ペイン様の悩み多き日々 第1話

2018-11-01 14:10:41 | 日記
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1998年6月10日

久納桜(男)がいじられるのはいつものことだった。四人の中でも背が低く、顔が幼いため、メンバーに加わった瞬間からいじられキャラだ。

「だいたいお前はさー、その髪からしてどうよ!?」といって、すっかり陽気にできあがっているリーダーの明は、ゲラゲラ笑っている。


実はガラスのハートの久納は
「そんなことないっすよぉ、そんなに変ですか?」
と明るく振る舞っていても内心傷付いていた。


遊は、そんな二人のやりとりを微笑んで見守りながら、楽しそうに飲んでいる。

静は前髪が長すぎて表情こそ見えないが、この雰囲気を楽しんでいるようだった。

「オレ、ちゃんと明さんに借りた雑誌見て研究したんすよ?遊さんのスプレーも借りて…」
ビジュアル系ロックバンドはヘアスタイルも命。それぞれが個性的な出で立ちで畳の上に寛いでいる様が、ミスマッチでなんともおかしい。


明が大爆笑するのは、久納のヘアがおかしいというより、久納のキャラがすでにそうなっているからだろう。


もちろん、いつもいつもふざけあっているわけではなく、スタジオの中では真剣勝負。意見の食いでピリピリすることも。

固定ファンは20人ほどではあるものの、着実に動員を増やしていた。

打ち上げの席では普段の緊張感を忘れ、四人が四人ともリラックスして、ときにはハメもはずす。


彼等は二階の一番奥の座敷で飲んでいた。すぐ隣のテーブルに、別の客がやってきた。いかついスーツの大男が一人、小柄な白いスーツの女性が一人、サングラスにスタジャンの小太りの男が一人。会社員といった雰囲気ではない。


それまで馬鹿騒ぎしていた明と久納も、一瞬静まったが、またすぐに騒ぎ始めた。

理由はないが、相撲をとりはじめた明と久納。静と遊は、自分のグラスだけは倒されないように確保した。

「オレ負けないっすよ!」「お前には負けねぇよ!」といって組み合う。隣のテーブルにもいくつか料理が運ばれてきた。あまり隣とも距離がないので、危険を感じた遊は「おい、ちょっと…」と声をかけたが、この二人は熱くなると止められない。自分達のテーブルの小皿もいくつか落としたが、お構いなしだった。


もう一度、遊が声をかけようとしたタイミングで、二人はバランスを崩し、なんと隣のテーブルの方へ倒れた。そのとき、女性が壁にかけた白いジャケットを久納は掴んでしまい、そのまま倒れてしまった。


ガシャーンというフロアに響き渡る大きな音をたてて、二人が崩れ落ちた後、しばし気まずい沈黙。

隣のテーブルに運ばれてきたばかりのワインやら酢豚やらが、明と久納と白いジャケットに漫画のように降り注いだ。気づけば久納など、倒れた場所がちょうど女性の膝であったため、ひざ枕状態に。


酔いが一気にさめ、気まずい雰囲気が漂う中、沈黙を破ったのは、がたいのいい大男。

「こらガキ!!なめとんのか!!」とっさに二人は正座した。が、顔に安全ピンのついた久納と、長い金髪のエクステをつけた明が正座をしたところで、反省をいまいち表現することができなかった。

女性の白いジャケットは、おかずにまみれてグチャグチャだった。「すみません!弁償します!」明が頭を下げた。見た目はやんちゃだが、中身は実は礼儀正しかった。


「バカか、このヤロ!お前なんかが弁償できるほど安い服じゃねぇんだよ」と、大男は明の胸倉をつかんだ。

男達を止めようと、持ち主の女性が口を開いたと同時に、久納がキレた。

「ちょっと!なんすかそれ?服のことは確かにうちらが悪いすけど、お前なんかが弁償できるほどって、その言い方どうなんすか?なに勝手に決めてんすか!?」と大男を小さな久納が下から睨みつけた。

