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ペイン様番外編 ーjokerー 第4話

2016-10-23 18:19:19 | 日記
ペイン様 番外編 ーjokerー4






暗く狭い通路へ出ると、階段へ向かって久納は歩き始めた。
その後ろにコウが続く。
階段の上には喫煙ゾーンがある。
一段上り始めたところで、久納が笑いながら切り出した。
「そういや俺、こないだ順ちゃんに連れらて妊婦体験したんだよ。ははっ。ウケるだろ?」
「え!!?アニキ・・・鼻の穴にスイカ詰めるとかしたんすか?
え、詰めるじゃないか!?でもホラ、鼻からスイカが出るくらい痛いとか言いません??うへ~!」
コウは身を縮めて恐れ慄いた。
「ハハハ!ちげーよ!出産体験じゃなくて妊婦体験ね。
赤ん坊くらいの重しを腹に巻いて歩いてみたんだよ。
これがまた けっこーキツイ!思ったようには動けねんだよ。こういう階段なんかは特にな。女の人は大変だよ」
「へー・・・」
「タナダもさ、多分そうなんだよ今。気をつけてやれよ。
ま、俺も嫁さんが妊娠しなければそういうの全くわからなかったから、偉そうなことはいえないけどさ」
「へ~・・・なるほどっす・・・」
楽屋で、身重のタナダに書類を持って来させようとした時のことをいいたかったのだろう。
以前の久納であれば、人前でお説教をくどくどしていたかもしれない。
コウだけでなく、久納も一つ大人になったようだ。

階段を一段一段上る久納。後ろに続く黒装束のコウ。
「守る人がいるのって、悪くないもんだぞ」
「へ?」
「お前はそういうの興味ないかもしれないけど」
「いや、興味なくはないっすよ。今は優先順位が高くないだけで」
「そうなのか、知らなかったな。一人に絞ることもありうるのか?」
なんの気なく口にした一言だったが、コウは少し怪訝そうな顔をした。
「なんだと思ってるんすかぁ?俺のことぉ」



踊り場まで来ると、先に着いた久納が古びたアルミサッシを開けて、二人は壁にもたれて並んで座った。
じきに日が暮れる。西日が弱くなりつつあった。
「まあ、俺も家族だんらんとかは、あんまり記憶にないですけどね。
“AがほしいからってBを諦めるな”って言われたのは、な~んか覚えてます」
突然コウが言った。久納はライターを差し出すと同時に尋ねる。
「なんだ?なんかのセリフみたいだな?」
「親父の遺言です。小二の時に死にました。“二兎追うものは・・・”なんてよく言いますけど、うちの親父は欲しいものは全て諦めるなって主義でしたね」
「お前、親父さん亡くなってるのか。」
コウに続いて久納も取り出したタバコに火をつけた。
「うちの親父と社長、似てるんすよね。見た目というか雰囲気というか・・・」
急に社長に親しみを感じて “オヤジさん” と呼び始めたのも、早くに父親を亡くしたのが影響しているのかと久納は思った。
「親父が亡くなった日の夜、でっかい鯨の夢を見たんです」
コウはタバコに火をつけ、軽く天井を見上げた。
「最初はこんくらい。メダカくらいの大きさだったのに、目の前にビー玉が出てきて、飲み込んだら体が一回り大きくなって。
今度はもっと大きい野球ボールが出てきて、飲み込んだら、またさらに体がでかくなるんすよ」
「じゃ、その次はサッカーボールか?」
「いや、バスケットボールだったんすけど。発想はそんな感じで合ってます。兎に角バランスボールとかガスタンクまで、丸いものならなんでも飲み込んだりして。
で、飲み込むものが大きくなるにつれて体もどんどんでかくなって、最終的には鯨になって地球を飲み込んじゃったってところで目が覚めた」
「荒唐無稽だよな、子どもの夢は特に」
久納も煙を吐いて少し笑った。
「で、その夢はBGMが流れてたんすけど、これまでどこでも聴いたことがない不思議な音色、不思議なメロディーで。
鼻歌で色んな人に聴かせてみたけど、誰もわかる人がいなかった。これまでに古今東西のあらゆる曲を調べましたけど、結局それでも見つからなかった」
「今、歌ってみろよ」
「それが、時間が経つうちにどんどん記憶が薄れて、今ではどんな曲だったか思い出せないんすよ」
「なんだよ~。テープレコーダーに録ったりすればよかったのに」
「録りましたよ!?でも、子どもの鼻歌ですから、今の自分が聴いても正直よくわからないんすよ。あれってなんなんすかね」
「まあ、似たような経験は俺もあるけどな」
「でしょ?鼻歌録音した瞬間はスゲーのがキタ!!って思うのに、時間が経つとなんじゃこれ?ってなるんですよね」
「あるある」
「鯨の夢をみた翌日に、すぐにギターを買いに行けばよかった。
あの曲にまた会いたくて、ミュージシャンになったといっても過言じゃないですね」
「ふ~ん・・・ある意味、恋だな」
「ある意味ね。だから俺の中ではAもBも諦めてるって感覚はないです。欲しいものは全部手に入れますから」
「流石だな。コウらしいと思うよ」
一際大きく煙を吐いて久納は言った。


