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ペイン様番外編 ーjokerー 第5話

2016-10-23 18:20:33 | 日記
ペイン様 番外編 ーjokerー5




いよいよ本編がスタートした。
ファンクラブイベントというだけあって、初期の曲も本編の最中に数多く演奏された。
久納が抜けてから数ヶ月経つが、指が曲を覚えているため、聴きながらついつい手が動く。
遊が思いがけないアドリブを入れてきたりすると、「フー」と思わず声を上げてしまう。
明は照明が真っ暗で何も見えなくなった時の対策として、最近目を閉じて練習しているので、より耳に集中できるようになったという。
ジャズを聴くようになったのも影響しているのか、オカズの入れ方も以前よりバリエーションが増した。
そして、バンド全体のことでいうと、キメの揃い方が格段にレベルアップしていた。
互いにアイコンタクトを取るわけでもなく、揃うべきところで揃う瞬間を目の当たりにすると、鳥肌が立つ。
やはりこのバンドは最強だと、身内でありながら絶賛したくなる。進化し続ける彼らと共に活動していたこと心から誇りに思った。

そしてコウだが。静をはじめとして、久納の周りのギタリストは大抵が、食事と睡眠以外の時間ほとんどギターに触れている。
本番直前までタバコを吸いながら呑気に他人の色恋話に興じるコウに、「ちっとくらいミスれ」と念じてしまう久納だが、完璧なプレイにぐうの根も出ない。
人に見せないように努力するタイプなのだ。
コウのことだ、ファンクラブイベントではさぞかし前へ前へ出てくることだろう、ギターソロで二曲分くらいの時間を割くことも予想していた。
ところが、余計なアドリブは一切入れなかった。その音源に忠実すぎるプレイに違和感もあった。
今日に限っては、会場の中をきちんと見渡すのに必死だったとも言える。
だが このところ、コウのアドリブ目的で来たファンは拍子抜けしているとスタッフからも聞いている。
彼の場合は、旧来のファンを気遣って静の音を再現するようなタマでもない。
音源に忠実な演奏をするのは、それはそれでもちろん苦労があるが、彼の場合は他に何かある気がしてならない。
「忙しい」と言っていたのも冗談ではなかったということか?と、あれこれ勘ぐってしまうのであった。



二階に久納用の関係者席がある。二階に上がることはあったが席にはつかず、最後列から2曲ほど楽しんだ後に、一階に戻った。
控えのモニターで再び観客席を見るが、やはり鮮明ではない。
このライブハウスは、出演者控え室がステージの下手側にあり、下手からメンバーが出てきて、戻るときは再び下手に戻っていく構造になっていた。
会場後方の中央に扉が一つだけあり、入り口から入ってすぐ右手にドリンクカウンターがある。
久納は結局、ステージ下手袖の黒いカーテンの陰から会場を覗くことにした。
その立ち位置からだと、ステージの下手袖からドリンクカウンターへ向かう対角線上にいる観客と、上手側のみ確認することができた。
それ以上前へ出ると、最前列にいた女の子が指差して「ペイン様だ」と騒ぐので、なるべく隠れるように努めていた。
下手の後方にいる観客は残念ながら、不鮮明な控えのモニターで確認するしかない。




気になる人物がいた。ドリンクカウンターの前、最後列に立っている長身の女性。
柔らかそうな美しいストレートの黒髪ロングヘア。
だが肝心の顔は見えない。
久納と黒髪の女性を結ぶ対角線上に、巨漢のナースがいるからである。
ナースの正体は他でもない、酒井女史だった。
時代錯誤のヤマンバメイクは本人の好き好きなので置いとくとしても、まさか仕事着をコスプレにしてライブに来るとは。
酒井女史も背が高いので、その後ろにいる黒髪の女性の顔がちょうど隠れてしまう。
しかし、酒井女史よりも若干身長が高いのかヒールが高いのか、綺麗な黒髪だけはよく見える。
そしてヘッドドレスも。
時々見え隠れする肩にレースの装飾。メイドのコスプレをしているのではないかと予測する。
聴いた話によると、電気街にメイド喫茶なるものが出来、コスプレの女の子達が客を主人のように慕って もてなしてくれるという。
明はそこの常連になりつつあるそうで、服装のタイプまでぴったりではないか。
顔は分からないが、雰囲気だけでいうなら明の好み そのものである。
自分がメンバーだった頃、あのような常連のファンがいたかどうかが記憶にない。
彼女には連れがいる様子もなく、厳しいチケット争奪戦を勝ち抜きながらも最後列でひっそり楽しんでいる感じだ。



実は、酒井女史にはかなり早い段階で、舞台の袖にいることを気付かれた。
向こうから手を振ってきたので、これ幸いに、ジェスチャーで「もう少し横にずれて」と表現したが、ヤマンバナース酒井はとんちんかんなジャスチャーで返してくるばかりで、こちらの言わんとしていることは全く伝わっていないようだ。
結局、メイドの顔はわからずじまいである。