「お…おい」と明が焦って止めようとするが、きかない。

「なんだとコラ?こっちはなぁ、お前らみたいに遊びで音楽やってんのと違うぞ」大男は、隅にギターが立てかけてあるのを見ていたようだ。

どうやら隣の三人組はミュージシャンか何かのようだ。お!プロかよ!と内心思ったが、ここで怯むのを見せたくない。「そ、それがおかしいっつってんすよ!オレら遊びじゃないし、そんな服何百着でも買えるくらいビッグになりますから、そんな言い方される覚えないっすよ!!」隣でうろたえている明、まばたきだけはせわしい。

そこで突然笑い出したのはジャケットの持ち主である女性だった。「アッハッハッハッ」

久納はさらに腹が立って、女性を睨んだ。…が、よく見るとものすごく可愛い。

大男への怒りで全く周りが見えていなかったが、ギョッとするほど久納の好みだった。しかし、口は「な、何がおかしいんすか!」と言っていた。

「ごめんごめん、もうさ、いいよ服なんてどうでも。ハハハ」 「でもMJさん、これ今日のために新調したやつだっておっしゃって…」大男は女性に対して低姿勢だった。女はどうみても日本人だがMJと呼ばれていた。

「いーのいーの。面白いじゃないボーヤ」 「ボーヤ?」 久納は心外だった。
「私、これでも音楽だけで食べてる人間なんだ。君たちの音は知らないけど、君の顔と今日の発言、覚えておくから、絶対私を脅かすくらいのアーティストになりなさいよ」女の目は真剣だった。この業界で生きてきた覚悟のようなものを感じた。

「や…やってやるよ!」とたんかをきった。それが精一杯だった。






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ペイン様の悩み多き日々 第2話

2018-11-01 14:10:29 | 日記
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1994年5月25日

久納と静は高校の同級生だった。二年生のときに静が、大学の学園祭に行こうと誘った。そこが、久納が第一志望にしていた国立花婿大学だったので、二つ返事でOKし、二人は学生服のまま出掛けた。

憧れのキャンパスに久納は「すっげー広い!すっげー人!すっげー道!」と、とにかくすっげー連発。ボキャブラリの少なさは、当時まだ高校生だった彼にはたいした問題ではない。が、プロのミュージシャンを目指す今となっても、たいしてレベルは上がっていない…。


この学園祭でバンド演奏をしていたのが、ペドノンヌだった。明がドラム、遊はベースボーカル、そしてモヒカン頭のタケという男がギターを弾いていた。

当時のペドノンヌはまだ、上手いとか下手とかではなく激しさでハッタリかましとけばOKという集団だった。どちらかというと男ウケしそうな音に女性が群がってくるのは、遊の容姿のためだろうか。

演奏が終わるなり、静は再び久納の腕を引っ張った。久納は大学を見るのが目的だったが、静はバンドを見るのが目的だった。シャイでなかなか話せない静のために、かわりに「メンバーに入れて下さい」というのが、今日のもう一つの目的だった。


ギターパートの男の逆立てた髪を目印に、人波をかきわけ、たどり着いたのはダンボールの積まれた狭い通路。こんなところを彼等の控室にするなんてという目で静が無言で怒っていた。

「まぁまぁ」となだめ、「彼等のプレイは確かにすごいけど、まだ音楽だけで食べてるわけじゃないんでしょ?こういう扱いも仕方ないよ」というと、静はさらに「それは違う!」といいたげな目で訴えてきた。

そうこうしていると通路の向こうから、ついさきほどギターを弾いていたモヒカンの男が、ギターを担いで歩いてきた。

「よぅ!」と、初対面なのに男は気軽に話してきた。「ど…どうも!」と頭を下げる久納。静も態度で「どうも」を表現した。

「もしかしてオレらになんか用?」
「あ、そ、そうなんです!彼をメンバーに入れてほしくて!」
「へー、ちなみにパートは?」
静とアイコンタクトをとり「ギターです!彼、高校生だけど結構弾けるんですよ!」久納は静のかわりにアピール。

