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東京町田の駅の近く、古い商店街の中に富澤商店という乾物や製菓材料を売る店があります。もともとは乾物屋だったらしく、そろそろ100年を迎えるお店です。私が、この富澤商店を訪れたのは、息子が町田に住んでいた時、もう17年程前になります。そう人通りの多くない一角に主婦の出入りの多い店があります。間口は広く、軒の低いいかにも古い商家という造り、人の多さにつられて入ったのが初まりでした。豆好きの私です、豆の新鮮さ、種類の多さに圧倒されました。大豆ひとつとっても幾種類かあります。しかも、それぞれの特徴が袋に書かれています。息子が町田に住んだ10年近くの間、帰京する度必ず訪れた富澤商店です。
その富澤商店が、日本各地に店を出すようになりました。ここ数年のことのように思います。わざわざ町田まで行かなくても、都内の至る所で富澤商店を見かけるようになりました。そして、ついにここ香港にも昨年の秋口に独立店舗ではありませんが、日系のシティースーパーの中にコーナーが出来ました。
香港の女性は料理が出来ないことで有名です。料理などするよりは結婚しても外で働く方を選びます。ところが10年程前から、密かに菓子作りがブームとなりました。じわじわ浸透して来ています。菓子の材料、器具を売る店もポツポツできています。そこに、昨今のホームベーカリーの売れ行きは荒ましく、いまではパン作りまで流行しています。香港の富澤商店は、そうした香港の事情をよくご存知で、売っているのは製菓製パン材料ばかりです。乾物は売られていません。
25年以上前の香港、着いてすぐパンを焼こうと、イーストを探しに出かけました。パン屋が一杯あるからイーストを売っていそうですが、家庭でパンなど焼くことがほとんどないらしく、イーストひとつ随分探しました。強力粉にいたっても同じ事情です。広東語もろくに解らない頃でしたから、尚更、大変だった記憶があります。
香港の富澤商店のパン用の小麦粉は、日本の小麦を使ったものから、富澤オリジナルのブランドものまで揃っています。すぐにでも買いたかったのですが、我が家のストック置き場には、強力粉が山のようにありました。日清のものからフランス、アメリカあらゆる国も強力粉が蓄えられていました。粉も古くなります。やっと底が見えて来たので、勇んでシティースーパーに出かけました。お目当ては、北海道の小麦で作った強力粉とフランスパン用の強力粉です。日清製粉のリスドゥル。 まだ日本にいた頃、初めてフランスパンを焼いたとき使ったのがこのリスドォルでした。まさか、香港でこのリスドォルが手に入るようになるとは思いもよりませんでした。食パンもフランスパンも沢山沢山失敗したものだと思い出します。
富澤商店の地道な仕事ぶり、販路の拡大、目を見張ります。良いものを自信を持って親切に売っているお店です。 豆類は、まだ香港に入ってくる気配がありません。我が家のストックには、主人が帰京の度に買って来てくれる富澤のお豆があります。
考えてみれば、香港でのこの何十年かの菓子作り、パン作りは大変な思いがありました。揃わない材料を工夫しながら、世界各地の強力粉を使ったことは、私にとっていい勉強になったと思います。最近になって主人が私の焼いたパンや菓子を食べてくれるようになりました。つまり、長いこと自分のためだけに焼き続けて来たパンや菓子です。今になって、続けて来たことが良かったとつくづく思います。