5曲目『血の絆』が終わった時のことである。
急にメンバーが控えに戻ってくることになった。
側で見ている限り 滞りなく進行していたので、久納も何事かと心配した。



「目が!目が!」
全員が控えに戻り、扉が閉まった途端、明がカボチャを勢い良く脱ぎ捨て騒ぎ始めた。
洗面台に走り、顔をゆすぐ。
「どうしたんすか!?明さん」
「明、大丈夫か?」
皆が見守る中、タオルで顔をゴシゴシこする明。
「どうもこうもねーよ、アイライナーが汗で落ちてきて、めっちゃくちゃ目にしみるから、演奏どころじゃなくなってきて・・・」
顔を上げた明の目の周りは、まだ落ちきっていないメイクの残りで黒く汚れている。
「あ!!」
今度はタナダが声を上げた。
「明さん、私のメイクポーチから筆ペン出したでしょ!??」
タナダは自分のポーチを漁りながらこの事件の経緯を推測した。
「ふ、筆ペン!?筆ペンでメイクしてたってか!!なんでそんなもん入れてんだよ!?タナダぁ!!」
「ペンケースも持ち歩くの面倒なんですもん。普通アイライナーかどうかなんて見れば分かるでしょ」
「わからねーよ!メイクポーチに長細いもの入ってたらメイク道具だと思うだろ?普通!!」
明は「長細い」のジェスチャーまで大げさに怒りを表現した。

タナダ VS 明の小競り合いに終止符を打ったのは遊。
「まぁまぁまぁまぁ。この勝負は、また別の機会に。
今は理由も告げずにお客さん待たせてる状況なんだから。ね?」
遊のいうことには誰も逆らわない。遊の人徳である。
「カボチャ君がメイク直してる間に、みんなもお化粧直しましょうってアナウンスしてくるよ」
妖艶な吸血鬼はマイクを手に取ると、マントを翻しウインクしてステージに戻って行った。


「かっこいい~・・・」
久納は惚けた顔で遊を見送る。


「明さん、目見えてなかったんすか?」
コウがいつになく真面目な顔で尋ねる。
明の目を心配してる顔をして、探りを入れたいに違いない。

「うん。筆ペン以前にさ、このカボチャの被り物、思った以上に目の部分が開いてないんだよ。
視界がめちゃくちゃ狭い。さっきも ほとんど勘で歩いてきた。」
これには久納も驚いた。これでは、マスクの隙間から見え隠れするギラついた瞳を演出する所までの明クオリティはどうなるのか!
なんという おっちょこちょい!
「嘘でしょ!?ドラム叩いてる時、まったく気づきませんでしたけど?」
「ドラムはほら、最近目つむって練習してるから。それが幸いしたな!」
「ま・・・マジですか~」
ふいにコウと目が合った。だが表情はない。

パイプ椅子に腰掛けて明は、タオルで顔以外もあちこち拭き出した。
「とりあえず、あのクジの件は一切をお前に任せるから。俺、なんも見えないしな」
「あ!そのことなんですけど!」
「お、なんだ?」
「俺、もう書いて一枚入れたんですよ」
「もう入れたのか、早いな」
久納は部屋の隅にあったボックスからクジを一枚取り出した。
まだ二つ折りの状態のままだ。
「明さんには内緒にしときたいんですよね。もう一回、カボチャ被ってもらっていいですか?」
「お、後のお楽しみってやつだな。いいぞ」
明はカボチャを再び被ってみせた。武将のように勇ましく足を開き、両手を膝に乗せ
「うん!なんも見えねー!」
と、こもった声で威勢良く報告する明。
「マジっすか。では、ここにいる皆さんにはクジをお見せします」
クジを開いて、立っている二人に黙ってクジを見せる久納。


“カボチャ柄 リボン”
と書かれていた。

コウはおそらく、会場の全体をくまなく見ていた。
久納に教えられた「小柄のぽっちゃり体型」「茶髪の女の子」がいたのかどうかも見えていたはず。
一方久納はというと、ステージの下手袖からドリンクカウンターへ向かう対角線上にいた観客と上手側のみ確認することができた。
それ以上前へ出ると、最前列で指差して「ペイン様だ」と騒ぐ女の子がいた。
そう、その子がちょうど、ソバージュの髪にオレンジ色の大きなリボンを付けた、ぽっちゃり小柄だった。
服装も特徴的で、カボチャ柄のワンピースを着ていた。そのカボチャも、ディフォルメされた可愛いカボチャでなく、妙にリアルで目に焼きついた。
おそらく、明以外のメンバーも彼女の出で立ちは記憶に残ったはずだ。
コスプレとは言い難いが かなり個性があり、特徴を捉え 彼女のみを言い表す言葉が書ければ、ステージに上げることは簡単にできそうだ。


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