「……」男はなぜか黙るので、二人とも気まずい。

「そりゃあちょうどいい!オレ今日でやめるんだわ」思わぬ言葉に二人とも廊下に響き渡る大きな声で「えーーーーー!!!」

「うん、ま、くわしい話は中の二人としなよ。じゃ、後はよろしくな!」といってギターの男は去っていった。

静の中では、このモヒカン男とカッコよくツインギターとしてステージに立っている妄想が膨らんでいたのだが、その夢は絶たれてしまった。

なんとなく、どんな顔をしていいかわからないまま、おずおずと二人は扉を開けた。

「すみませ~…ん…」中は思っていたよりきれいな視聴覚室だった。さきほどドラムを叩いていた男がこちらを見た。

「何?あ、さっき見ててくれた子だ!」とすぐに気づいてくれた。女だらけのオーディエンスの中に、長身と小さい学生服が混ざっていたのはステージから見ても目立ったのだろうか?

静は、自分を覚えてくれただけで嬉しくて赤面している。「あの…さっきギターさんが抜けたって…」 「ああ、そうそう、そうなんだよ。今日を最後にね」明は最初から気さくな男だった。

一方、歌っていた美青年はというと、まるでふてくされているかのように、壁にピッタリくっついたベンチの上で、体を向こうに向けたまま動かない。

なんとなく切り出しにくい空気だったが、思い切って「あの、メンバーにして下さい!」と二人で頭を下げた。

「………

ほら!な!オレがいった通りじゃん!」明のテンションが急に上がった。「いった通り」とは、はて?喜ぶべきかわからないまま、二人は微妙な表情を浮かべる。

「なに?もしかしてギター?」
「あ、はい」
「うぉっしゃー!で、君は?」
「え!?ボク!?ボクは…」
久納はあくまで静の代弁者のつもりだったが、さきほど「彼をメンバーにして下さい」といったつもりが、「彼を」をぬかしていたことに今ハッと気づいて焦った。

「そりゃあ、ベースでしょ」という声がきこえた。ベースボーカルをつとめていた美青年が、ようやく振り返った。「お腹すいた。何か買ってきて、ベース君」

「はい!!」と返事して、走り出した…

…なぜか久納だけ。「あれ?なんでオレだけ?」と思ったときにはすでに遅かった。
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ペイン様の悩み多き日々 第3話

2018-11-01 14:10:14 | 日記
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その夜、いつものようにボロ小屋へ帰る。久納は自分の家をボロ小屋と呼んでいた。

もっと幼い頃は、女の子のような顔と名前、その上家が貧しいという理由でいじめられたこともあったが、それも遠い過去。今は、家のボロさがバレない遠い学校へ、片道二時間かけて、拾った自転車で通っている。

家が貧しい理由は、ギャンブルで借金を作ったとか、事業に失敗したとかではなくて、単純にお父さんが働くのがあんまし好きじゃないからである。


「ただいまー」
つるっぱげで、前歯が欠けた、ステテコの似合うガリガリのおっさんが久納の父。「おう、おかえり!ムフフ」何かふくみ笑いをしている。

「…?なんだよ?」
「いやいや、なんでもねーよ。なぁ母さん?」
「ねぇ、ウフフ」と、母もこれまたふくみ笑い。貧乏なくせになぜか腹の出た、頭ボッサボサの自称“元美人”が久納の母。

将来、この二人のどちらかに似るかと思うとぞっとするのである。


「なんだよキモいなぁ…。オレ先にシャワー浴びるから」
「おおっと、おいおい」
「なんだよ」
「笑ってるわけを知りたいじゃろ?」
「も~、話したいならはじめっから話せっつーの」

