげー!!!」
思わずのけぞって声を上げる久納。
後部座席で何おきたかわからず、うろたえる静。
「なんだ?何があった!!?」

男性はスーツの内ポケットから携帯を取り出した。
「中止。ストップしてくれ」
とだけいい、シルバーのガラケーをパタンと閉じた。

そして静に、「ここいらで車を止めてくださるか?」と声を掛ける。
「は・・・はい」

歩道橋のやや手前で、車をつける。
見上げると、ショッピングモールや彼らの元所属事務所の入っている巨大ビル こまっしゃくれタワーのオーロラビジョンがあった。
先ほどのワイドショーは、まだペドノンヌの特集を流していた。

静の車の後ろにタクシーが止まった。
初老の女性がビデオカメラを手に、こちらへ歩いてくる。


「あなた、どうかしたの?中止って」
こちらの初老の女性も、品が漂っている。つばの大きな女優帽、幾何学模様のカシュクールワンピースに、ブランドのバッグらしき物を持っている。
久納は思った。
順ちゃんにせがまれてプレゼントしたバッグと形がよく似ている。あれはきっとヘルメスってやつだ!高いやつだ!!

「どうもこうもないよ。私たちの正体は、とっくに久納君にはバレているようだ。ビデオも止めなさい」
「まあ、そうなの」

久納の名前を知られていることに驚いた静。何事が起こっているのか、さっぱりわからない。
「そうだね、久納桜君」
「ええ。おじさん達はもしかして・・・」
「コウ・・・、いや、一ノ瀬 狡傑(こうけつ)の父です」
「狡傑の母です」
「なっ!!!!!」

静は驚いたが、確かに言われてみれば、二人ともコウとそっくりなキツネ目である。

「勘弁してくださいよ~。俺、コウ君と初対面の時に、おじさんと同じことされたんですよ?
彼は股関節じゃなくて、肩を脱臼させて自分で戻してましたけど」
久納は呆れたようにコウの父に愚痴る。
「ハッハッハッ。あれはうちの伝家の宝刀で・・・」
「いや、全然 威張れないですよ!
だいたい、俺は親父さんはすでに亡くなってるってコウに聞いてましたけど。
どうなってるんですか?」
「あ~、コウならそういうこと言っちゃうかもね。ハッハッハッ」
細身の紳士である実の父と、ジャバ呼ばわりされている事務所の社長は似ても似つかない。
久納を油断させる手段としてそのレベルの嘘までは理解できるが、親も平気で殺すとは。
そしてそれを笑い飛ばすこの父。
「ハハハて、お父さん。じゃあ、家族の団欒には縁がなかったっていう話は?
あれも嘘ですかね?」
今度は母親が答えた。
「縁がないもなにも、毎朝ちゃーんと私の作ったご飯食べて、元気に出勤していきますよ、あの子は」
「はあ??
っていうか、あいつまだ実家出てなかったのか!?そこそこ稼いでるのに!!?」
「そうなのよ~。とっても稼いでるらしいのに、ちっともうちにお金入れないから、じゃあ お友達にたかりにいこうって話になって!」
「それで当たり屋ですか!?証拠のビデオまで回して!!」
この親にして、この子あり。この子にして、この親ありである。
「そ。うちの子、結構稼いでるんでしょ??」
「そうですね、外車とか五六台 持ってるのかと思ってましたよ。
でもまさかの実家暮らし!」
一ノ瀬夫妻は顔を見合わせて
「これはもう、行くっきゃないわね」
「うむ」
と、なにやら決意を新たにしてる様子。




オーロラビジョンから、先ほどの会見のリプレイが流れた。
コウの声が街にこだまする。
「ペドノンヌを、どうぞよろしくお願いします!!」

画面が切り替わり、マスコミ各社へ宛てられたコウのファックスの文面が映った。
関係者やファンへの感謝、そしてここでも社長への感謝。
今後の決意が語られ、最後に
「代表取締役 一ノ瀬 狡傑」の文字。


独立の後、コウが事務所の代表となってペドノンヌを仕切っていくというのか。
狡猾の「狡」に、「抜きん出た人」の意を持つ「傑」
名前の通りの男である。
いつか、地球をまるごと飲み込む大きな狐に・・・いや鯨になるのだろう。







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小説
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