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天国と地獄 #156

2004-12-30 | た行映画
1963年 日本 143分 黒澤明監督

公開当時の日本は、新幹線が開通する直前で高度成長期真っ盛り、貧富の差が生じてきた頃であった。タイトルが表す天国は富、地獄は貧を表していると単純に思うが、そこに至るまでの過程という意味においては生まれながらの不公平、理不尽な世界なんかを示しているのであろう。極端に言えば、生まれてきた時点で天国を生きる人間と地獄を生きる人間がいる、この世は天国と地獄が同居してる、ということなのかもしれない。

物語はおおまかに前半と後半に分かれる。ナショナルシューズの専務、権藤(三船敏郎)が、自社の方向性に疑問を持ち、社長の椅子を狙い、たたき上げの財産を用意していた。ちょうどそこへ誘拐犯人からの電話がかかるが、誘拐されたのは運転手(佐田豊)の息子であった。金を払えば全てを失うという状況の中、刑事と共に身代金とともに特急こだまに乗り込む。というのが前半。

権藤は苦労して現在の位置を築いた苦労人であり、その豪華な家や美人妻はその努力の象徴でもあるわけであるが、当の本人以外は事件に関しては客観的で、ここまでに誘拐事件を通して関わる人々の人間模様が皮肉を込めて描かれる。

自分の子どもじゃなかった、金は払わん、と一度は決意する権藤。重役サイドに付くか、権藤サイドに付くか打算的に客観視している権藤の腹心・河西(三橋達也)。助けたいと言う妻に、お前は贅沢しか知らないからわからない、と言う権藤。さあ、社長の座がもう少しという天国から一転、地位も財も失うという地獄へと叩き落されるわけだ。

後半は犯人を追い詰める刑事(仲代達也)にスポットが当たる。科学捜査なんて無い時代に、一つ一つの手掛かりから犯人像を絞っていく姿と、刑事たちのブリーフィング(捜査会議)をじっくりと見せていく。犯人からの電話のテープに入っていた電車の音から路線を、子どもの書いた景色の記憶の絵から監禁場所を、車の付着物から魚市場を、と。
最後は燃えたら色付きの煙がでるように細工していた受け渡し用のカバンから出た煙(そこだけはパートカラーで見せている)から犯人の割り出しに成功する。

ここでは捜査を通じてこの時代に生きる人々を描写している。麻薬中毒者が道路に溢れていたり、中毒者住居みたいなのがあったりする。犯人竹内(山崎努)は麻薬中毒者をモノのように扱い、使い捨てで麻薬を与えてショック死させる。ここまでひどい地獄絵図が本当に存在したのかは不明だが、権藤家を見上げる丘の下に住んで、下から権藤の家を眺めているうちに憎悪に変わっていった、という動機には、不条理を超えたやるせなさがある。

今捕まえてもせいぜい(求刑)15年、被害者の損害は終身刑並だ、とさらに犯人を泳がせてから逮捕する刑事。お金は権藤に戻るが、家はすでに債権者の手に。がらんとした部屋の中、債権者の事務的な明るさと、世論に押され権藤を重役として迎えに来る河西を追い返す権藤の姿がある。天国を離れようとしているかのように。

さて、ラストシーンで犯人と権藤は留置所で檻越しに対峙するのだが、どちらか一方をカメラが捕らえるともう一方がガラスに映っているという手法を用いて会話が記録されている。生まれてから地獄には慣れている、死刑は怖くないという竹内。一方権藤は他の靴メーカーでナショナルシューズを超えようとまた地道に這い上がっていこうとする。

天国の象徴として描かれている権藤は決して悪人ではない。むしろ自分の思いをしっかり持った英雄的な存在だ。しかし、立場が変わるだけで部下はついてこないし、全然知らない男からは恨まれる。不幸な人間から見ると幸福な人間が不幸になっていくのを見るのは嬉しいんだ、と言い切る竹内を権藤は何を思って見つめていたのだろうか?