両親は仲睦まじく見つめ合ってから、「お前の大学の話じゃけどな」
「ああ、国立だったらなんとか行ってもいいんだろ?」
「あれ、諦めてくれ」
「はぁ~~~~!!?お前なに言っちゃってんだよ!?オレ、バイトしながら勉強してきたんだぞ?先生だって、この調子でいけば大丈夫だろうって」
「まぁ、それはそれ」
「それはそれ、ぢゃねーよ!!」
おかんも一緒になってクスクス笑っている。ずっとおかしな両親だとは思ってきたが、ここまでクレイジーだとは、改めて驚く。

「じゃあ、その理由をきかせろよ!その内容によっては、今回はオレもひかねーぞ!」
「じゃあ、母さんから」
「え?ヤダー」と、この期におよんでまだイチャイチャしているので「はーや゛ーくーしろ゛!!」ちゃぶ台をダンダン叩いた。

「実はね」
「おお」
「赤ちゃんができたの!キャー!言っちゃった!」
「はああぁ!!?」
二人はさらに大盛り上がり。予想だにしなかった理由に、久納は動きが止まる。

赤ん坊…オレの弟か妹か。え?オレの?オレがアニキ? まるで初めて子を授かった父親の心境になっていた。

こうして久納の大学行きの夢は絶たれた。しかし、悩んでいる間もない。お腹の子は確実にどんどん大きくなっていく。遊びでバンドマンをやる余裕はない。プロになる決意をしたのはこのとき。まだ楽器も触ったことがない時点で、久納の将来は決まった。


バンド加入が決定してから、少しでも多くの時間を練習とバイトに使えるようにと、久納はボーカル遊の家に居候させてもらうことになった。

遊の借りているマンションは、2LDK。物置になっていた部屋を、久納のために空けてくれた。しかし、都内でお金のないバンドマンがこの部屋を借りるのは容易なことではないだろう。一度そのことを遊に尋ねてみたが「ウフフ」と笑っているだけだったので、謎のスポンサーがいるという結論に留めた。

遊は、ミステリアスで得体のしれない所があるが、人のやることにとやかくいうタイプではないし、音楽のことも時間の許す限り丁寧に教えてくれるので、一緒に暮らすパートナーとしては最高だった。

多少、共同スペースを散らかしても、何の問題もないという風に、すべてさらっと流してくれる。ステージでの獣のようなシャウト以外は、穏やかで優しい青年だ。

だが、問題が一つあった。共同生活が始まってまだ日も浅い頃、バイトから帰った久納が「ただいま」とドアを開けると、玄関入ってすぐのところに、上半身のはだけたお姉さんと、それに覆いかぶさる遊がいた。

驚きのあまり、動くことができず、久納が固まっていると、「あ~……
美咲ちゃんです」 といつもと同じゆったりしたテンポで紹介された。美咲ちゃんは、床に倒れたまま「どうも」といった。久納も「ど、どうも」と返した。

二人は
「えーと。…よければ、ご一緒に」
と誘う
「お断りいたします!」と勢いよく扉を閉めてその場から逃げた。走り出した久納は、初体験が“三人ご一緒”なんて
「絶対に嫌だー!!!」
と叫びながら、そのまま町内を走り回った。

ボロアパートの二階から、タンクトップのマッチョが顔を出し、「うるせーぞガキ!!」といって投げてきた空き缶が頭に命中。これがバンドマン生活のスタートだった。
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ペイン様の悩み多き日々 第4話

2018-11-01 14:10:01 | 日記
1998年12月4日

ペドノンヌは、都内にある複数のライブハウスに出演するが、中でもライブハウスYOKOSHIMAは、店のスタッフさんと仲がいいので、すっかり馴染みの出演者になっていた。

「この日はメンツが足りないから出てくれよ」と頼まれることもある。だが、ビジュアルのイベントばかりがあるわけではない。出演してみたら“初心者歓迎!高校生コピーバンド大会”で、浮きまくってしまい 「波さん騙したでしょー!オレたちのこと!」 なんて、つめよることもしばしば。