「アニキは?アニキも最初のきっかけみたいのはあったんでしょ?」
「う~ん。憧れのアーティストがいて、それを目指したわけではないな。そこはお前と同じかな。
結構・・・成り行き?金がないから大学いけなくなったし」
コウは軽くむせた。久納は淡々と続ける。
「あとは、人生の要所要所に順ちゃんが出てきて、なんかそれに引っ張られてきた感じだな」
「えー!!ショック!極悪ペイン様伝説に10代の俺は憧れてたんすよ?
ライブやっては暴れて出禁になったりしてたんでしょ?
何、大学って!?イメージ壊れるわぁ・・・」
「客席からいきなり瓶投げ込まれて怒ったことはあるけど、毎回暴れてたら活動できないだろ?
俺、大学は本気で行きたかったよ。
娘には金のせいで将来の選択肢奪いたくないから、今からせっせと貯金してるし」
「ええ!まじすか!?聞きたくなかった~。初期の荒々しい曲作るペイン様スッゲー好きだったのに・・・。
あの頃の闘争心はどこいっちゃったんですか!?」
「いや~、初期の頃は順ちゃんとすれ違ってたから荒々しかったかもしれないな」
「も、何それ~。
順ちゃん順ちゃんて。もういいよ順ちゃんは~。ガッカリ~もう~」
コウはうなだれた。






「ところで・・・何かあるから此処に来たんだろ?」
「・・・わかります?」
「なんだよ、勿体つけずに言えよ。時間もそうないだろ」
うなだれていたコウは急にぴょこっと正座し身を乗り出した。
「明さんの好みの女ってどんなんですか?」
「はぁぁぁ???そのために二人になったのか?
結局お前はそれかい??そっちのがガッカリだよ」
「いいじゃーん!気になるじゃん!気になるじゃん!」
犬のようにはしゃいで、半笑いになりながら、久納の片腕をゆするコウ。
「なんだかんだで結局、好みの子を紙に書いたりしてたらチョーウケるじゃーん!だから知りたい!ぷくくっ」
「そういうことなら、俺は教えない。お前だって長く一緒にいたら、そういう話も一回くらいしたことあるだろ?明さんと」
「しない、しなーい!いっときますけど、アニキが抜けてから俺たちやること増えて超忙しいですよ」
「ま、それは俺も悪いとは思ってるけど。お前のいう “忙しい” ってのはジャバんちで飯食わしてもらうことも含まれての “忙しい” だろ?
気は遣うだろうけどオイシイ思いしてんだから同情の必要ねーじゃん」
「そんなこともないよぉ?不二子は不参加だから、食事会の翌日は不二子ちゃんにもめっちゃ気遣うし~」
「まあ、愛人が本拠地に踏み込むわけにもいかないからな、そうなるわな」
「アニキ、アニキ!知ってます?オヤジさんて、ああ見えて男の涙に弱いんですよ」
「は?」
「ハイ!得した!アニキ 一つ賢くなった!」
コウは左手で久納の右手を掴んで持ち上げ、winnerのポーズをとらせた。
「その情報知って、俺に一体なんの得があんだよ?」
「ねぇ、いいじゃーん?」
「ダメです」





コウは急に立ち上がった。
「ふふふ。これ、なーんだ?」
コウがおどけて笑いながら片手でA4の紙を掲げている。
「これって・・・」
久納も立ち上がって眼を凝らしてよく見ると、譜面である。タイトルは・・・
「『僕に射す光』・・・オイッ!!いつの間にお前!!」
手を伸ばして譜面を取り返そうとしたが、久納より背の高いコウがヒョイと手を伸ばしてしまったために届かない。
「いいですよね~、ちょっと見させてもらいましたけど。
繊細でそれでいて力強い。自責もありながら、受け手に慈愛も感じさせる」
「返せ!こら!」
ピョンピョン跳ねながら必死にコウの手にあるものを取り返そうとするも、いっこうに届きそうにない。
体力だけを無駄に消費してしまった久納。
息を切らせながら、コウを睨みつけた。
「まさかとは思うけど・・・お前・・・」
「欲しいっす、これ!」
キツネ目は嬉しそうに微笑んだ。



「ダメに決まってんだろ!?欲しがりにも限度があるぞ!!」
「何でも飲み込むクジラちゃんなもので限度はありませ~ん」
「ふざけるな!」
「これに比べたら大したことないでしょ」
「は?まさか・・・明さんの好み教えろって?譜面を返す代わりに!?
うわっ。なめてるな~、お前!」
コウは後ろ手にして得意げに笑っている。生意気に口笛まで吹いている。

しかしこれは、自分だけの一大事ではない。大袈裟にいえば、静の音楽人生を賭けた大事な曲である。
コウは久納のお人好しな性格を見抜いている。
おちょくってさえいる。
待てよ・・・こうなったら背に腹は代えられない!
素直な久納が嘘をつくなどと、コウは思ってもみないだろう。
目には目を、策士には策を!お前の蒔いた種だ。コウに限っては嘘も方便だ!

「明さんは・・・背が低くて・・・ぽちゃっとしてる子が好き」
「おお!」
「黒髪はないな。パーマかかってる茶髪の子ばっかりカワイイってよく言ってる。
そうだな・・・どっちかっていうとお喋り好きな明るい感じの子かな」
「これだけのデータがあれば、すぐにわかりますね!ぷぷぷ。
アニキ!あざーす!」
コウはわざとらしく小首を傾げて見せ、両手で楽譜を久納に返した。









事実は逆であった。明はストレートの黒髪、長身スレンダーの物静かな女性を好む傾向がある。





だが、これでなんとか一つ安心。
窓をさらに大きく開け、楽譜を持つ手とタバコを持つ手、両方を窓にかけて体重を乗せる久納。
「お前、明さんがどんな行動とっても笑ったりするなよ?」

返事がない。
「おい、コウ?」
振り向くとそこには、灰皿から煙が立ち上っているだけだった。
「まったく・・・あいつは」
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