時は流れて40年、「一億総中流」時代を経て、現在はまた貧富の差が拡大してきていると言われているが、この映画が今見ても全然色褪せていないのはそのためだけではないだろう。

ちょい役に意外な人が出てて、老いた工夫役の東野英治郎と債権者役の西村晃の初代&二代目の水戸黄門もこっそり競演! 麻薬患者で菅井きんなどなど。

allcinema天国と地獄
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6 コメント

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渡辺の覚醒 (フィジカルプランナー社長)
2005-01-12 01:45:05
確かに、一度成功したやり方というのはどれだけ年月を重ねても恋しい。



がしかし、人は限られた生の中を瞬間的な生死を繰り返しながら衰えていくし、それを促しているのは、一時として止まることの無い社会や環境、時の流れだ。



ということは、一度手にした実感はすぐさま捨て去るか、全力で否定し、新たな実感を模索しなくてはならないってことなのかな。



その模索する姿こそが唯一の実感ともいえるのかもしれない。



確かにそういう姿勢で、「人」を捕らえることができなければ、癒しは与えられないだろう。

人は間違いなく一人一人違うし、同じ人間でもその時々によって驚くほど違う肉体と心理をみせる。



だからこそ、それを扱う人間には常に覚醒していることが求められる。

昨日の法則を全力で否定しながら、その都度適した法則を探す姿勢を失わないことがただ一つの答えともいえる。





黒澤明監督の「生きる」に登場する志村喬扮する渡辺は、余命を知らされて初めて作業しかこなしていない公務員生活を見直すことになる。



特筆するまでもなく誰にでも訪れる「終わり」を認識することは、今日の日が暮れるのと同じくらい当たり前のことだ。



にもかかわらず今日も僕は、しなくてはいけないことしかこなしていない。



先は長いね。



いや、短いのか。

はじめまして (丞相)
2005-02-22 21:48:11
TB&コメントありがとうございます。

ほんとうに見どころがありすぎて困るくらいの傑作ですよね。

「殺人の追憶」も緊迫感はかなりのものです。ぜひご覧になってください。韓国映画の最高峰に位置するのは間違いない作品です。

Unknown (映画のせかいマスター)
2005-02-23 19:11:03
こちらにもお越しいただきありがとうございます。マイブームとなっている黒澤映画を語ることができて嬉しいです。社会問題あり、風刺あり、推理ありと盛りだくさんでしたね。タイトルといい内容といい分析しだせばきりが無いですが、それもまた楽しみのうちですね。また黒澤映画入門シリーズを楽しみにしています。では!
こんにちわ!! (Kaworinlove55)
2005-05-16 18:22:24
TB&コメントありがとうございました^^

40年たった今も楽しめるのはホント凄いですね!!

ここまで熱中できたのはわかりやすい展開と

テンポのよさにあるのでしょうかね?

映画のせかいマスターさんの書かれた通り

40年たってまた貧富の差の拡大にも関係しているでしょうね。

では、こちらからもTBさせて頂きます!!!
はじめまして! (Jannita)
2005-08-26 08:18:54
はじめてトラックバック&コメントさせていただきました。

『天国と地獄』イイですね~!仲代達也、カッコいい。あの人、まばたきしないんですよね…。(笑)あの何かを抑えながらっぽい声の、平坦な調子の話し方がいい。

この映画では警察が異様にカッコよく見えましたね。

追伸このブログを当方のリンクにくわえさせていただきました。こちらの方にも是非遊びに来てください。

ありがとうございました。
Unknown (映画のせかいマスター)
2005-08-26 17:24:49
Jannitaさん、コメント、TBありがとうございました。黒澤作品と言えば三船さん、で仲代さんの方はあまり評価が高くないように思いますが、いいですよねー。今も元気な姿を見ることができると言うのもgood!です。(できれば三船敏郎をリアルタイムで見たかった)



リンクもありがとうございます。当ブログは現在

http://eiganosekai.seesaa.net/

に移転して続行しています。こちらもよろしくお願いします。

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