そんなとき波さんは決まって「違うよ!お前達はビジュアル系というジャンルを越えて評価されるやつらだって思うから、あえて他ジャンルにも誘ってんだよ!」などと、言い訳にもならないことをいう。

しかし、ピュアな久納などは、すっかりその言葉を信じて「そこまでいうなら、今日はさらに気合い入れるぞ!」と意気込んでしまう。そんな日に限って、化粧のケの字もない汗くさいイベントで、怖いお兄さんたちが客席の前列を固めていたりする。

突然客席からコーラの瓶が投げられたことがあった。それを遊はマトリックスのように優雅によけて、真後にいた明に直撃した。などという話も、このライブハウスでの語り種になっている。その後、明は反撃することもできずにひっくり返って悶えたが、ベースをコーラの兄ちゃんに投げ付けて反撃するやつがいた。久納だった。

あとはもう、客席もステージも関係なくもみくちゃになった。真冬のYOKOSHIMAの前で、ペドノンヌ四人並んで正座をさせられたとか。

誰になんと言われようと「オレは悪くない。何も悪いことなんてしてない!」と言い張って仏頂面していた久納。だが、たった一言、普段は無口で全く言葉を発することのない静が、「楽器は投げるためのもんじゃない」と言ったのにはグサリときた。

そのあとは静かに正座していた。店に迷惑をかけたのは自分なのに、他の三人も一緒にここにいてくれるありがたさに初めて気づいた。

お向かいのコンビニから出てくる人達が、いぶかしげに彼等を見て去っていく。コンビニの自動ドアが開く度に中からきこえてくるのは、アイドルユニット“チェリーキス”の『抱きしめてクリスマスナイト』だった。



二日後の練習で

「どうした?久納」
「妹さんのことでしょ?杏雅(あんが)ちゃんだっけ?」
「…はい」久納は元気なく答える。
「なんだなんだ、それくらいのことで」
「何をお願いされたんだっけ?」
「たまきちゃんに会いたいって」
「もしかしてアイドルのチェリーキスの?」
「はい。なんか最近、抱き上げてもチューしてくれなくなって…」
「あら~、ラブラブだったのね。ちょうど自我が芽生え始める頃だから、色々主張もするかもね」
「自我が芽生えたっていうならいいんですけど、なんか、怒りっぽくて。どこ行くの?なんで昨日遅かったの?って、実家に帰ればそんな調子で…。杏雅をおぶりながらハードロックばっかり聴かせてたのが、まさか影響してる!?」

「考えすぎだろ!妹っつーか嫁じゃん、それ」明は笑ったが、遊は
「できるだけ長い時間、一緒にいたいんでしょうね。彼女なりの表現なんだよきっと」と、同情の眼差し。

「女の子って、あんな小さいうちから、難しいもんなんですね。」ため息をつく久納。
「久納ちゃんは女を知らないからね」ケケケと明がからかう。
「そこはほっといて下さいよ!!」
「あら?久納ちゃんまだだったの?」遊の慈愛に満ちた顔の方が、なぜか明の言葉より傷付く。

「一昨日、杏雅のダンスを見てあげる約束だったけど、あんなこともあったし、実家に帰るの遅くなっちゃって。たまきちゃんに会わせてくれたら許してあげるって」
「完全に杏雅はお前の弱点だな。会わせてやりゃいいじゃん!」
「どうやって?」
「オレ達プロになるんだからさ、いつかは会えるに決まってんじゃん!」
明は本当にそういうことをあっさり言うやつだ。


「オレはチェリーキスだったら、たまきちゃんより、れおなちゃんの方が好みかな…」と、遊が遠い目をしている。遊がこう言うと、本当にれおなちゃんがこの男の手に落ちそうな気がするからすごい。

「遊さんてスゴイっすよね!どうしたらそんなにモテるんすか?」早く彼女の一人でもほしい久納は切実だ。

「遊にそれをきくかね」明はすかさずつっこむ。呼吸をするように自然に新しい女性が次から次へと現れる遊に、極意なんてあってたまるかといいたげ。

遊は静かに微笑んで言った。「僕の好きな本にこんな言葉があって…この世の全ての女性が自分のものだと思えば、何も不自由に感じることはない…と」

「マ・ジ・ひ・く・わー!どんな本読んでんだよ!」と明は大爆笑。久納はメモをとらんばかりに熱心にきいている。
「久納ちゃん、君のほしい女性はすでに、君の手の中にいる」 遊先生から指南のお言葉。
「まじっすか!?うっそー!!」

生まれつきモテる男と、生まれつき女心のわからない男は、このまま平行線をたどって、互いの気持ちなんて永遠にわからないんじゃないだろうか…と、明と静は仏のように目を細めて見守った。


「久納ってさ、例えばチェリーキスのメンバーだったら、どの子が好みなんだよ?」
「えー、かれんちゃんもカワイイし、のんちゃんも好きだなぁ」
「お前ロリ系好きなんじゃね?AVとかも妹系とか幼妻系ばっかり借りて、ビデオ屋に顔覚えられてそー!」 といってまた明大爆笑。つられて遊と静も笑った。

「なんでそこで爆笑なんだよ!いいじゃん幼顔っ!」
「そんじゃあさ、逆に幼顔なら、結構年いっててもいいの?」遊がのってきた。
「そりゃあ…まぁ確かにそうかも…」
「じゃあ、こないだの飲み屋の女は!?久納が服汚した人!!」
「っっはぁ!!?」
「あー、今なんか反応よすぎたよね?」遊もなぜか嬉しそう。
「お前あの女タイプなんだろ!?」
「ちげーよ!!」
「うそつけコノヤロー、そうかそうか、あの人か」
どれだけ否定しても余計冷やかされるので抵抗をやめた。なんで顔が幼いというだけでタイプだとかいわれなきゃいけないのか…


でも待てよ。オレ実はあの人のこと…?いやいや!!そんなことはありえない。そんな久納がいた。
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ペイン様の悩み多き日々 第5話

2018-11-01 14:09:47 | 日記
1999年2月24日

「モヒカンのくせにこんないい店建てたのかよ!」
明は今日も大爆笑。
「くせにってなんだよ、ほめろよもっと」

和み系のカラーで統一されたセンス溢れるカフェレストラン。メニューも豊富で、寛げる雰囲気。

「なんだよお前、花とか飾っちゃてさぁ」
明はまだ涙を出して笑っている。
「おぉい、店の空気こわすなら帰れよ」
とモヒカンにエプロン姿で皿を拭く店主。ペドノンヌの元ギター、タケである。その髪型が一番店から浮いてますけど…と、久納はひそかに思ったが口には出さず、黙ってシュガースティック二本入りのカフェ ラテをすすった。

「確かにまあ、俺達はちょっと場違いかもねぇ」
と遊はブラックのコーヒーをすすった。

「そうだ。俺達今度、ラジオに出ることになったんだよね~。惜しいよなぁ、タケもあと少しいればラジオに出れたかもしれないのにぃ」
と、明がちょっと意地悪そうにいった。しかしタケは
「そうか、すげーじゃん!」
と、喜んでいた。
「お前らのサインとか、店に飾らないとな」

こだわりの家具や食器を見ても、タケが本当に熱望してこの店を開いたことがよくわかる。バンドに未練はないらしい。だから抜ける日もあんなに爽やかな笑顔だったのかと、久納は合点がいった。

「あれ?あのサイン…」
遊が店を見渡してつぶやいた。
「ああ、あれね、こないだうちの店に来てくれたんだ。」
「えー、チェリーキスが?あれがのんちゃんで…あっちがれおなちゃんか。こんな所に来るんだ?」
無意識なのか明はタケに対して、ちょっとトゲがある。

「こんなところとは失礼な!なんか事務所がここから近いらしいぜ」
「うおーすげー!ここに通ったら会えるかもしれないっすね!」
久納は結構ミーハー。
「何はしゃいでんだよお前は。その前に、実力で歌番組に出れば会えるの!」明がいつになくプロっぽい発言をした。



久納のバイト先は居酒屋“酔いどれエトワール”。有名人のサインはあるが、大昔の横綱や、きいたこともない落語の師匠のサイン。
「あーあ、オレもタケさんところで働こうかな…」
「え!久納君ここやめちゃうの?」
大きな瞳をさらに大きく見開いて舞が佇んでいた。 レジ下の棚に灰皿を補充に来た彼女は、偶然久納のボヤキを耳にしてしまった。
「あ、いや!別にそういうわけじゃないよ!」
女の子にあまり免疫のない久納は、話し掛けられただけで焦る。

「久納君、バンドやってるんだってね」
「あ、ああ、まあ」
「すごーい、見てみたいなぁ」
「いや、そんなたいしたもんじゃ…」

バイトのメンバーで全員合わせると10人ほどだが、舞はその中でもマドンナ的存在だった。

「見に行ってもいい?」
「え!それは嬉しいけど…なんていうかちょっと…」
「ダメなの?」
ファンはファンでかわいいのだが、舞がペドノンヌファンの中にいるのは、ちょっと想像ができない。

ペドノンヌファンには熱狂的な子達も増えてきており、久納を“様”づけで呼ぶ子もいる。いつもバイトモードで会っている人に、様で呼ばれている自分を見られるのは、正直恥ずかしかった。

「ま、舞ちゃんがバイト入る曜日とライブ、かぶる確率高いから、しばらくは難しそうだな~」
「え…そうなんだ」
自分のステージを見れないことで、マドンナががっかりしている。なんだかちょっと嬉しい。

「あ…、そうだ。久納君そういえば、今度バイトのみんなで遊びに行こうって話きいた?」
「え、はじめてきいたな」
「えー、そうだった?今度の火曜日のお昼に、こまっしゃくれタワーに行こうって、みんなで話してるんだ!久納君も行こうよ!」
「あ、そうなんだ」
「男の子たちいわく、アイドルのチェリーキスが来るらしいよ」
「え!チェリーキス!?」
「久納君も好きなの?やっぱり」
「い…いやぁ、人並みに知ってる程度だけど、見れたら得だよね」
ミーハーな自分を押し隠している。

そこへ客が入ってきた。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
舞は客を案内するために奥へ歩いていったが、一度振り返って口パクで
「ぜったい行こうね」
といった。
うーむ、何着て行こうか…


その晩、久納が歯を磨いていると、遊がゆるりと現れて一言
「チューぐらいしちゃいなさいよ」
と言った。ちょうど口に水をふくんだところだったので、ブッとふいてしまった。

「ゴホッゴホッ、なんなんすかいきなり!?」
「デートの約束をしたって顔に書いてあるよ」
「違いますよぉ!デートじゃなくて、その他も同行です」
「あー、でもやっぱり女の子と遊ぶ約束あるんだ」
「え!」
やられた。遊にはかなわない。
「キャッハー!クローゼットから服を引っ張り出しては あてて、引っ張り出しては あてて…」
「み!見てたんすか!?」
「あ、ホントにそうだったんだ?」 がくっ

「なんか隣からガサガサきこえると思ってた。ま、頑張ってね」
「だからみんなで遊ぶだけっすよ~」
とはいいつつも内心、何かの拍子に二人きりになったらちょっと楽しいことになりそうだと妄想していた。


「ワタシ、いつも久納君と働いてて、楽しいなって思ってたの。よかったら私と…」
「舞ちゃん、オレだって…」
などと妄想の中の舞ちゃんとデートをしていると、再び遊がニュッと現れて
「オレのアクセサリー、よかったら貸してやるよ」
「うおぉ!!ビックリした!!」
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